王
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世界を喰らい尽くす暴食の王は、少女との誓いだけは喰い尽くさない。
孤独な復讐の少女と、不器用な悪魔の王が紡ぐダークファンタジー、どうぞ最後までお楽しみください!
深紅の霧が震えた。
違う。
怯えている。
悪魔たちが、一斉に後退った。
「来るな……」
誰かが掠れた声を漏らす。
「嘘だ……」
「なぜ、この世界に……」
牙が鳴る。
爪が震える。
悪魔が。
恐怖していた。
エレナは眉をひそめる。
理解できない。
悪魔が怯える存在など、想像したこともなかった。
霧が割れる。
ゆっくりと。
まるで王のために道を開けるみたいに。
そこにいた。
黒い外套。
漆黒の髪。
深紅の瞳。
整いすぎた顔立ち。
美しい。
だが。
その瞬間。
エレナの背筋に悪寒が走った。
冷たい。
空気が。
息が詰まる。
本能が叫んでいた。
――あれは駄目だ。
――人の側にいていいものじゃない。
男が一歩、踏み出す。
それだけで。
周囲の悪魔たちが崩れ落ちた。
「ひ……」
「やめ……」
涙を流しながら命乞いする悪魔もいた。
だが。
男は見向きもしない。
赤い瞳が、静かに悪魔たちを見下ろす。
「見苦しい」
静かな声。
次の瞬間。
悪魔たちの身体が弾け飛んだ。
血が舞う。
肉が潰れる。
何をされたのか分からない。
ただ。
一瞬だった。
エレナの呼吸が止まる。
強い。
そんな言葉では足りない。
圧倒的。
存在そのものが違う。
男の視線が動く。
エレナを見る。
違う。
肩の上。
羽虫。
赤い目。
黒い羽。
その瞬間。
男の顔から血の気が引いた。
初めて。
感情が見えた。
驚愕。
畏怖。
そして。
恐れ。
男が膝をつく。
地面へ。
深く。
深く頭を垂れた。
「……ベルゼブブ様」
空気が凍った。
エレナの肩の上。
小さな羽虫が羽を鳴らす。
ブゥン。
『久しいな』
たったそれだけ。
だが。
男の肩が震えた。
悪魔が汗を流している。
恐怖で。
「まさか……本当に生きておられたとは……」
『我は簡単には滅びぬ』
静かな声。
感情が薄い。
まるで。
世界の理を語るみたいに。
男が顔を歪める。
「ですが、そのお姿は……」
沈黙。
羽音だけが響く。
ブゥン。
小さい。
なのに。
なぜか空気が重い。
「まだ……続けておられるのですか」
男の声が震えていた。
『あぁ』
短い返答。
男が苦しそうに目を閉じる。
「なぜです」
絞り出すような声。
「人間は愚かだ」
「弱い」
「裏切る」
「忘れる」
「救われたことすら忘れる」
言葉が重なる。
まるで自分に言い聞かせるように。
「なのに、なぜ――」
羽音が鳴る。
『知っている』
男の言葉を肯定するように。
『愚かだ』
『脆い』
『救う価値など、本来ない』
エレナの肩が震える。
その声には。
嫌悪も。
怒りも。
優しさもなかった。
ただ事実を述べているだけだった。
それが。
何より恐ろしかった。
『……それでも』
赤い目が細まる。
遠くを見るように。
もういない誰かを思い出すみたいに。
『我は約束を違えぬ』
静寂。
男が頭を下げる。
深く。
深く。
「……だから、あなた様は異端なのです」
その時だった。
エレナの胸が焼ける。
熱い。
違う。
飢えている。
もっと喰え。
もっと。
悪魔を。
膝が崩れる。
呼吸が乱れる。
視界が赤く染まる。
肩の上で羽音が止まった。
初めてだった。
ベルゼブブの声に。
焦りが混じったのは。
『……まだ早い』
次の瞬間。
エレナの視界が闇に沈んだ。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
少女と悪魔が仕掛ける偽りの世界への反逆劇を、ぜひ明日も見届けてください!
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