第41話 禁断の収穫
そこは、人で埋め尽くされた大広間だった。
けれど、幼いサエリスが慣れ親しんでいた宮殿の宴とは違い、その場には厳かな空気が満ちていた。
そこにいる者たちは皆、赤い長衣をまとっていた。
唯一の例外は、広間の中央に置かれた祭壇の上で、花に囲まれて横たわる二つの人影だけだった。
二人は白い衣をまとっている。
サエは、その二人を知っていた。
父と母だった。
まだ六歳にもならないだろう幼い少女は、何が起きているのか理解しようと、周囲を見回した。
その時、片方の手を軽く握られるのを感じた。
見上げると、そこには祖父であるアルコンテ、タエロルの温かな笑みがあった。
だが、その優しい笑みには愛情が満ちていたものの、アルコンテの目の奥には、アトレニアを囲んでいた海のように深い悲しみが隠れていた。
昔から人の感情に敏かったサエは、祖父の手を自分の小さな両手で包み込み、ぎゅっと強く握り返した。
タエロルは一瞬驚いた。
こんな小さな孫娘に、そこまでの力があるとは思っていなかったのだ。
けれどすぐに身をかがめ、彼女を抱きしめた。
祖父の腕に包まれた瞬間、サエの視界が涙でにじみ始めた。
それと同時に、葬送の合唱が広間に静かに響き始めた。
「ん……?」
すっかり成長したサエは、目元をこすりながら、草の上で身を起こした。
「どうして……今になって、あんな夢を……?」
「あっ! サエ! やっと起きた!」
イリーが彼女のもとへ駆け寄ってきた。
その後ろから、ネレスとセリスもやってくる。
ただ、セリスだけはどこか遠くを見つめたままだった。
「申し訳ありません、ネレジエル様。谷の探索に同行したいとお願いしたのは私なのに、皆様の時間を無駄にしてしまって……」
「そうよ、サエ!」
イリーは腰に手を当て、たしなめるように言った。
「ネレジエル様が冥界の旅を続けてしまう前に、一緒にいられる最後の機会の一つなのよ! ちゃんと活かさないと!」
「お前が何を期待してるのか、俺にはさっぱり分からないんだが……ろくなことじゃないのだけは確かだな」
ネレスはため息をついた。
「ネレジエル様! こんなにかわいくて清らかな乙女の思惑を、どうしてそんなふうに言えるんですか!?」
イリーは片足を上げ、舌を出した。
たぶん本人の中では、とても可愛らしい何かのポーズを取っているつもりなのだろう。
……
「まあ、イリーは置いといて……」
「置いておかないでください!」
「サエ、気にしなくていい。休む必要があるのは当然だ」
ネレスは、完全にイリーを無視して続けた。
「実際、ヴィシアレが人間よりずっと身体能力に優れているとはいえ、俺とセリスについてこられたこと自体が驚きだ。もちろんイリーは例外だけどな。あいつが何でできてるのか知らないが、まだ全然疲れてない」
「『純粋な可愛さ』とか?」
「人間というのが何かは存じませんが、ありがとうございます、ネレジエル様!」
サエもまたイリーを無視するように、そう答えながら立ち上がった。
「もう大丈夫です。少し眠ったおかげで、すっかり元気になりました」
「それはよかったけど、探索はここで切り上げた方がよさそうね」
セリスが近づいてくる。
彼女は巨大な大鎌を顕現させたまま、いつもより真剣な顔をしていた。
「何かあったのですか?」
サエが尋ねる。
隣のイリーも、不思議そうにセリスを見ていた。
セリスは何も言わず、ただ一方向を指差した。
野営地のある方角だった。
ネレスはすでにそちらへ視線を向けていた。
ゴッドスクリプトが、彼に悪い知らせを届けていたからだ。
サエとイリーも目を凝らした。
すると、川の分岐点の方から、いくつもの煙の柱が立ちのぼり始めているのが見えた。
「急ぐぞ」
「えっ、ちょっ――!?」
次の瞬間、ネレスはサエを抱き上げ、そのまま駆け出そうとしていた。
「で、あたしは?」
イリーが尋ねた。
だが答えはすぐに来た。
具体的には、セリスが現れ、彼女を肩に担ぎ上げたのである。
イリーには文句を言う暇すらなかった。
セリスのとんでもない跳躍の直後には、すでに空中にいたからだ。
四人は全速力で野営地へ戻っていった。
◇ ◇ ◇
血と焼け焦げた死体の臭いが、巨大な地下空間を満たしていた。
戦の雄叫びは、急速に苦痛のうめきへと置き換わっていく。
モロカルの誇り高き軍勢は、もはやほとんど残っていなかった。
そして巨大なオーク自身も、敗北を悟っていた。
失った血のせいで視界はかすんでいた。
それでも、近づいてくる足音を聞いた瞬間、彼は斧を握る手にさらに力を込めた。
もっとも、それはもはや戦うためというより、誇りだけの行為だった。
膝はとうに力を失い、彼は地面に跪いていたのだから。
モロカルは苦しげに顔を上げる。
濁った瞳に映ったのは、残酷な笑みを浮かべて自分を見下ろす若い魔族の姿だった。
「魔族と戦うのは初めてだったのか、獣め?」
ドラゼルは、残酷な好奇心をにじませて尋ねた。
「そうでもなければ、俺たちに挑もうなんて考えた理由が分からないな」
巨大なオークは笑みを浮かべた。
口の端から血の筋が流れ、首を伝っていく。
それから彼は、自分の言葉で何かを低く呟いた。
ドラゼルには理解できない言葉だった。
だが、意味は分からずとも、侮辱されたことだけは伝わった。
言い終えると、モロカルは魔族の磨き上げられた長靴へ唾を吐きかけた。
それはドラゼルの笑みをさらに深めるだけだった。
その笑みには、今や狂気じみた色が混じっている。
‼
一瞬だけ、モロカルの瞳に光が戻った。
次の瞬間、戦王は斧を振り上げ、敵へ飛びかかった。
ヒュン!
だが、それは本当に一瞬だけだった。
モロカルの瞳から光が消えるのと同時に、その首が地面を転がったからだ。
その傍らで、ドラゼルは血に濡れた長い爪を舐めていた。
顔には、残虐な愉悦が浮かんでいる。
「ドラゼル!」
その隣に、ドラジラが舞い降りた。
彼女の顔には複雑な色が浮かんでいた。
「どうしたんだい、姉さん。ずいぶん取り乱してるじゃないか」
ドラゼルの顔から笑みが消える。
同時に、彼は手を軽く振って、残っていた血を払った。
「あなた、自分が何をしているか分かっているの!?」
ドラジラが叫ぶ。
その手は、戦場を歩き回る数人の魔族を指していた。
彼らの手には、輝く石が握られている。
「ネザライトのことか? 見ての通り、倒れた者たちの魂をいくつか吸い上げている」
「私が聞いているのは、なぜそんなことをしているのかよ!」
ドラジラは怒りに声を震わせて詰め寄った。
「父上が魂に干渉することを禁じていたのを知っているでしょう! それは神々の領分よ!」
「なぜ、か」
ドラゼルは乾いた笑いを漏らし、数歩前へ進んだ。
姉を置き去りにするように。
「タイタンに仕えるのは、俺の計画の第一段階にすぎないからさ。俺の野心は、その先にある」




