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Episode70 竜特攻vs竜殺し特攻Ⅲ


「雑魚どもがいくら増えたとこで変わりゃしねぇんだよ」


 ドレイクは、ペッ、と唾を吐き捨てた。

 びっくりするくらい悪役が使いそうなありきたりな台詞だ。

 この状況なら、そう言いたくなる気持ちもわかるが――。



 俺も察していることだが、ドレイクも理解しているんだろう。


 この決闘は、人間に分の悪い持久戦になりつつある。

 俺はドレイクを殺る決め手にかける。

 一方、ドレイクも俺の立ち回りに翻弄されている。

 奴が『魔法』という存在に慣れてないからこそ、互角に持ち込めていたのだ。



 それが崩壊しつつある――。


 ドレイクは実際に戦いながら『魔法』の対処法に慣れ始めた。

 さっき自分自身で火球を創り出したのが証拠だ。

 そして力は互角と言っても、俺は生身の人間で、ドレイクは賢者を倒して『火竜』に昇格した超常的存在……。


 首を刎ねないかぎり体を修復する幻想種。

 一つの傷で致命傷にもなりうる人間。

 どちらが持久戦に有利かは語るまでもなかった。


 この戦い、早めに決着をつけないとどんどん不利になる。



「アンジー」


 俺の息遣いを見たリナリーが声をかけた。

 深く息を吸って振り向く。


「なんだ?」

「特別なことをしようとしなくていいの。君には君ができることを、ね?」

「……」


 姉貴にボロカス言われてきたせいでリナリーのウィンクが久しぶりに思えた。

 なんだか変にプレッシャーを感じて、肩肘を張ってた気がする。

 そうだ。大義を背負ってここに来たんじゃねぇ。

 ファルマイヤ家の惨状を見て、竜どもが調子に乗ってるのが気に入らねえからカチコミに来ただけ。


 ドレイクも冷静に見ると、ただのオラついた竜だ。

 得体の知れない恐怖の大魔王ってわけじゃなく、前世からの腐れ縁。

 こいつの手癖も性格もよく知ってる。

 その意味では、これは――。



「そうだったな。これは、喧嘩の続きだ」


 転生後も持ち越した個人的な決闘。

 俺も今までのやり方を、この世界のルールに応用すればいいんだ。


「現実逃避か? 安心しきった顔してよ。別に構わねえが、どうせ死ぬんだ」

「死ぬのはテメェだよ、リュウドウ」

「バカが。気づいてるか? オレはあそこのチビやお前と銀髪女と戦ってもちっとも疲れてない。一方でお前はどうだ? 息が荒いぞ」

「はぁ……そりゃ女子中学生にもなってない年齢だぜ」


 あれだけの運動量で疲れなかったら逆に気味が悪ィだろ。

 人間やめてるリノはともかく。



「ハハッ、認めやがった! かわいいなァ、この女アンジはよォ!」



 ぴくりと俺の神経を逆なでする言葉がよぎる。


 カワイイと言われた。

 しかし、俺も人間。人間は成長するもんだ。

 溜飲を下げて構えに集中する。


「んじゃ慈悲深いオレが今、楽にしてやんぜェェ!」


 ドレイクが魔力を放出させて突っ込んできた。

 それが戦闘再開の合図だった。


「ベルンちゃん頼むよ! 怖かったら逃げてね!」


 リナリーが掛け声とともに炎の猪を生成して、それに跨った。

 乗るや否や、激しい動きで駆け出す。

 猪に跨るリナリーはどうやってバランスを取っているか知らないが、ロデオを思わせる上下運動をしていた。ベルンが二度と乗りたくないという理由がわかる。


 俺は突進してくるドレイクに意識を向けた。

 躱すか受け止めるかなら、受け止めた方が体力的に楽だ。

 だが、さっき鬩ぎ合ったときに奴は浮遊し始め、空中戦に持ち込まれた。

 そのときは魔術とイルケミーネの転移魔法で乗りきったが、ドレイクが俺の魔術の癖に気づき始めたのとイルケミーネのサポートがない今、空中戦は避けたい。


 クソッ、せめて『空飛ぶホウキ』さえ取り戻しておけば。



 とりあえず『炎の巨人』の片腕モーニングスターと『炎の要塞』を作っておいて防御と回避のどちらも取れるようにして構える。

 そこに背後から声がかけられた。


「アンジー! 私のサポート、覚えてますか!」

「ベルンか。……ああ、演算魔術だろ」

「それで斬撃が可能な状態に補正します。いいですわね?」

「頼む!」


 ベルンの詠唱のあと、『炎の巨人』の片腕が剣状に変化した。

 そういえば、ベルンはリナリーに魔術の相談をしていた。

 新しいヒントでももらったのか?


 炎の猪に跨ったリナリーは地上を大回りに駆け抜けた後に、杖をこちらに向けて俺がつくるそれより二回りほど大きい火炎弾を生成した。

 それをドレイクに向けて放つ。

 しかも連射で。


「ガァウ!」


 空中で爆発音がいくつか鳴り響く。

 ドレイクは背後から迫る火炎弾を、背後の確認もせずに手で切り裂いた。

 そのまま勢いを止めずに俺に迫ってくる。だが、ドレイクは俺の装備の形状が変わっていることには驚いたようだ。


「そこ!」


 俺はその一瞬の隙を見切り、大剣になった炎の腕を振り被る。

 初見から受け止めるのは危険と判断したのか、ドレイクは踏み止まって、急速に進路変更した。

 後を追うため、ブースター代わりの炎魔術を点火。

 見るに、ドレイクは標的をリナリーに移したようだ。

 なるほど。そうなるか。



 先ほどのリノとイルケミーネのサポートとは試合運びが違う。


 リノは、サブアタッカー。

 イルケミーネは、俺というメインアタッカーの行動支援。


 だったのに対して、


 ベルンは、メインアタッカーの攻撃補整。

 リナリーは、敵の陽動役として立ち回る後衛。


 前半戦の二人のサポートも相手の力量を見計らうために必要だった。

 しかし、後半戦にあたる今は確実に俺の"一撃"に賭ける戦略に変わっている。

 これならトドメを入れるチャンスも増える。



 ドレイクとの体力差を埋めるのは、この変動性だ。

 単騎では戦術のレパートリーに限界があるが、複数のパーティーで攻めれば、その分だけ戦術に幅が広がる――。



 リナリーは、ドレイクの接近を感じると、炎の猪を蹴り飛ばして空中に跳躍し、自らドレイクに肉迫した。

 炎の猪は塵のように消え、一方でリナリーの脚部が赤く光る。

 強化魔術だ。


 リナリーは飛び蹴りでドレイクを牽制した。

 肉弾戦に切り替えたのか?

 ――と思ったのも束の間、ドレイクの肩を踏みしめると再び跳躍して空を舞い、今度はなんと背中に炎の翼を生やした。

 まるで火の鳥だ。

 大きく羽ばたかせながら低空飛行している。

 ボルガの力を借りずとも根っからリナリーは運動神経が良いらしい。


「ガァァアアアア!」


 ドレイクはリナリーの舞踏に煽られ、俺は眼中に無しだ。

 リナリーが俺に視線を投げて合図した。

 この隙にやれ、ということだろう。

 見事な囮役だった。


 俺はその意を汲んで、最後の賭けに出た。

 もうできることは限られている。

 最初から首を刎ねる以外に奴を殺す方法がないのなら、狙う部位は首しかなく、そして一撃で決めないと意味がない。



 俺はリナリーの低空飛行の軌道を先読みして、その進路に回り込んだ。

 リナリーもそれを察したのか、後ろにぴったり付いて回るドレイクに火炎弾で牽制しながら、たまに武術によるヒットアンドアウェイを織り交ぜて、俺の動きを悟られないように立ち回った。


 補整魔術を切らさないように、ベルンも俺に付いてくる。



 森の茂みに入った。

 ここなら木々が死角になっている。

 リナリーが通り抜けた直後に、俺がドレイクの前に躍り出て、そしてベルンが補整してくれた炎の大剣でバッサリやる。

 この方法で、あいつを倒せるはずだ。


 リナリーの炎の翼が忙しなく羽ばたいている。

 森の中だから火が回らないよう配慮しているんだろう。

 俺は木の影に隠れて、そのときを待った。


 バサ……バサ……バサバサ……。翼の音。

 小刻みに変わり、解除される音が森に響いた。

 リナリーが魔術を解除したんだ。

 その直後、トンと身軽な足音がして脇をリナリーが駆け抜けた。

 通り過ぎる刹那、リナリーの唇が動くのを読んだ。


「たのんだよ」


 俺はその合図を皮切りに、控えていた炎の大剣を最大出力にして大きくさせた。

 寄り添うベルンの顔も強張っている。

 タイミングを見計らって、振りかぶり、森の小道に躍り出た。



「覚悟しな、ドレ――――」



 しかし、そこにドレイクの姿はない。

 困惑する暇もなく、頭上から邪悪な声が鳴り響いた。


「だからァ、下等なお前らの考えなんてお見通しだバーカッ!」


 その声が森にこだました直後、頭上から急降下する赤い影が見えた。

 炎を吐いて、俺が先ほどまで隠れていた木を丸焼きにした。

 そこにはベルンが隠れ潜んでいる。


「きゃあ!?」


 凄まじい音とともに、木は倒れ、火は周囲の樹々にも燃え広がった。


「ベルン!」

「ぐ……うう……」


 葉っぱが燃え盛る倒木の幹に、ベルンは足を挟まれていた。


「ベルンハルデちゃん!」


 リナリーがすぐに駆け寄った。

 それをドレイクは待っていたかのように降りてきた。

 地響きも鳴るほど大きい音を立て、リナリーの目の前に奴がいた。

 狙い済ましたようにドレイクは片腕でリナリーを掴む。


「さっきのお返しだオラァ!」


 ドレイクは拳を握りしめてリナリーの肩をハンマーパンチで叩く。

 悲鳴をあげてリナリーは意識を失った。

 そのまま燃え盛る藪の中に投げ棄てられた。


「テメェ!」

「何度も言ってるだろうがァ。雑魚がいくら集まっても雑魚なんだよ」


 騙し討ちなんて性に合わないことをして失敗した。

 ここでまたサポート役二人を失ったのは痛手だ。


「女に堂々と手ェあげるとは、やっぱテメェはクズ以下だぜ」

「はァ? 今じゃオレもお前も女だ。お前の古臭えジェンダー意識のがクズの思考だって知ってるか? 男女平等だよ。男も女も覚悟して挑めってんだ」

「テメェは……ミラのことを攫ったときもそうだったな」

「ああ~、アンジの名前を出したら大人しく付いてきたぜ、あの女」


 前世で死ぬ前の光景が脳裏をよぎる。

 ミラが廃工場にいたのも拉致というより脅迫だったのか。


 確かに多勢に無勢といえど、高校生に車があるわけでもないし、拉致ってる姿を誰かに見られたら注目を集めて警察沙汰だ。

 ミラは同意のもとで竜道についていったんだ。

 俺の名前をダシに使われて――。



 不思議な因果か、あのときの焼き増しだった。

 この決闘においても最後に残ったのは俺とこのクズとミラの三人。


 また全員で共倒れだけは絶対に嫌だ。



 ――ん? 三人だけか?


 誰かの存在を忘れている気がした。

 いつも忘れがちな奴らを、また忘れている気がする。



 そう思ったとき、噂をすれば影ともいうべきか、突然そいつらは戻ってきた。


「ああああああああああ!?」

「ああああああああああ!?」


 ハモったように悲鳴がかぶる。

 青の声と緑の声だ。

 ついさっきにも似たようなことがあった。デジャブだ。


 悲鳴とともにやってきたのは、フィルとファウの二人。

 奇しくも、竜化オージアスを俺たちのもとへ引き連れてきたときと同じシチュエーションで、このエルフどもはまた何かを連れてきた。


 それは食い意地を張ってエルフ二人を丸呑みしようとしてたのか、大口を開けて墜落するようにこの森に飛び込んできた。



 また別の竜だ。

 島に来て見慣れたものだったが、そいつだけは印象に残ってる。


 片目に白い縦の傷跡がある黒い竜。

 俺の相棒の一つである魔道具を食い逃げした竜だった。

 なぜ、このタイミングで……?


「オイ邪魔だぞ!」


 闖入者に驚いたドレイクは、黒い竜を一瞬で両断した。

 仲間意識もなく、人間どころか自分以外の竜も見下しているドレイクは、あっという間にその竜を爪で切り裂いて殺してしまった。

 その攻撃がスローモーションに映る。

 目の前には、黒竜の腹から飛び出してきた筒状の何か。

 ――焦点が合う。

 俺が片時も忘れなかった相棒2号だった。


「ホウキ!」


 俺はチャンスを逃さないようにその筒を掴んだ。

 魔力を通して、箒を展開させて、そのまま空へ飛びあがった。


「おォい逃がさねェぜアンジィイイイイ!」


 激昂したドレイクが、俺の後を追って飛んできた。

 これが本当に最後のチャンスかもしれない。

 ミラの回復が回るまで、今度は俺が囮役もメインアタッカーも兼ねるしかねえ。



 にしても、あの竜を連れてきたのは……?

 妖精二人の意気な計らいと納得するほかなかった。


「あああ……もうヤダ、こんな役回り……」

「ね……? お屋敷でメイドやってた方が幸せでしょ?」

「大賛成~~……」

「時間かかったけどあの竜が見つかってよかったよね……もういいよね、私たち」

「うん。帰りましょ。早く。いますぐに」


 その場を離れる間際、フィルとファウの会話が漏れ聞こえた。

 やっぱり誰かに命じられて、ホウキを丸呑みした竜を連れてきてくれたらしい。

 直前まで存在すら忘れられていたから不憫だ。


 うん……。もう帰っていい。

 でもおかげで飛翔能力を取り戻せたぜ。



次話で決着をつけます

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