黒炎
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世界を喰らい尽くす暴食の王は、少女との誓いだけは喰い尽くさない。
孤独な復讐の少女と、不器用な悪魔の王が紡ぐダークファンタジー、どうぞ最後までお楽しみください!
「何……これ」
エレナは自分の手を見た。
ひび割れた鉄剣から、黒い炎が立ち上っている。
熱くない。
むしろ、冷たい。
なのに、周囲の空気が歪むほどの熱量を感じる。
「ギ、ギギ……!」
目の前の悪魔が、初めて後退った。
醜い顔が、恐怖に歪んでいる。
さっきまで、あれほど嘲笑っていた化け物が。
エレナは一歩、踏み出した。
軽い。
身体が、信じられないほど軽い。
全身の細胞が、新しく生まれ変わったかのような感覚。
耳の奥で、まだ小さな羽音が鳴り響いている。
ブゥン。
うるさい音。
だが、今はそれが妙に心地よかった。
「殺す」
短く呟き、エレナは地を蹴った。
爆発的な速度。
さっきとは次元が違う。
一瞬で悪魔の間合いに入り、鉄剣を振り下ろす。
「ガアアッ!?」
悪魔が腕で受け止めようとした。
だが、無駄だった。
黒い炎を纏った鉄剣は、悪魔の硬い皮膚を、肉を、骨を、まるでバターのように容易く両断した。
血は流れなかった。
斬られた断面から、黒い炎が燃え広がり、悪魔の肉体を「喰らって」いく。
そう、斬るのではない。
この炎は、悪魔を貪り喰っているのだ。
「ギ、ア、ガアアアアアッ!?」
絶叫。
悪魔の巨体が、内側から黒い炎に焼き尽くされ、一瞬で灰へと変わる。
残ったのは、焦げた匂いと、底なしの静寂。
エレナは剣を握り直した。
まだ、終わっていない。
深紅の霧の向こうから、さらに多くの気配が近づいてくる。
一体、二体……いや、十数体。
下級悪魔の群れ。
普通なら、絶望する状況。
学校の騎士たちですら、全滅しかけた数の暴力。
なのに。
(あぁ……)
エレナの胸の奥が、激しく脈打った。
ドクン、ドクンと、心臓が暴れる。
恐怖ではない。
怒りでもない。
これは――飢えだ。
もっと。
もっと、あの肉を。
あの魂を。
喰らい尽くしたい。
強烈な、原始的な歓喜。
身体の奥底が、悪魔を貪ることに、異質な喜びを感じていた。
「うっ……!」
エレナは突然、激しい吐き気に襲われた。
自分の手が震えている。
喜んでいるのは自分じゃない。
中にいる、あの悪魔(影)だ。
分かっている。
分かっているのに、その衝動に自分の身体が同調しかけている。
気持ち悪い。
悍ましい。
悪魔を憎んでいる自分が、悪魔の力を使い、悪魔を喰らうことに喜びを感じている。
最悪だ。
虫吐きがする。
「お前……」
肩の上。
いつの間にか、小さな羽虫が止まっていた。
赤い目をした、黒い羽の虫。
あの暗闇にいた、影の成れの果て。
羽虫が羽を鳴らす。
ブゥン。
『嫌悪するか、我が契約者よ』
頭の中に、直接声が響く。
冷淡で、傲慢な声。
『だが、これが我らの力だ。喰らわねば、次はお前が喰われるぞ』
「黙れ……」
エレナは奥歯を噛み締めた。
吐き気を無理やり飲み込み、迫り来る悪魔の群れを睨みつける。
視界が、少しずつ赤く染まっていく気がした。
「言ったはずだ……私は、お前を利用するだけだと」
『くくっ、ならば見せてみよ。その鉄剣で、どれだけ我を満足させられるかをな』
羽音が響く。
悪魔の群れが、一斉に飛びかかってきた。
エレナは鉄剣を構える。
黒い炎が、さらに激しく、深く、燃え上がった。
「失せろ、化け物ども」
少女は、地獄の真ん中へ、再び自ら飛び込んでいった。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
少女と悪魔が仕掛ける偽りの世界への反逆劇を、ぜひ明日も見届けてください!
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