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第18話 死の神

 炎と溶岩と破壊の痕が走り抜けた、その果て。


 ネレスが骸骨兵の一体から奪った剣に、セリスは腹を貫かれたまま立っていた。


「急所は外した。それに、半神が破傷風になるとも思えない。降参すればディバイン・オーダーが連れて行ってくれる。そういうのは前にも見た」


「連れて行くって……どこへ? 故郷? それとも……エンピリアン・ピークス? どっちにしたって……興味ないけど……」


「神にはなれなくても、生きては帰れる。この先の長すぎる不死の時間を、好きに使えばいい」


「どうして……そこまで……気にかけるのよ。あんた、さっきだって……あの同盟を丸ごと潰すのに、何のためらいもなかったくせに……」


「あいつらにも二度目の機会はあった。戻ってきたなら、それはあいつら自身の選択だ」


 苦痛に歪んだセリスの顔に、かすかな笑みが浮かんだ。


「ふふ……優しいんだか……甘いんだか……」


「この世界の誰にも、別に何の恨みもないだけだ」


「何の……? 自分の命を……取りに来られて、それで済ませるには……十分すぎると思うけど……」


「は。誰一人、そこまで届いちゃいない。そんなことで、いちいち腹を立てる気にもならない」


(誰かに殺されそうになるなんて、もう慣れすぎてる。死ぬこと自体も、今さら珍しくない。問題なのは――銀の海に戻されることだ)


「ふふ……認めるわ。思ってたより……骨はあるみたいね……」


「それと降参するのとに、何か関係あるのか?」


「あるわけ……ないでしょ!」


 血を吐きながらも、セリスは獰猛な笑みを崩さなかった。


 槍を手放し、刃の根元を握り直す。そのまま剣のように扱って、致命の突きを放つつもりだった。


「ちっ……どうしてこの場所の連中は、誰一人まともに話が通じないんだよ」


【死の手触れ】


 ネレスが握っているその剣も、元をたどれば彼自身のエイドロンの一部だ。


 魂の反映は、すでにセリスへ直接触れていた。


「ぁ、ああああっ……!」


 セリスの腹の傷口から、黒い煙のようなものが立ち上る。


 槍を握る力は失われ、そのまま指から滑り落ちていく。


 槍が地へ落ちかけた、その瞬間。

 セリスの瞼も閉じかけた。


 ‼


 だが、最後の最後で。


 セリスは落ちる槍を空中で掴み取り、なおも意志を宿した瞳をネレスへ突きつけた。


 突きは速く、重い。


 だが、本来の彼女の一撃には到底及ばない。


 錆びた剣の柄からすでに手を放していたネレスは、槍の穂先が自分へ届く寸前で、セリスの手首を掴んだ。


 セリスは最後に一度だけ笑った。


 それはさっきまでの獰猛な笑みではなく、ようやく敗北を受け入れたような、静かな微笑だった。


 次の瞬間、力を失った彼女の身体が、そのままネレスへ倒れ込む。


 かつての人生のどこかで、ネレスは敵の血で自分の服を汚すことすら嫌うようになっていた。


 それでも、この戦士にはそれなりの敬意を抱いていた。


 だから彼は、倒れた身体を受け止め、そっと地面へ横たえた。槍もその傍らへ置かれたが、それは間もなく光となって消えていった。


(自分の手で、可愛い女の子を刺して殺した。あの女神に負けないくらい厄介な相手ではあったけど……それでも、こういう後味は嫌だ)


 ……


【おめでとうございます!】


 目の前にいきなりホログラムの通知が現れ、ネレスは思わずのけぞりかけた。


 だが、本当に問題だったのはその直後だ。


 彼の全身を、猛烈な光が包み込んだ。


「うおっ!? 何だ!? 何が起きてる!?」


 ネレスは、自分の肩にのしかかっていた大きな重みが外れたような感覚を覚えた。


 あえて言うなら、自分を縛っていた鎖が砕け散ったような感じだった。


 それだけではない。


 気づけば彼は、虚無の中へ投げ出されていた。


 だが、その虚無はすぐに無数の光で弾ける。


 宇宙だった。


 太陽。

 惑星。

 月。

 彗星。

 小惑星。

 星雲。

 ブラックホール。


 すべてが手の届く場所にあるように思えた。


 まるで自分が宇宙そのものを見下ろしているようで。

 それでいて逆に、宇宙の方から見つめ返されているようでもある。


 自分がすべてと一つになったような感覚。

 同時に、どこまでも自由だった。

 何ものにも縛られない。


 だが、無限の銀河を満たす光は、さらに強く、さらに激しく輝き始める。


 やがてネレスは、再びその光に完全に呑み込まれた。


 そしてようやく光が引いた時。

 彼は、実はまだセリスと戦ったその場所に立ったままだったのだと気づいた。


「うぐっ……頭が……ん? いや……さっきよりマシか……?」


 目の前では、ゴッドスクリプトのホログラムが新しい通知で埋め尽くされていた。


【熟練度上昇!】

【死の手触れ】

【熟練度D → C】

【不死すらただの状態に過ぎない。すべてには終わりがある。時の来た者に印を刻め】


「まあ、これは予想どおりか……まだ神性そのものには触れてないっぽいけど……たぶんこれで、弱ってなくても半神には通るようになったんだろうな」


【昇格しました!】


「そっちは予想外すぎるだろ……」


【種族が変化しました!】

【昇格者】


「待て、待て! ってことは、俺もう人間じゃないのか!?」


【あなたのスピリチュアル・エナジーが倍になりました!】


 ……


「昇格すると、スピリチュアル・エナジーって倍になるのか?」


 ……


 ネレスはホログラムの脇に別タブを開き、自分のステータスを確認する。


【SPE: 6,491,316】


 ……


【ランク獲得!】

【絶対神】


「うげ……あの生命の女神と同じかよ……ってことは、結局……」


【絶対神ランク到達報酬を獲得!】

【ユグドラシルの果実】

【摂取するとスピリチュアル・エナジーが5,000増加する】


「この数字まで来ると、誤差みたいなもんだろ……」


【クラス獲得!】

【死の神】


「はい、図書館の神でも、洞窟の神でも、椅子の神でもありませんでしたと……」


【新たな称号獲得!】

【死の化身】


「友達作りに最高の肩書きだな。どうも、死の化身です。自治会では仲良くしてくださいってか……」


 横に開いたステータス欄には、確かにその称号が名前の下へ追加されていた。


【闇の主】

【死の化身】


「うわ……完全にゲームのラスボスじゃねえか……。ていうか、何で闇の主なんだよ。ゴッドスクリプトだと、俺の名前は『聖なる闇』って意味らしいし、そのせいか? いや、さすがにこじつけが過ぎるだろ……担当者に正式な苦情を入れたい……」


【スキル進化!】


「は?」


 情報欄を見ると、【魂の番人】が点滅していた。


 押してみると、説明に一行追加されている。


【魂の番人】

【下位神】

【熟練度E】

【魂を縛り、死の番人として仕えさせる】


「下位神? 俺、神を作れるのか!? っていうか、今の俺が絶対神になったからか……?」


 その視線が、自然とセリスの亡骸へ向く。


「よりにもよって『運命』なんて言葉は使いたくないが……この状況を他にどう呼べばいいのか分からないな」


 ネレスはゆっくりと歩み寄り、倒れた戦士の傍らに膝をついた。


(本当なら、ただこの後味の悪さを消したいからってだけで選ぶべきじゃないんだろうな……。でも、別にそこまで悩む必要もないか。どうせこのスキル、ずっと引き出しの奥にしまうつもりだったし)


「バトルロワイヤルから強制的に引っ張り出されるまで、あとどれだけあるかも分からない。だったら――今しかない」


【魂の番人】


 ネレスが手をかざすと、セリスの身体が淡く光を放ち始めた。


 ……


【試練「バトルロワイヤル」は終了しました!】


 ここ数分で二度目だが、ネレスはまたしてものけぞりそうになった。


 それでも今度は踏みとどまり、セリスへのスキル発動を最後までやり切る。


「今度は何だよ!? 試練そのものが終わったのか!?」


◇ ◇ ◇


 星々のあいだに浮かぶ卓では、始原の評議会が投影された光景を静かに見つめていた。


「なんとも、途方もなく波乱に満ちた一日になったのう」


 ゾロヴァンが、卓の上で両手を組みながら言う。


「死の領域の行方が定まっただけではありません」


 いつものようにフードの影へ顔を隠したまま、メヴィスが続けた。


「ネレジエルと『紅蓮の災禍』が手を組めば、無視できない勢力になるでしょう。ですが……」


 傍らの神が低く言い添えた。


 ゾロヴァンはうなずいた。


「まさか本当に時の神が目覚めるとはのう……しかも、残っていた候補者の半数を一瞬で消し飛ばすとは……」


 宇宙の広がりへ投影された映像には、紫の髪と薄紫の瞳を持つ青年がいた。


 土煙と骨に埋もれた戦場の真ん中で、ただ一人、静かに立っている。

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