表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/42

第36話 共存

【神の祝福】


【授けた対象の現実を変質させる】


「説明が曖昧すぎて、これじゃ何も分からないな……」


 ネレスは思わずため息をついた。


 このスキルを選んだのは、まだ『魂の台帳』のようなものを必要としていなかったからだし、『墓碑銘』なんてスキルが何に使えるのかも、さっぱり見当がつかなかったからだ。


 だが、この『神の祝福』の説明も、手がかりになるような情報はほとんどない。


「少なくとも確かなのは……これが、運命の女神が俺に使ったスキルだってことくらいか……」


 ネレスは小さくつぶやいた。


 絶対神へ昇格した時、一度確認したことがある。


 だが、【ゴッドスクリプト】の『補正』欄からは、【運命の女神の祝福】が消えていた。


 あの祝福こそが、彼に千度もの転生を強いたものだった。


 少なくとも、ネレスはそう考えている。


 おそらく、あれは他の神には効果がない。


 だから今は消えているのだろう。


「とりあえず分かったことは二つだ。まず、『神の祝福』はどの神でも習得できる系統のスキルらしい。今まで出てきた候補みたいに、露骨に同じ方向で固まってる感じじゃない。で、もう一つは……使い道がかなり広そうだってことだな。問題は、何にどう使えるのかってところだけど」


「ネレス」


 考え込む彼を現実へ引き戻したのは、セリスだった。


「さっきからぶつぶつ何を言ってるのよ?」


「残念ながら、渡し守を作れそうなスキルは出なかったって話だ。しばらくは待つしかなさそうだな」


「なるほどね……。まあ、あんたの『冥路』があれば、今のところはどうにかなるでしょ」


 セリスはそう言ってから、アヴェルたちを見た。


「でも、それより今はこっちの方が大事じゃない? この……鼻水まみれの連中、どうするのよ」


「鼻水まみれ……」


 アヴェルは涙と顔を、服の端でぬぐおうとした。


 だが、他のドライアドたちは蔓しか身につけていないので、真似しようにも腕でこするしかなかった。


「そうだな……でも、そこまで難しい話じゃない。もう考えはある」


 ネレスは腕を組み、アヴェルとドライアドたちの前へ立った。


 少し見つめられただけで、彼女たちはまたぶるぶると震え始める。


 だがその直後、ネレスは慌てて一歩引いた。


 恐怖に耐えきれなくなったアヴェルが、彼の足に口づけしかねない勢いで飛びついてきたからだ。


「ヴィシアレたちは守護神を求めてたんだろ? だったら、これからあいつらが住む谷の女神以上に適任はいないじゃないか」


 ネレスはそう言いながら、飛び退いた拍子に乱れた服を整えた。


「おお……それは悪くないわね」


 セリスは少し満足そうだった。


 アヴェルが、下等な定命の世話係みたいな立場に回るのが面白かったのだろう。


 一方のアヴェルは、それ以上に満足しているようだった。


「ヴィシアレが何かは分かりませんが、どうかご安心ください! これからは絶対に何も起こさせません!」


 ……


「お前がさらった女の子が、そのヴィシアレなんだけどな」


 ……


「い、今からは何も起こしません! 必ずお守りします!」


(……本当にこれでいいのか?)


 ネレスはまた疲れたようにため息を漏らした。


「それより……」


 セリスの鋭い視線におびえながら、アヴェルが遠慮がちに口を開く。


「もしよろしければ……お名前を伺っても? 永遠の忠誠を誓うのなら、お仕えするお方のお名前くらいは知っておきたいのです……」


「ああ、そういえばまだ名乗ってなかったな」


「ネレジエル様よ! 死の神にして、エリュンデア三柱の絶対神の一柱!」


 またしても先に答えたのはセリスだった。


「な、なるほど……! それほどお強いのも当然ですわね! 死の……神……」


 アヴェルとドライアドたちは、すうっと真っ白になった。


「ひゅ……」


 そのまま全員、気絶した。


◇ ◇ ◇


【従者】


>【セリス】


>【最後の谷のヴィシアレ】


>>【イリィラ】


>>>【位置】


>【最後の谷の精霊たち】


>>【アヴェル】


>>>【ファウヌス】


>>>【ドライアド】


>>【エルダーバーク】


「アヴェルは土地神扱いか。しかも、その上にもう一段大きい分類がある……なるほど、【ゴッドスクリプト】はこういう並べ方をするのか。ん? あの化け木どもに忠誠を誓われた覚えはないんだけど……いや、待てよ。たしかセリスが何か言ってたな……。あいつらがアヴェルに降伏した時点で、俺の従者扱いになったってことか?」


(この先どれだけ面倒が増えるのか、考えたくもないな……)


 想像しただけで、ネレスはぞくりとした。


「いや、今は目の前の問題に集中しよう……。ただでさえ【最後の谷の精霊たち】の一部でしかないのに、もう十分ややこしい」


【従者】


>【セリス】


>【最後の谷の精霊たち】


>【最後の谷のヴィシアレ】


>>【イリィラ】


>>>【位置】


「よし。何度生まれ変わっても、こういう並びが気になる性分は治りそうにないな……」


 セリスは不本意そうに、アヴェルとドライアドたちへエンピリアン・ピークスや現在の世界の状況を説明していた。


 その間にネレスは、さらわれた少女のいる場所へ向かっていた。


 ほどなくして、彼は見つける。


 マゼンタ色の瞳と水色の髪を持つ少女を。


 髪は頭の片側でまとめられており、蔓に縛られて木からぶら下がったまま、退屈そうに足をぶらぶらさせていた。


「おおっ、闇の主様! 死の化身! ネレジエル様ばんざーい!」


 ネレスの姿を見つけた瞬間、少女の顔がぱっと明るくなる。


 彼女と話すのは初めてだった。


 だが、他のヴィシアレたちのような過剰な畏れがまったくないのは、ネレスにとってむしろ心地よかった。


 とはいえ、同時に見過ごせないこともあった。


 この少女が、自分へ向けてそんな妙な呼び名を連発していることだ。


「それ、セリスに吹き込まれたんだろ?」


「その通り! 死神様から!」


「あとで追加の罰が必要らしいな……」


「え、えっと……たぶん死神様じゃなかったかも……。少なくとも、あたしは罰とか何も知らないっていうか……ね?」


「で、お前は……俺を怒らせたいのか? このまま吊るしておいてほしいのか?」


「ち、違う違う! 本気で褒めてたの! だって、すっごくかっこいい呼び名だったから使いたくて! お願いだから下ろしてください……!」


 ネレスはイリーを縛っていた蔓へ、ただ手を触れた。


【死の手触れ】


 蔓は一瞬でしおれ、ぶつりと切れた。


 そのまま落ちてきたイリーを、ネレスは腕の中で受け止める。


「すごい、ネレジエル様! 怖い……でも、すごい!」


 ネレスはそっとイリーを地面へ下ろした。


 だが彼女は、腕の中から降ろされたことが少し不満そうだった。


「お姫様救出、短すぎたんだけど……! 延長を要求します!」


 ……


「本当にサエと同い年なのか、お前」


「心はいつだって若いの! それに、みんなあたしのこと男勝りだと思ってるでしょ? たまには、もう少しお姫様っぽい扱いをされるのも悪くないかなって……」


 ……


 ネレスはため息をついた。


 だが、そのまましゃがんで背中を向ける。


「まあ、今回のことでも疲れただろ。今回は特別に、俺が馬車代わりになってやるよ。お姫様」


「ははっ、本物のお姫様はサエだけど……それでも乗る!」


 イリーはぴょんと飛び乗り、ネレスの背へしがみついた。


 そのまま二人は戻り始める。


 途中でセリスも回収した。


 するとアヴェルが、頭を地面へめり込ませる勢いで謝罪した。


 ネレスにもイリーにも、それは謝罪というより見せられる側への罰にしか思えなかった。


 やがて川の分岐点へ戻ると、再会の抱擁と涙のあと、その夜には祝宴が待っていた。


 食糧の大半は、アヴェルが和平の証として差し出した貢ぎ物だった。


 戦いで倒れた巨大な黒鹿の肉、木の実、果物、さらにはそれらから作られた酒まで、かなりの量があった。


 その夜は、さまざまな話で満ちた。


 中でも、酔ったアヴェルとイリーが勝手に自分たちの歌を作り始め、ドライアド、ファウヌス、ヴィシアレたちを等しく困らせていたのは、なかなか印象的だった。


 だが、それはまた別の話だ。


◇ ◇ ◇


「ドラゼル……これは、どういうこと?」


 ドラジラは、何百もの死体の真ん中に立つ弟を見つめていた。


 死体は人型ではあるが、獣に近い特徴を色濃く持つ種族のものだった。


「ただの供物だよ、ドラジラ」


「……供物?」


 ドラゼルは振り返り、姉へ満面の笑みを向けた。


 その笑みは、鋭い剣から滴る血とあまりにも不釣り合いだった。


「タイタンは死の川を支配している。この供物で、さらに力を蓄えられる」


 ドラゼルは片手を上げた。


 それを合図に、魔族の兵たちが死体を焼き始める。


「それに同時に、俺たちがどれだけ役に立つかも示せる。謁見を願い出た瞬間に皆殺しにされるなんて、ごめんだからな」


「ただ共存することはできないの……?」


 ドラジラの声はかすれていた。


 彼女の父である魔王でさえ、敵に対してここまで残虐なことはしなかった。


 ましてや、中立種族に対してなど。


「どうして、こんなことをしなければならないの?」


 ドラゼルは剣の血をぬぐい、鞘へ収めた。


 それから、あらためて姉の方へ向き直る。


「俺たちは共存するために生まれたんじゃない、ドラジラ」


 その目に野心の光を宿したまま、彼は言い切った。


「支配するために生まれたんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ