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第27話 死に選ばれし者

 ミレイアは、自分が悪夢の中にいるような気がしていた。


 だが、そんなことは今さらだった。


 滅びへ向かう世界に生まれた彼女は、周囲で起こることに合わせて生きるしかなかった。そして、そこで起こることに、良いものなど一つもなかった。


 まだ子どもだった彼女には、乾ききった固い土地を耕すことはできない。


 だから遊びの代わりに、いや、仕事として、古代文明の廃墟から村の役に立ちそうなものを拾い集めていた。


 その文明は、空へ届くような建物を築き、かつてはどこまでも広がる水の上を進む乗り物まで作っていたらしい。


 その水は"海"と呼ばれていたという。


 けれど今、その街々に残っているのは、崩れた廃墟と砂ぼこり、それから、そこをすみかにした怪物たちだけだった。


 それでも、どうしようもなかった。


 畑仕事ができないなら、別の形で役に立つしかない。親のいない彼女は、そうして廃墟の探索へ送られていた。


 そして、彼女のような子どもの多くは帰ってこない。


 だが、しばらくの間だけは、その苦しみも終わったように思えた。


 ある夜、まばゆい光が村の粗末な小屋を包み込み、住民たちは全員、楽園のような場所へ運ばれたのだ。


 大地は緑に染まり、花は咲き乱れ、水は透き通り、木々は青々と茂り、空気は澄んでいて甘いほどだった。


 まさに天からの贈り物だった。


 神々に見捨てられた民の末裔である自分たちが、ようやく赦されたのだと、そう思えた。


 少なくとも、その時は。


 だが、その幻想は長くは続かなかった。


 この地には、数え切れないほどの魔物や危険な生き物たちが住んでいた。そして、その食卓に新しく自分たちが加わっただけだったのだ。


 悲劇はすぐに始まった。


 尾の先に鋭い刃を持つ爬虫類の群れに見つかった、その時から。


 村人たちがここまで生き延びられたのは、連中が獲物を少しずつ切り分け、時間をかけて食うのを好んだからにすぎない。


 もし一瞬で終わる死だったなら、ミレイアはとっくに自分からその牙へ身を投げていただろう。


 だが、倒れた者たちが切り刻まれ、食われながら上げる悲鳴を見てしまえば、そうすることすらできなかった。


 それでも、逃げたくなくても、ついにその時は来てしまった。


 もう走れない。


 細く骨ばった足がもつれ、ミレイアは草の上へ倒れ込む。その横を、村の者たちは我先にと逃げていった。


 ミレイアは震えながら座り込んだ。


 終わりだ、と分かっていた。


 見たくなかった。けれど、それでも顔をそむけることはできなかった。


 恐れていた通り、涎を垂らした爬虫類の口先は、もう目の前まで迫っていた。鼻を突く悪臭が顔を打ち、長い前髪の黒い束を揺らしていく。


 その爬虫類は、彼女の恐怖を味わうようにしばらく見下ろしていたが、やがて頭を持ち上げると、耳を裂くような咆哮を放った。


 次の瞬間、尾の刃が彼女へ振り下ろされる。


 ミレイアは恐怖のまま、ぎゅっと目を閉じた。


 ガキン!


 だが、痛みは来なかった。


 聞こえたのは、激しく金属がぶつかる音だけだった。


 おそるおそる目を開けると、刃はたしかに目の前にある。だがそれは盾を貫いたまま止まり、彼女の顔のほんの数センチ手前で止まっていた。


 そして視線を上げたミレイアは、悲鳴を上げそうになって口を押さえた。


 骸骨だった。


 骸骨が、自分を助けたのだ。


 しかも一体だけではない。


 尾を盾に挟まれてもがいていたその爬虫類は、次の瞬間、別の骸骨に斬りつけられ、首を胴から切り離された。


 それもまた、助けに来た骸骨だった。


 そしてすぐに、辺り一面が同じような骸骨で埋め尽くされた。


 地の底から現れた骸骨の軍勢は、爬虫類の群れをあっという間に取り囲んだ。何千もの矢と剣と槍の前に、連中は長くはもたなかった。


 ミレイアも、生き残った村人たちも、その場で完全に凍りついていた。指一本すら動かせない。


 骸骨の軍勢が爬虫類どもを片づけ終えると、一斉に村人たちの方を向いた。


 それだけで十分だった。


 村人たちは次々と膝をつき、中にはその場で失禁する者までいた。


「はっ、やっぱりあんなトカゲども、大したことなかったじゃない」


「トカゲって……セリス、お前あんなサイズのトカゲ見たことあるかよ……。爬虫類って言いたくないなら、せめて恐竜とかにしとけ」


「きょうりゅう? 何それ」


 ……


「……やっぱいい。細けえことだ」


 骸骨の壁の向こうから聞こえてきた二つの声は、どこか遠く、ひどくかけ離れたもののように響いた。


 人のものとは思えないような声だった。


 やがて骸骨の軍勢は整然と列を作り、二つの人影へ敬意を示すように道を開いた。


 その二人は、まっすぐミレイアの方へ歩いてくる。


 一人は美しい赤髪の少女だった。火花のような橙色の目は、見つめたものすべてに火をつけてしまいそうなほど鋭く輝いていた。


 もう一人は、長い銀髪を持つ美しい青年だった。その深い金色のまなざしは、まるで宇宙そのものを宿しているかのようだった。


 二人はミレイアの前で立ち止まる。


 彼女にはどう反応していいのか分からなかった。


 その神々しい姿は、自分の世界に残る文明の廃墟よりもさらに古い伝承から、そのまま抜け出してきたように思えたからだ。


◇ ◇ ◇


 ネレスとセリスの前にいたのは、まだ十一歳にもならないような少女だった。だが、同じ年頃の子どもたちと比べても、ひどく細く、弱々しく見えた。


 もっとも、ネレスがひれ伏している人間たちを見回してみれば、全員がおおむね似たような状態だった。


「大丈夫か、小さいの。立てそうか?」


 ネレスはそう言って、その子に目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。


「死の神ネレジエル様が話しかけてんのよ、人間。あのトカゲに舌でも食われたわけ?」


 腕を組んで言い放ったセリスは、言い終えるや否や、ネレスが操る骸骨に頭を小突かれた。


「いたっ!?」


(死の神だ……!)


(あんなに死体が……)


(死の神が、わたしたちを迎えに来たんだ……)


(もう終わりだ……!)


 残念ながらネレスにとって、もう手遅れだった。


 人間たちはたちまちひそひそとささやき始める。


 だが、ネレスが一瞥しただけで、そのざわめきは一瞬で止んだ。


「いや、お前らのために来たわけじゃない。ただの偶然だ……」


 疲れたようにため息をつき、それから改めて少女へ向き直る。


「なあ、小さいの。名前は?」


「ミレ……ミレイア、です……」


「そうか、ミレイア。大丈夫か? 立てるか?」


「た、たぶん……」


 ネレスは手を差し出し、できるだけ安心させるように微笑もうとした。


 もっとも、笑うのは昔から得意ではなかったが。


 ミレイアは、まるで伝承の中の存在でも見るような目で彼を見上げていた。


 その一方で、胸の奥には、畏れと敬いが静かに膨らんでいく。


 ミレイアは勇気を振り絞り、できる限りうやうやしく、そっと指先でネレスの手を取った。


【使徒獲得!】

【スキル付与獲得!】

【どのスキルを付与しますか?】

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