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Episode69 竜特攻vs竜殺し特攻Ⅱ


 ドレイクの腕が俺の腹に伸びる。

 ド直球の右ストレートパンチ。単調だ。


「フ――――」


 それを俺はくるりと身を翻し、背中で受け流すと同時に左拳の『炎の要塞』で裏拳を叩き込んだ。

 ドレイクは背中を向けて、硬そうな翼で裏拳を跳ね返した。

 二つの力が拮抗するような残響がこだました。

 竜殺しと竜殺し殺しの力が拮抗しているんだ。


 俺の裏拳も弾かれた。

 ドレイクの翼も弾かれた。

 やっぱり力は互角――。


 リナリーが言っていたことは正しかった。

 俺は弱いわけじゃない。

 ドレイクの竜殺し特攻で釣り合いが取れて、竜特攻が利かなくなっているだけ。

 それならあとはお互いの力量、技量の差で競り合うのみ。

 勝機はどちらかが優位に立ったタイミング次第。


「うるァアアアア!」

「オラァ――!」


 殴り合いは不良の専売特許だ。

 小手先の騙し打ちも、刃物(ドス)もいらねえ。

 相手を肉体的にも精神的にも打ち負かすのは拳だけなのだ。


 至近距離での肉弾戦を打ち合った後、互いの片手同士が拳と掌で鬩ぎ合った。


「腕あげたじゃねぇか、アンジ」

「テメェは腕が伸びた気がするぜ」

「ケケッ、だがよォ、俺にあってお前にはないもんがあんだよ」


 ドレイクにあって俺にないもの?

 おっぱい対決だったらドレイクに分がありそうだが、そういう話じゃねえよな。

 あとは竜鱗。尻尾。そして……。



 ドレイクは翼をぐぐっと伸ばして、威風をアピールした。

 竜の翼。硬そうな形状。

 肉弾戦でも何度も俺の拳を阻んできた。

 それを羽ばたかせて、ドレイクは飛んだ。


「……ん!?」


 俺の拳を掌で握りしめたまま。

 ドレイクの浮上に引っ張られて、俺も空へと連れ出される。

 まさか空中戦に持ち込もうって魂胆(ハラ)か!


「ハハハハハハハハ!」


 ドレイクは極悪な面して嗤っている。

 その面を見上げながら俺は足をばたつかせるしかできなかった。


「なにが経験が違うだ!? お前は空を知ってるか!? ええ?」


 空に連れられたら話が変わる。

 相棒の『空飛ぶホウキ』さえあれば違ったんだろうが、竜に食われたままだ。


 ドレイクは急上昇していく。

 空から落ちるのは何度か味わったが、戦いながらっていうのはあまりない。それで八つ裂きにされようもんなら、今の俺には何の抵抗手段もない。

 チクショウめ!


「オォらよォ!」

「わぁあああああああぁぁ……!」


 急上昇するドレイクは俺をさらに天高く放り投げた。

 風圧で顔が押し潰されそうになり、体の向きが上下左右めちゃくちゃで平衡感覚がおかしくなる。

 投げつけられた力が重力に負けた地点から自由落下に入った。

 浮遊感が襲ってくる。


 ――真下を向くと、ドレイクがかぎ爪を指でカチャカチャ鳴らして構えている。


 落下する俺を、エサを待つ鳥のように待ちかまえてやがった。

 ただではやられねえよ。


水柱(エトリンケ)!」


 指ぱっちんを鳴らす。

 水柱がドレイクの頭上にバシャりと打ちあがり、奴の全身を濡らせた。


「冷たっ!? なんだよ!」

「続きましてーー、雷の鞭(ドンナーケッテ)!」

「ふぐ……ヌウウウッ!」


 雷撃の鞭を真下に伸ばしてドレイクの胴体を掴む。

 利くと思ってねえが、多少はビリビリきてるらしい。

 同時に指パッチンして燃焼(フラマ)を横に放ち、落下の軌道をズラす。

 鞭を手繰り寄せ、ドレイクを支柱にしてロープスイングだ。


「ガアアアアアア!」

「へっ、ざまぁみやがれ!」


 ドレイクを軸に弧を描き、周回した後に手を離す。

 力技で攻めるトカゲと一味違うってとこ、見せてやったぜ。

 俺は再び自由落下に戻った。

 魔術をお披露目できたはいいが、結局、落ちてることに変わりない。


 この状況で落下の衝撃を防いで着地する手段はない。

 あるとするなら直前で発火(ファイア)を出して威力を殺すことか。

 そんな器用なマネができるか不安だが。


「アンジイイイイイイイイ!」


 そうこう考えているうちに怒り狂ったドレイクが物凄い形相で飛んできた。

 コケにされたと思ったんだろう。

 あいつは魔術を知らねえからな。


 くそ、あいつの猛攻を往なしながらの着地は難易度高いな。

 ドレイクの爪が振られたすれすれの所で、


開通(エォフナン)!」


 地上から助け船が差し出された。

 姉貴の十八番だ。助かる!



 俺は転移孔を潜って、地上に――。



 と思ったら抜け出た先はまだ空中だった。

 全然関係ない森の上。しかも、わりと地上に近い。


「はぁ!?」

「その辺なら自力で着地できるでしょ」


 再び開いた転移孔ごしに姉貴が言い放って、すぐ閉じた。 

 もしかして標的の俺を遠ざけて安全策を取ったな?

 それにしては中途半端な位置だ。


「なんでここなんだよーー!」

「そこかァァァァ!」


 ドレイクの雄叫びが耳をつんざく。

 叫んだせいですぐ居場所が突き止められた。


 突風が吹き付けるような音ととも、超速で奴が飛んでくる。

 そんな姿が見えたのを最後に森に突入。

 雷の鞭を伸ばして木の枝にぶら下がりながら、なんとか地上に着地した。


 森の中は鬱蒼としていたが、熱気が空を覆っている。

 隕石でも降ってきているのかってほどだ。

 頭上を見ると、炎を滾らせたドレイクがすぐ傍で降り立った。


濃霧(ニーベル)!」


 指を弾いて水魔術を展開する。

 少しの目晦ましにはなるかと思ったが、意味はなかった。



「ゴアアアアアアアア!」


 叫び声とともに炎が森を焼き尽くし、霧を一瞬で蒸発させた。


「そこだな!」


 俺の銀髪は森ではまったく保護色にはならず、すぐにドレイクに発見されると、すごい速度でドレイクは木々の合間を潜って、俺のもとへ突進してきた。


「くっ……」

「キヒヒ! 敵わないからって姑息なマネすんなよなァ!」


 ドレイクの腕が伸びる。

 咄嗟に『炎の要塞』を左腕に展開させた。

 あえてその腕を掴ませて、ドレイクの握りつぶしは防いだが、そのまま地面に体を押しつけられた。


 押しつけられたまま、ドレイクの低空飛行は続く。

 生身の体が制服ごしに傷つけられた。

 普通に痛ェ……。


「ウゥウウウラァア!」


 土や木々の茂みに限界まで俺を擦りつけた後、ドレイクは俺は放り投げた。


 そこは木々が拓けた空き地。

 さっきまで居た場所だった。



 何度か体を打ちつけながら跳ねているうちに、視界にイルケミーネが映った。

 指をすり合わせながら構えている。

 姉貴が頷いた。サポートする気だ。


「トドメだ!」


 ドレイクが口元を吊り上げながら俺に迫る。

 勝利を確信した顔つきで腕を伸ばした。


 パチン。指を弾く音が鳴った。

 背後に転移孔が開いている。

 開通先はドレイクの頭上。


「あぁん? ――ガッ!」


 押し込まれた衝撃が俺のケツタックルの威力に乗っかる。

 奴の脳天にヒップドロップを食らわせた後、後転しながら隙だらけのドレイクのケツに悪戯してやった。


雷撃・散(ブリッツ)

「ひっ……ギギギギギギギ!」


 電気ショックが奴の尻の周囲を襲う。

 股間の虚無感を認識するがいい。


「ふざけっ、やがってェ!」


 迫ってくる裏拳をバックステップで躱した。

 後ろには転移孔の開通が控えている――。


燃焼(バーン)!」


 孔に飛び込む直前に指ぱっちんで炎を灯した。

 直後には俺はそこにはいない。


 ドレイクの背後に降り立ち、『炎の要塞』で補強された左拳を打ち込んだ。


「グェェェエ!?」



 まるでマジックショー。

 ドレイクの苛立ちは頂点に達してるはずだ。

 でも姉妹だからか知らないが、イルケミーネと息ぴったりでちょっと嫌だ。


「そんな連射して魔力大丈夫かい?」

「ナメないで。私はお姉ちゃんよ」

「それもそうか」


 シュヴァルツシルトの血は優秀なんだ。

 このままドレイクをボコりながらフラストレーションを溜めさせるのはいいが、決め手にかける以上、消耗戦になる気がした。



「アア……アアアアア……アアアアアアアア!」


 起き上がったドレイクが怒声を散らしている。

 炎の魔力がめらめらと揺らいだ。

 その眼光が射止めているのはイルケミーネの方だった。

 いよいよドレイクもタネに気づいた。

 力を溜めて、突進を開始した。


 本能が成せる技なのか、ドレイクは掌に火炎弾を創り出して姉貴に連射した。

 隕石のような勢いの火球を姉貴は転移孔を開いて、軌道を変え、燃え広がらないように水魔術で鎮火させていた。

 器用なことをするものだ。

 しかし、ドレイクはそれを見越して火球を投げつけたようだ。


「ガァアアアア!!」

「あっ……」


 イルケミーネが、マズいという顔をした。

 イルケミーネの足元にはリノが座って腹を押さえていた。

 転移孔を既に一本開通させてしまっている。

 アレは重ねて使えないようだ。


 無謀にもイルケミーネはリノに覆いかぶさって庇った。



「バカ、なにしてんだ!?」


 俺の忠告もよそに、ドレイクのかぎ爪攻撃が直撃。

 弾き飛ばされたイルケミーネとリノは木の幹に背を打ちつけて、短く悲鳴をあげるとぐったりとうな垂れた。


「姉貴、運動神経はそんな良くねえのか……」


 魔術師オンリーでやってきた風だった。

 肉弾戦の実戦経験は少なさそう。



 ダメージを負って再起できないイルケミーネのもとに、さらなる火球が襲おうとしている。ドレイクはすぐに追撃をしかけて、掌に抽出したそれを放ったようだ。


「やべえ!」


 ここで二人同時にやられたら終わりだ。

 そもそもこっちは一人も犠牲を出すわけにいかねえ。



 ――その刹那、別方向から火球が飛んできた。


 ドレイクの火球とぶつかると両者とも弾け飛んだ。

 なんだと思って火球がとんできた方向を見ると炎の塊のような猪型の何かが森の茂みから飛び出してきた。

 背にはリナリーとベルンが跨っている。

 あいつら、今までどこ行ってたんだ。


「ふぅー、なんとか間に合ったみたい」

「二度とこれには乗りたくないですわね……」

「あはは、ごめんね」


 ベルンが先に降りると、リナリーは炎の猪を消して華麗に降りた。


 あの塊はリナリーの魔術だったのか。

 炎魔術で、乗り手に熱さを感じさせない塊をどう抽出してるんだろうか。


 てか、絶妙に間に合ってないし。

 実際、イルケミーネとリノは倒れた。

 倒れた彼女らには既にミラが駆け寄って角を光らせている。

 ミラも回復役に徹しているようだ。


 リナリーは俺の視線に気づいて、ん? と反応した。


「どうしたの? サポート役に加勢するよ」

「わ、私も頑張りますわっ」


 みんなサポート役で前線は俺一人の担当か。

 仕方ねえ。竜殺しの宿命だ。

 それに、俺も竜道の相手を取られたら、それはそれで癪だ。


 大事なのはここからどう戦況が変えるかだ。



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