第45話 魔王の娘
それは、自然が作った宮殿とでも言うべきものだった。
もっとも、そんなものが本当に宮殿と呼べるのなら、だが。
幹も枝も残した大木が、まるで自らの意志を持つかのように絡み合い、そこへ無数の蔦まで加わって形作られている。
建物としてはかなり大きい。
だが、黄昏の館と比べれば、比べるのも馬鹿らしいほど小さかった。
しかも、湿気対策の建築基準があるとすれば、まず間違いなく一つも通らないだろう。
とはいえ、文句を言うわけにもいかなかった。
何しろ、贈り物だったのだから。
ネレスはアヴェルに、そろそろ死の川を探しに行かなければならないと告げていた。
すると、この地の女神は、これはネレスが今後訪れる時のためのものだと答えたのだ。
その日、ネレスが完成したそれを見るのも、中へ入るのも初めてだった。
だが、落成式は後回しにせざるを得なかった。
その時、全員の視線は床に平伏している人物へ向けられていたからだ。
そこは、いわば玉座の間だった。
玉座そのものは木で作られており、ネレスがアヴェルの軍勢に勝利した戦いを描いた、さまざまな浮き彫りで飾られていた。
それをアヴェル自身が用意したことを考えると、なかなか不思議な選択である。
その玉座にはネレスが座っていた。
皆の期待に満ちた視線に押し切られたのだ。
その傍らにはセリスとアヴェルが立ち、広間の中はドライアドや他の森の精霊たちで満ちていた。
皆が、それぞれ違う表情で、床に平伏する人物を見つめている。
「アヴェル様の主であり、まさしく死の神であらせられる方に攻撃してしまうなんて……」
ドラジラは深く頭を下げすぎて、ついに額を床へぶつけた。
「それ以上に、皆が恐れて近づけなかった中で、私を水から救い上げてくださった方に刃を向けるなど……。首を刎ねられて当然です!」
「それと、あたしの唇を奪ったことも忘れないでよ!」
セリスが叫ぶと、ネレスは笑いをこらえるために口元を押さえた。
「この者をどうなさいますか、ネレジエル様?」
今度はアヴェルが尋ねた。
「たった今、治療を終えたばかりですので、できれば寛大なご処置をお願いしたいところです。ですが、あなた様に手を上げたことが重大な罪であるのも事実です」
「そうね」
セリスがうなずいた。
「本人の希望どおり、首を刎ねればいいわ。それが終わったら、同じことをした臆病者のアヴェルも次ね」
それを聞いて、アヴェルは憤然と腕を組んだ。
「ネレジエル様に最初に手を上げたのは、あなたではありませんか、死神様。ほんの数日前、酔った勢いで良い戦いをしたと自慢していたでしょう」
「あたしは酔ってなかった! それに、まずあれは正々堂々の勝負だったし、二つ目に、あたしはそれで一度死んでるのよ。だからもう数に入らない!」
二柱の女神のやり取りに、広間のあちこちでざわめきが広がり始めた。
だが、ネレスが片手を上げると、沈黙が戻る。
「セリス、そろそろアヴェルと和解してもいい頃だろ。最初の印象があまりよくなかったのは事実だけど、今の彼女は俺に色々と力を貸してくれてる。特に、かなり大事な件を任せてるところだしな」
「力を貸しているのではありません、ネレジエル様。私にとって、あなた様にお仕えすることは喜びです」
アヴェルはそう答えて一礼し、その流れでセリスへ舌を出した。
セリスの瞳に散る火花は、この場を灰にする気満々に見えたが、ネレスはもう一度手を上げて止めた。
「アヴェル、お前もだ。セリスがどういう性格か分かってるだろ。火に薪をくべるな……。いや、お前たち二人の性質を考えると、かなりぴったりな比喩だな」
「で? この変態をどうするの?」
セリスはようやく鼻を鳴らし、平伏したドラジラへ視線を戻した。
「最低でも、唇くらいは切り落とすべきだと思うけど」
「セリス、お前はもう少し衝動を抑えることを覚えろ。それと何より、好き勝手に俺を突き飛ばすな……。あのキスはお前への罰だと思って、もうこの件はきっぱり忘れろ」
「ちっ……」
「まあ、忘れた頃に俺が持ち出して、お前の目の前で笑うんだけどな」
「その時は噛みついてやるから!」
「噛みつく?」
アヴェルは何のことか分からず首をかしげた。
だがネレスはすでに、ドラジラへ意識を向けていた。
彼女は後頭部に彼の視線を感じ、さらに頭を床へ埋めようとしたが、さすがにそれ以上の成果はなかった。
「この光景、アヴェルと最初に会った時を少し思い出すな……。ドラジラ、だったよな? それ、もうやめてくれないか? 本当に床に穴を開ける気か……?」
「お許しください、ネレジエル様! あなた様の館を傷つけるつもりはありませんでした!」
ドラジラは即座に身を起こして答えた。
「そこが問題じゃないんだけどな……。あと、俺のことは普通にネレスでいい」
「たとえご命令であっても、それはあまりに無礼です……」
「命令ってわけじゃないんだけどな……。本当に、この世界の連中はどいつもこいつも……」
ネレスは諦めたようにため息をついた。
「まあいい。お前のことをもう少し聞かせてくれ。アヴェルから、魔王の娘だと聞いた。俺もいくつかの世界で魔族の王国を見たことがなかったら、ゲームから飛び出してきた話だと思ってたところだ」
「げーむ……?」
ドラジラは首を傾げてつぶやいたが、すぐに答えようとした。
「私たち以外にも魔族の王国があったとは知りませんでした……。ですが、その通りです。もっとも、私たちの王国はもう残っておりません。両親は南の帝国に召喚された者に殺されました。人間たちは、その者を『勇者』と呼んでいました……」
「本当にゲームから飛び出してきたような話だな……」
「げーむ……?」
ドラジラがもう一度繰り返す。
「何でもない。気にしなくていい。それより、お前が元いた世界で何があったのか教えてくれるか?」
「私の世界、ですか、ネレジエル様? あまり面白くも、美しくもない場所です……。魔法の地も聖地も、すでに過去のものとなっていて、残っていたのは戦争ばかりでした」
ドラジラは過去を思い出し、うつむいた。
「父は、南の帝国が私たちの王国に興味を示したのは、資源と魔法を奪うためだと考えていました。ですが、正直なところ、それも大して役には立たなかったでしょう。私たちには、あの腐った国を救えるようなものなど何一つありませんでしたから。あの国の民は、あの世界の大半の者たちと同じように、飢えと疫病で路上に倒れていました」
ネレスは顎に手を当て、考え込んだ。
「なるほど。魔法に頼りすぎたせいで技術を発達させず、最後にはその魔法そのものを搾り尽くした世界か。お前が言うほどひどい状況は見たことがないけど、そういう未来になってもおかしくない世界なら、俺もいくつか見てきたな」
「本当にあちこち旅していたのね、ネレス」
隣でセリスが言った。
「……」
(いずれにせよ、もうほぼ確定だな。ミリの終末後の世界、アトレニアとヴィシアレの島、そして今度はこれ……。やっぱり、エリュンデアへ連れてこられた定命の種族は、無作為に選ばれているわけじゃないらしい)
「ネレジエル様、お許しいただけるなら」
ドラジラは再び顔を上げた。
今度は、その表情に確かな決意が浮かんでいた。
「私の世界の話より、もっと差し迫った件をお伝えしなければなりません……」
◇ ◇ ◇
「本当に彼女だったのか?」
「この目で見た。丘の上で、雷神の剣エスカリオンが雷鳴を轟かせていた」
「誰かが遺体から奪っただけという可能性は?」
「無知なことを言うな。あの剣を扱えるのは王家の者だけだ。それに近年、その力を目覚めさせ、剣に主として認められたのはドラジラ様だけだった」
その時、外套をまとった二つの人影が、谷からすさまじい速度で離れていった。
そして谷を囲むように張り巡らされた洞窟網の一つへと身を滑り込ませる。
「それが本当なら、ドラジラ様は生きている……。ドラゼル様が疑っていたのは正しかったわけだ」
「あの謎の結界の中で暮らしている、奇妙な生き物たちのこともある。内側の光を操るあの結界は、まだ完成していないように見える。だが、完成して防御結界として機能するようになれば、我々にとって厄介な問題になる」
「一刻も早く、ドラゼル様へお知らせしなければ」




