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Episode71 竜特攻vs竜殺し特攻Ⅳ


 勢いで空へ飛んだはいいが、ここからだ。

 これは、ミラが他のみんなを回復させるまでの時間稼ぎにも見えるだろう。

 それもあるが、別の検証をしたい。



 この前の火山洞での戦いで、俺はフラムリーゼを巨大な大剣として呼び出すことに成功し、まだ竜の姿だったドレイクを両断した。

 オージアスを影打・アイズで切り刻んだときもそうだ。

 きっと体内のボルカニック・ボルガの力だ。


 でも、なぜそんなことができた?


 俺自身も気づいてない条件があるはずだ。

 ボルガ発動のための鍵刺激(スイッチ)が。

 これは多分、普通に魔道具を使うような魔力を通すイメージと違うんだ。



 火山洞では、サラマンドがやられて夢中になって跳び上がって――。

 オージアス戦では、やる気はなかったが、イルケミーネの指示に反発して――。


 この二つに共通点は見つからない。

 状況を再現すれば、何かヒントがあるかもと思う。

 だからまず"落下"から再現だ。

 空飛ぶホウキも取り戻したことだし。



 まず形だけの火山洞の再現。

 ドレイクの上空からモーニングスターを振り下ろすのだ。



 後ろにはドレイクが物凄い勢いで追ってくる。

 空中移動は竜の方が速かった。

 ホウキの飛翔能力じゃ当然だろう。


 俺は追いつかれるぎりぎりまで垂直に翔んだ後、くるりと踵を返した。

 ホウキを解除して自由落下に移る。

 真下を向いて腕を振り翳した。


「いっくぜぇぇえええ!」


 蕾状の炎のハンマーを呼び出し、振りかぶる。

 真下にはドレイクの極悪そうな面。

 ――振り下ろす。


 だが、何も反応がない。


 そりゃそうだ。

 落下がボルガ発動のスイッチならオージアス戦で発動した意味がわからない。

 でも、頭に火山洞での光景がフラッシュバックした。


「……!」


 あのとき、違うモノを見た気がする。


 それは白昼夢とでもいうべきか。

 その場ではありえない綺麗な景色だった。




「逃げんなァァァァァ!!」


 ドレイクと僅差ですれ違って、またホウキを展開した。

 ほぼ落ちるように地上に戻り、最初の拓けた場所に戻る。

 追いかけっこも長時間は粘れない。


「ぐっ、はぁ……あぁ……!」

「だァァァるァアアアア!」


 咆哮が聞こえて、ドレイクが俺の着地直後に降り立った。

 地面が凹んでドレイクを中心に同心円状に盛り上がる。

 足を取られて俯せに転んだ。


「――うッ!」

「お前がこんなに弱くてガッカリした。優先して倒さなきゃと思ったんだが」


 ドレイクから不満が垂れる。

 俺は疲れきった体に鞭を打って、無理やり起き上がった。


「お仲間はみんなやられたぞ? 仲間に頼るしかねぇ雑魚アンジめ」

「は~……」


 長く息を吸って溜め息をついた。

 なんかなぁ。若造を見てる老人の気分だ。


「以前の一匹狼でやってたお前はどこにいった? 前の方が強かった」



 一匹狼はダメだと叱ってくれた母親がいたんだ。


 喧嘩の後に話を親身に聞いてくれた先生がいたんだ。


 デタラメな俺を認めてくれた友達(ダチ)がいたんだ。



 この世界には、俺を受け入れてくれる人で溢れている。


 俺はこの世界を気に入ってる。

 来れてよかったと思ってる。


「お前を殺ったら次は人間の世界に入り込んでみるつもりだ」


 だから、昔の俺を知ってる奴には丸くなったと思われるかもしれない。

 このドレイクのように。

 こいつはまだこの世界の良さを知らない。

 もしかしたら人と関われば、良さに気づくかもしれねぇ。


「それでまだよく分からってねえことがわかるようになったら、存分に暴れてやるつもりだ。魔法とかな。滅茶苦茶に破壊してやってよ。気分がいいだろうぜ」


 いや、前言撤回。

 このクズにはきっとわからねぇ。



「――オレが最強なら構うことねぇよな?」


 ドレイクは吐き捨てた。



 立ちはだかるのは竜の頂点に立つ存在。

 『火竜の座』に至ったファイアードレイク。

 俺にとってはただの腐れ縁の宿敵。人類にとっては絶対的脅威だ。


 元の使命はどうあれ、こいつは文明を破壊する。

 こいつは、こいつ自身の性格からして破壊が好きなんだ。

 だからここで倒しておかないと――。



 "とても綺麗なものを見た。"


  "あの苦しい日々も、あの荒んだ戦場も、"


 "あまりに醜くて、堪えがたいほど痛かった。"



 そう思うと、不思議とあの詩歌が甦る。



 気づいたことがある。

 ボルカニック・ボルガの発動のとき、頭に過る光景があった。

 それはベルンとこの島に漂着したばかりのとき、ベルンが坂の下で大きく腕を広げて、詩歌を読んだ姿。

 背後にはキラキラと光を反射する海と水平線のパノラマ。


 それが頭にチラついて、詩歌が甦るんだ。

 あのメドナ・ローレンが残したっていう詩が。



「さぁサガ・アンジ。お前とはお別れだよ」


 ドレイクが手に力を込めて震わせている。

 火球を掌に浮かべて俺に向けた。


「お前にオレの勇姿が見せられなくて残念だよ。じゃあな」


 容赦なく俺に火球を放った。

 大きな火の球が迫る。



 "けれど、私はかの地に理想を追い求め、"



 見える。その先の光景が見える。

 荒野の先に、戦士が背を向けて立っている。

 見知らぬ誰かだった。

 でも、それが、この世界を守ろうと戦ってきた誰かの意志なんだと悟った。



 "そして辿り着いたのだ。至高の場所に。"



 ボルカニック・ボルガに刻まれたのは剣技だけでなく、その意志のすべて。

 つまり、力を引き出すために必要な鍵刺激(スイッチ)は、


「俺が、守れってことだな」


 何かを守りたいっていう意志なんだ。

 思えば、リナリーは元々お節介で剣を振るうときは誰かを守るときだった。

 意識なんかしなくても自然にボルガの力を引き出せていたんだ。



 ドレイクが放った火球に対して、俺は左手を翳した。

 手から炎が湧き出て、それが剣のカタチを作った。

 スローに映る光景に赤い剣の軌道が見える。

 その軌道に手繰り寄せられて剣が振るわれ、火球を斬り捨てることができた。


「あァん!?」

「――――っ!」


 考える隙なんて与えさせない。

 俺はそのまま火剣の意志に従った。

 ドレイクの懐に飛び込んで、下から剣を振り上げる。


 ばちばちと赤い稲妻が俺たちの間を弾け飛んだ。


「くっ……!」


 爪で弾かれたが、追撃につなげる。

 片手だけの剣だがその分、一撃を早く振るうことができた。

 袈裟斬りの軌道を、ドレイクはまた爪で弾き返してくる。

 手を止めることなく、俺は次の斬撃に移った。


 この流れるような剣捌きは、影真流に近いものだ。



「なんでお前がッ」


 ――剣を扱えるのか?



 かなり戸惑ってやがる。

 言葉を並べる暇もなく、次の斬撃がドレイクを襲う。

 こいつを倒すなら首を刎ねないといけない。


「全部を捨ててきたテメェに――」


 剣の手を止めるわけにいかない。

 奴の攻撃を少しでも封じて、隙をついて首を斬りにかかる。

 ドレイクは苦しそうな顔して必死に俺の斬撃に対処した。


「わかるわけねぇよッ!」

「……!」


 ドレイクのかぎ爪のうち三本ほど折れた。



 こいつは俺を雑魚だと言った。

 仲間に頼るしかねえ雑魚だと。


 でも今の俺ならこう思う。

 一人で勝つことに意味なんかねぇ。

 そんなものは、ただの自己満だ。


 俺はこの"剣"をリナリーから受け継いだ。

 リナリーはサラマンドから受け継いだ。

 サラマンド自身は、この剣を作ったのは賢者になった遥か昔だと語っていた。

 きっと剣術の記録に協力した剣豪も、そのとき一緒に世界を救おうとした仲間だったんだろう。俺が視た戦士はきっとそいつだ。


 そうやって受け継いできたものを引っ提げて、俺はドレイクと戦っている。

 それで倒した方が、何倍も価値があるものだ。



「竜が……火竜であるオレが、一番強いんだァァアア!」


 ドレイクは俺の火剣を脇締めで封じた。

 奴の腕と脇の間で一瞬動きが止まるボルカニック・ボルガ。


「ほざいて、ろ――ッ!」


 俺はひと踏ん張り、足を踏みしめて剣を振り上げた。

 ドレイクの片腕が肩で切断されて、くるくると宙を舞い上がる。


「ギ……ッ!」


 短い悲鳴とともにドレイクは後退した。

 こんなに余裕のなさそうな顔つきは久しぶりにみた。

 ドレイクはきょろきょろと周囲を見渡して、何かに目をつけると、すぐさま俺に背中を向ける形で地面すれすれを飛んでいった。


 その先には懸命にイルケミーネとリノを回復させるミラの姿が。

 ミラはドレイクの接近に気づいて慌てて逃げようとするも、イルケミーネやミラを放っておけなかったのか、狼狽えるばかりだ。


 片腕だけのドレイクは、ミラを捕まえて放り投げた。

 なんでもない小動物だと思ったんだろう。

 そのまま木に寄りかかるイルケミーネとリノを串刺しにしようと腕を伸ばす。



「させねぇぇぇぇ!」


 俺はドレイクの攻撃を阻もうと前のめりに滑り込んだ。


「ヘへッ、そうくるよなァ?」


 ドレイクは俺を誘って、騙し討ちすることが目的だったようだ。

 振り向いて卑しい笑みを浮かべたドレイクは、裏拳で俺をぶん殴った。

 裏拳はジャストミート。


 俺は森の茂みに吹き飛ばされ、木の幹に背中から打ちつけて止まった。


「ガッ……ちっ、クソが……」


 ぺっと喉のツバを吐いて正面を向く。

 ドレイクが既に迫ってきていた。


「ギャハハハ! 死ねェェェ!」


 ドレイクは片腕だけだってのに、まるで痛みを感じていないように高笑いして突っ込んでくる。そのまま木の幹に爪を打ち立てた。

 奴の爪が木を抉り、腕がそれを貫通した。


「ハハハ、オレの勝ちだッ!」


 ドレイクは腕で木の幹ごと何かを(・・・)貫き、勝利を宣言している。

 ――何かを。



「あァ……?」


 ドレイクが貫いたのは俺の体じゃない。

 木の幹に背を預ける人型を、ドレイクは確実に貫いた。

 その何かは正体がバレると同時に、霧散するように消えた。


 フェイクだ。

 それは魔力で捻出された偽物。



『黒い影は昼間だとすぐ相手に気づかれちゃうでしょ。だから"色"のついた影を飛ばすんだよ』



 ――塗装した(シャドウ)


 リノが練習していた闇魔術の応用技。

 あいつ、自分じゃなくて俺の影をつくってドレイクを騙したのか。

 俺も、ドレイクが俺のいる木の幹から少し離れた木に向かっていくものだから、最初は意味がわからなかった。


「なんだこれはァ……!」


 騙し打ちをしたつもりが、自分が騙されたドレイク。

 激昂して貫通した腕を引き抜こうともがくが、片腕しかないせいで時間がかかっている。今がチャンスだ。


「アンジーっ、やって!」


 遠くからリノが這いつくばりながら、こっちを凝視している。

 リノにとっても僅かに回復した力を振り絞った限界のサポートだったんだろう。

 ああ、お前の親の仇討ちは任された。


 火剣の力を最大限まで引き出し、大剣を出現させる。

 ドレイクはジタバタもがき、もはや木ごと焼き尽して脱出しようと思ったのか、片腕に魔力を込め始めた。



「グォォォオオオ!」


 木が燃えそうになる。

 ――ように見えたが、なぜか火が出現してこない。



「……論理演算(ブーリエン)減衰(ダンプファン)!」


 そこに歩み寄る高貴な服装の女がそう唱えていた。

 演算魔術はベルンシュタイン家の技だ。


「アンジー、今のうちですわ」


 木の影から出てきたのはベルンだった。

 リナリーに肩を預けながら足を引きずってやってきた。

 それは俺を強化するのではなく、相手を弱体化させる演算魔術だ。

 リナリーとの訓練で身に着けたんだろうか。



 ここにきて友達同盟が大活躍している。


 ここまでサポートされたら、もうしくじれねぇ。

 最後に花をもたせてもらって、こそばゆさを感じる。

 俺は大剣を振り上げた。


「ま、待て、サガ・アンジ!」

「……?」

「マジでオレの首を刎ねるのか!? そんな残虐なことして楽しいか?」

「今更なに言ってんだ?」


 ドレイクは命乞いを始めた。

 クズは最後までクズらしい振舞いだった。


「竜道、ここにはお前を助ける奴なんかいねえよ。シグマのこともオージアスのことも裏切って、滅茶苦茶にしてきたツケだろ」

「ち、違ェって! オレはハメられたんだ!」

「それにテメェは――」


 こうして見ると竜道がただのチンピラにしか見えなかった。

 何も引っ提げていない。薄っぺらい奴だ。


「さっき俺をかわいいって言いやがった。だから殺す」

「へ、え……?」


 それだけでぶっ殺すには十分だ。


 なんたって俺は竜殺し。

 竜を殺す理由なんて、個人的なことでいいんだよ。

 それが竜殺しの(サガ)だ。



「――俺たち(・・)が最強なら構うことねぇよな?」



 皮肉を込めて、ドレイクの言葉をそのまま返した。

 俺は力いっぱい火剣を振りかぶり、そしてその首を刎ねた。


 最強を謳う竜のあっけない最期だった。

 首は転がり、何回か跳ねると、それは元の赤竜の首に変わっていった。

 力を失ってドレイクも元の姿に戻ったんだ。

 ずしゃりと木の幹に引っかかっていた竜の巨躯が、地上に倒れた。


「はぁ……はぁ……」


 やっと終わった。

 俺もさすがに長期戦で体力が限界だった。

 ボルカニック・ボルガの反動で体に負荷もかかってる気がする……。


 それに、しんどいのは俺だけじゃなかった。

 膝に手をついて見回すと、みんなへたり込むように、その場に座り込んだ。

 このチームで防いだ赤竜族の陰謀だ。


「みんな、ありがとな」


 力は互角だった竜特攻と竜殺し特攻。

 その差を開いたのは仲間の存在だった。

 自分さえよければいいと片っ端から同族を切り捨てていったアイツと、一匹狼を改めて友達同盟を結んだ俺の決定的な差。

 

 これは、いい教訓だな――。




 最後まで元気だったミラが全員の治癒に当たった。

 しばらく経って、日が暮れそうになった頃、イザベラやファルマイヤの船乗りたちが俺たちを迎えにきてくれた。


 フィルとファウが全部終わったと伝えてくれたようだ。

 あのエルフ二人も意外と情に厚い。

 いますぐ帰ろうとぼやいていたわりに。



 オージアスが乗ってきた船を拝借してダイナ島を去った。

 夕日に向かう航路だったため、島は逆に夕闇に沈んでいくように見えた。

 長くてハードな遠足だったぜ。

 失うものも多かったが――。


「アンジー、ほら、見て」

「ん?」


 名残惜しそうに甲板からずっと島を眺めていたリナリーが俺に声をかけた。

 指を差す方を見やる。

 竜の形をした影が数頭、島から飛び立っていく姿が見えた。


 あれは狩り残した野良の竜だ。

 恐竜が暴れる映画のラストシーンを彷彿とさせた。


「島を離れるんだね。怖くなったのかな」

「アレ、放っといていいのかよ。人間に竜種の生存が知られたら大パニックになるんじゃなかったのか?」

「ああ――」


 リナリーは、ぽんと手をついた。

 俺たちは見慣れすぎて、すっかり忘れかけている。


「サラちゃんが卒業した『火竜の座』は、きっとまた別の竜に受け継がれるよ」


 リナリーは"卒業"という言葉を使った。

 まだどこかにいると信じているんだろう。

 サラマンドが先代の火竜の声を聴いたという証言から、その説は十分ありうる。


「だから、こんなこと言うのもアレだけど、私は竜種を絶滅させたくないな」


 遠い目をしながらリナリーは呟いた。

 魔術ギルドではサンプルとして需要があるという話だが、リナリーの場合はまったく別の、個人的な願望だろう。


「それに、また問題が起こったら、竜殺し(アンジー)がなんとかしてくれるよね?」

「ああ、上等だぜ」


 親指を立ててリナリーを勇気づける。

 リナリーは安心したように微笑み返した。



 俺の存在意義に関わる問題だからな。

 でも、しばらくは竜とは距離を置きたい。

 もううんざりだ。

 いつか力が必要になるその時まで、俺は普通の女として生きていく。


 心に宿る『竜殺しの(サガ)』は忘れないように――。



次のエピローグで完結となります。

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