王国の剣
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世界を喰らい尽くす暴食の王は、少女との誓いだけは喰い尽くさない。
孤独な復讐の少女と、不器用な悪魔の王が紡ぐダークファンタジー、どうぞ最後までお楽しみください!
死者は――ゼロだった。
演習場にざわめきが広がる。
教師たちが何度も確認している。
「本当に全員か!?」
「は、はい! 負傷者はいますが……死者は一人も……!」
「そんな馬鹿な……」
誰も信じていなかった。
深紅の霧。
悪魔の群れ。
上位悪魔。
あの地獄で。
死者ゼロ。
あり得ない。
奇跡。
いや。
むしろ、不気味だった。
エレナはゆっくり目を開く。
青空だった。
昨日の赤い空が嘘みたいに。
「……ここは」
身体が重い。
全身が軋む。
少し動くだけで痛みが走った。
最後の記憶を探る。
黒炎。
飢え。
深紅の瞳。
そして。
あの“王”。
『――我が契約者よ』
そこで途切れていた。
肩の上で羽音が鳴る。
ブゥン。
小さい。
腹立たしい音。
見る。
赤い目。
黒い羽。
いつもの羽虫。
なのに。
今は妙に不気味だった。
「……お前」
『何だ』
「何があった」
沈黙。
わずかな羽音。
『少し食った』
「何を」
『色々だ』
胡散臭い。
ものすごく。
エレナは周囲を見る。
抉れた地面。
焼け焦げた跡。
悪魔の死体。
戦場の跡。
なのに。
人の死体だけがない。
一つも。
背筋が寒くなる。
「……本当に、お前がやったの」
羽音が鳴る。
『知らぬ』
即答。
絶対に嘘だ。
だが。
それ以上に。
エレナは別のことが気になっていた。
胸の奥。
まだ熱い。
飢えが残っている。
悪魔を見た瞬間。
また喰いたくなる気がした。
吐き気が込み上げる。
その時だった。
周囲の生徒たちが、エレナに気づく。
そして。
一斉に後退った。
まるで化け物を見るように。
「ひっ……」
「目……」
「深紅だ……」
エレナの心臓が跳ねる。
「……え」
近くに落ちていた剣。
そこに映った顔を見て。
息が止まった。
赤い。
瞳が。
血みたいに深い。
悪魔の目だった。
「……っ」
気持ち悪い。
鏡の中のそれは、自分じゃない。
まるで。
あの夜に見た悪魔みたいだった。
思わず剣を落とす。
ガラン、と音が響く。
肩の上で羽音が鳴った。
『似合っているぞ』
「嬉しくない……!」
声が震える。
本気で。
怖かった。
このまま戻れなくなる気がした。
人間じゃなくなる。
そんな感覚が、肌に張りついて離れない。
その時。
空気が変わる。
ざわめきが止んだ。
教師たちが道を開ける。
重い靴音。
カツン。
カツン。
白銀の鎧。
純白の外套。
胸に刻まれた六枚翼。
王国騎士団。
その頂点。
セラフィム。
誰かが呟く。
「……天使の剣」
銀髪の女性だった。
美しい。
だが。
それ以上に圧倒的だった。
空気そのものが張り詰める。
強い。
理屈じゃない。
本能が理解する。
勝てない。
絶対に。
セラフィムは演習場を見渡す。
悪魔の死体。
破壊された地面。
そして。
エレナを見る。
蒼い瞳。
深紅の瞳。
視線が交差した瞬間。
エレナの呼吸が止まりそうになる。
見透かされる。
そんな感覚。
長い沈黙。
やがて。
セラフィムは小さく呟いた。
「……不可解だ」
その声には困惑が混じっていた。
奇跡を見る目ではない。
理解不能な災害を見る目。
「死者ゼロ。上位悪魔の消失。そして、その瞳」
蒼い瞳が細まる。
「本当に、人間か?」
周囲が凍りついた。
エレナの胸が痛む。
違う。
自分は人間だ。
そう叫びたかった。
なのに。
さっき鏡に映った赤い瞳が、頭から離れない。
セラフィムは背を向ける。
純白の外套が揺れた。
「明日、再契約の儀を執り行う」
演習場がざわつく。
再契約。
本来、一度しか許されない儀式。
前例は極めて少ない。
教師たちが息を呑む。
生徒たちが顔を見合わせる。
エレナだけが拳を握った。
まただ。
また期待してしまう。
愚かだ。
何も変わっていないのに。
それでも。
騎士になりたかった。
今でも。
心の底から。
肩の上で羽音が鳴る。
ブゥン。
『案ずるな』
珍しく。
ベルゼブブの方から口を開いた。
エレナは睨む。
「慰めてるつもり?」
『違う』
短い声。
『天使に見る目がないだけだ』
一瞬。
エレナは固まる。
そして。
「お前が言うな!!」
怒声が演習場に響いた。
だが。
羽虫は何も答えない。
ただ小さく。
羽音だけを鳴らしていた。
ブゥン。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
少女と悪魔が仕掛ける偽りの世界への反逆劇を、ぜひ明日も見届けてください!
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