第43話 川が運んできたもの
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第43話 川が運んできたもの
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緑がかった肌を持つ種族の軍勢を侮るのは賢明ではない。
オーク、トロル、そしてゴブリンでさえ、きちんと武装していれば十分な脅威になり得る。
だが今回ばかりは、彼らに不利な要素があまりにも多かった。
すでに直前の敗北で疲れ果て、士気も落ちていた。さらにその上で、この地を治める女神と、彼女に仕える森の精霊たちを相手にしていたのだ。
ましてや、強大なヴィシアレという種族までいる。
森の精霊たちにはいくらかの犠牲が出たものの、ヴィシアレはほとんど無傷で済んだ。
それは、アヴェルが新たな主へ誓った約束でもあったからだ。
彼女は全力で彼らを守り抜いた。
ただ一人の例外を除いて。
ヴィシアレのアルコンテ、タエロル。
彼が時間を稼ぐために命を懸けていなければ、生まれたばかりの集落の状況はまったく違うものになっていただろう。
それでも、その喪失はあまりにも大きく、勝利を祝える者などいなかった。
森の精霊たちが倒れた敵の遺体を集め、大きな火葬の山で焼いている一方で、ヴィシアレたちは小さな木の祭壇の周りに集まっていた。
祭壇は、火葬用に組まれた薪の上に設えられている。
その上には、白い衣をまとったタエロルの遺体が横たえられていた。
白は、死の清らかさを表す色だった。
その周囲で、皆はどうにか見つけた赤いもの、あるいはそれに近い色のものを身につけている。
伝統では、それはまだ自分たちの血管を流れている血を表す。
悼まれる者と、生きて見送る者を分けるために。
もちろん、エリュンデアという見知らぬ世界へ連れてこられたばかりの彼らに、このような儀式の準備が整っているはずもなかった。
衣服も。
心も。
「もし……もし、おじい様が望んでいた神殿があったなら……」
サエは苦い嗚咽をこぼしながら、そうささやいた。
その隣で、イリーは彼女をしっかり抱き寄せていた。彼女の目尻にも涙が浮かんでいる。
「お別れの時間だ」
オスヴェルが松明を手に、二人へ近づいた。
タエロルの下に組まれた薪へ火をつけるためだった。
「私が……私がやるわ」
サエはオスヴェルへ歩み寄り、その手から松明を受け取った。
「本当にいいの、サエ?」
隣でイリーが心配そうに尋ねる。
「イリー、これはサエの決断だ。尊重しよう」
代わりに答えたのはオスヴェルだった。
彼はイリーの肩に手を置く。イリーはうなずいたものの、不安げな目で、新たなアルコンテとなった友人が火葬の薪へ向かう姿を見守り続けた。
サエはタエロルの前で足を止め、松明を薪へ近づける。
だが、その腕が震え始めた。
「ごめんなさい、おじい様……。話したいことが……まだ、たくさんあったのに……。でも、心配しないでください。私は大丈夫です……ヴィシアレも大丈夫です。私が、必ずそうしてみせます」
目を閉じると、アルコンテの頬を最後の涙が伝った。
だが、再び目を開いた時、その顔には固い決意が宿っていた。
サエは迷わず、松明を下ろして火をつけようとした。
‼
しかし、松明が薪に届くことはなかった。
彼女の腕は空中で止まっていた。
誰かの手が、そっとその手首を掴んでいたからだ。
「ネレジエル様!?」
「遅くなって悪い。アヴェルと確認しないといけないことがあった」
ネレスはサエの腕を慎重に持ち上げ、タエロルが横たわる火葬の薪から遠ざけた。
「な……何が起きているのですか、ネレジエル様?」
「サエ、しばらく儀式は中断しよう。心配しなくていい。タエロルの身体はアヴェルが預かってくれる」
「ネレジエル様?」
その場にいたヴィシアレたちも、何が起きているのか分からず、互いに顔を見合わせた。
「怪我人です! 川から誰かが流れ着きました!」
その時、一人のヴィシアレが息を切らしながら儀式の場へ駆け込んできた。
「緑の連中ではありません! でも、ヴィシアレでもありません!」
ネレスはサエの手を離し、その知らせを持ってきた者についていく準備をした。
「今日はアヴェルも忙しくなりそうだな」
◇ ◇ ◇
ドラジラは、深紅の瞳をゆっくりと開いた。
しばらくの間、視界はまだ少しぼやけていた。
それも無理はない。あれだけのことが起きた後なのだから。
何が起きたのだったか。
「そうだわ……ドラゼル……」
ドラジラは苦労しながら首を動かし、自分の置かれている状況を把握しようとした。
どうやら、どこかの小さな洞穴の中にいるらしい。
周囲には根や蔓、数えきれないほどの花があった。
さらに、いくつかの開口部からは琥珀色の水晶の光が差し込んでいる。
その光のおかげで、ドラジラは自分の角、翼、尾が引っ込んでいることに気づいた。
自分の意思ではない。
何らかの自然の魔力が、身体に作用しているのだ。
理にはかなっていた。
すべて出したままでは、横になるのも難しかっただろう。
その魔力は全身を巡っていたが、特に集中しているのは、かつてひどい傷があった場所だった。
今では、そこに傷跡一つ残っていない。
「再生……作用? うっ……」
それでも、傷の影響までは完全に消えていなかった。
身体はまだかなり弱っている。
ドラジラは花と絹のような手触りの毛布で作られた寝床の上で、苦労しながら身体を起こした。
その拍子に、乱れた長い橙色の髪が背中と肩へ流れ落ちる。
「あっ! アヴェル様! アヴェル様! 巨乳の怪物が目を覚ましました!」
‼
洞穴の入り口に、華奢な人影が現れた。
だが、その姿は一瞬だけで、すぐさま走り去ってしまう。
「ドライアド?」
ドラジラはドライアドが何なのかを知っていた。
魔王である父のため、外交の使者として各地を訪れたことがあったからだ。
「この世界にもドライアドがいるのね……って、巨乳の怪物!?」
たしかに、ドラジラはそういうものを気にする者から見れば、羨まれるような体つきをしていた。
だが、そんな呼ばれ方をするとは夢にも思っていなかった。
「冥界も本当に、ずいぶん不思議な生き物で賑やかになってきたものね……」
‼
今度は、どこからともなく柔らかく澄んだ声が響き、ドラジラは驚いて寝床から落ちかけた。
その直後、洞穴の中央に木の葉の渦が生まれる。
そして、その中から、春の若葉のような髪とライムグリーンの瞳を持つ美しい女性が姿を現した。
その存在感も気配も、この次元のものとは思えなかった。
ドラジラはすぐに理解した。
目の前にいるのは、ただの存在ではない。
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