Episode56 竜殺しの男泣き
さぁ、やってきました! 今週の竜殺しのサガ!
今日のゲストは誰においてもまずはこの人!
そう、アンジー・シルトさん本人です。
はい~。パチパチパチパチー。
うぃーっす、アンジー・シルトだ。
これまでのあらすじを紹介させてもらうぜ。
竜道との決着は廃工場でがっしゃんこして幕を閉じたように見えたな?
あ、ついでにミラも巻き込んだぜ。ごめんな?
とにかく、終わったように見えた因縁は、まだ続いていやがった。
異世界転生を果たした俺、佐我アンジことアンジー・シルトは5才の幼女になっていたが、ティマイオスという電波ヒス女との空中庭園バトルも勝利。
聖獣に転生していたミラと再会を果たした。
そんで魔術の才能を見込まれて、この異世界の魔法学院とやらに9才で進学することになったってのがすべての始まりだ。
やっぱり不良とは縁の切れない宿命なのか、そこでも不良グループ『竜鱗』に目をつけられて、なんやかんやあってそのリーダーのイザベラ・ファルマイヤの根性を叩き直すことができたぜ。
おまけにファルマイヤの実家は竜とズブズブの関係で、送り込まれてきた黒竜ダルケをぶっ殺して俺の竜殺し伝説は晴れて開幕。Now on Sale!
乗りに乗ってきたところで竜の隠れ家になっているっていうこの無人島、ダイナ島へカチコミを決めにきたってわけだ。
そこで宿敵、竜道レイクとご対面。
竜になってイキる竜道。対する俺は竜殺しだぜ?
余裕でバチーンしてやったよ。
どうだ、竜道。お前が竜で俺が女だろうが、お前なんかワンパンで終わりよ。
ふ、ふふふふふ、ふはははははははは!
俺ってやっぱ最強?
無敗伝説として語られるのも悪くねぇな。
あー、敗北の味を知りたいぜ。
敗北の味を……。
敗北の……。
あぁ、なんでこんな視界がぼやけてんだ。
夕日が眩しくて目が霞むのか。てか良い景色だな。
なんか瞼も重たいし、虚無感ヤバいな。
「うっ……うぅ……ひくっ……うう……」
おいおいおい、誰だよ。なに泣いてんだよ。
そこの夕日以上に赤い髪のお前。
メソメソすんな。な? せっかく人が良い気分で夕焼けにたそがれてるのによ。
俺にまかせとけ。
大丈夫。悲しいことも全部ぶっ飛ばしてやるから。
だからもう泣くんじゃねぇ。頼むから。
「ぁ――――」
どうやっても声をかけられない。
頭の中のストーリーとこの光景の差に混乱する。
どっちが本当で、どっちが嘘なのか、わからない。
「アンジー……」
赤髪の女が顔をあげた。
赤く腫らした目元を見て、ぐしゃぐしゃになった顔を見て、俺はこっちが本当なんだと思い出した。
さっきの無双は、ただの妄想だ。
わかってるよ。俺は負けた。
負けたぜ。竜道に。認めるよ。
だったらなんだ。さっさとリベンジいくぜ?
負けっぱなしは性に合わねぇからな。
「リナリー」
「…………っ」
「はぁ?」
リナリーは俺をぎゅっと強く抱きしめてきた。
夕日をバックに、さぞロマンチックだろうな。
俺が男だったらな。
でも今は俺もちっこい女だ。様にならねぇよ。
「アンジー、泣いていいんだよ……」
「え?」
びっくりした。
なんで俺の方が慰められてんだよ。逆だろ。
おまけに頭もナデナデされた。
「悔しかったら涙を我慢しなくていいの。つらかったら吐き出していいの。私はアンジーの味方だから」
「…………」
ああ、もうダメだ。
正体不明の何かが決壊して、溢れてくる。
ごめん。……いや、ごめんなさい。
俺がアンタの相棒を犠牲にした。
俺の無鉄砲さが、あの愉快な賢者を殺させた。
謝っても謝りきれねぇことだが、俺はそれをどう言葉にすればいいかわからずに現実逃避モードに入っていた。
でも……それでもリナリーは許してくれる。
甘えていいんだな。そう思ったら目から色んなものが零れる。
「ごめん、俺……ごっ……ごめんなさい……」
「うん。大丈夫よ。もう、大丈夫だから」
「う……うぁああああああああああああ!」
こんなにみっともなく叫んだのはいつぶりだろう。
どんどん太陽が水平線に沈む。斜陽ってやつだ。
まるでこっちの涙で溺れ沈んでいくようだった。
俺も一緒に連れてってくれよ。なぁ……。
○
「はっ、ここは……?」
焚き火が完成する頃、もう一人のお嬢が起きた。
ベルンハルデ・ベルンシュタインだ。
思えば、こいつは火山洞から落ちたときから意識が飛んで何も知らないんだ。
サラマンドが死んだことも、俺が負けたことも。
こっちは猛省中の身で、真面目にドレイクを打ち倒す作戦を練っている。
過去の因縁とか関係ナシにな。
で、展開についてきてないお嬢の存在は面倒だ。
とはいえ、今回のことは俺の傲慢さが招いたことだとすれば、俺自身も譲歩する心を磨かないと成長がない。ベルンも俺の暴走を止めようとしていた。
やっぱり一緒に行動する誼で伝えるべきだ。
そこで、寝起きで混乱するだろうベルンに配慮し、俺からも姿勢を示すため、そして洗った服を干すために俺は全裸でベルンの目覚めを出迎えた。
「な、なんで裸なんですの……?」
「これが俺なりの姿勢だ」
「あの、意味がわからないのですけど」
「なんでもいい。これが今の俺だ。察しな」
「え? えぇ、はい。……まぁ眼福ですわ。ありがとうございます」
ベルンは途中から考えるのをやめた。
「アンジー、ベルンちゃんを虐めないの」
「俺はただ反省中ってことを伝えようとして……」
「着る服がないだけのことでしょ!」
「まぁ、それも一つあるな」
「それが全部だよっ」
でも案外、裸で焚き火にあたると心が洗われる。
暖かいだけじゃない。気持ちいい。
家に暖炉があるリッチメンには是非やってほしい。
焚き火を囲って夜営した。
事の顛末を伝えると、ベルンは涙ぐみながら亡きサラマンドを悼んだ。
ベルンの方がよっぽど大人だった。
「それで、新生サラマンド――ドレイクだったか。どう斃すか考えてるの」
「弔い合戦ですわね。……でも、また竜ですのね」
ベルンは眉間に皺を寄せた。
俺と火山に向かうときは、竜に罪はないと言って協力しない姿勢を貫いていた。
それは正しかった。
俺が狩りつくした島の竜は、赤竜族じゃなかった。
何の罪もない野良の竜だったようだ。
サラマンドもダルケも死んだ今、赤竜族はドレイクとシグマの2頭だけ。あいつらが元凶だ。
「私も協力しますわ。微力ですけど」
「ううん、ありがとう。戦力は多い方がいいよ」
「ベルンシュタインの演算魔術なら、多少はお役に立てるかもしれませんわ」
そうだ。俺の攻撃手段は演算魔術と相性が良い。
今でこそ『炎の巨人』も調子がおかしい。
火剣ボルカニック・ボルガの剣柄を体に埋め込まれてからというもの、俺は元々の巨人すら召喚できず、刺々しい巨大な蕾しか生み出せない。
これを上手くコントロールすれば……。
それには演算魔術で調整するのが手っ取り早い。
リナリーは、演算魔術は詳しくない――そもそも東方魔術は齧る程度な――ようだが何かしら戦術を考えると言っていた。
「あとは敵を知るしかないか。こっちの最終兵器は、竜殺しと火剣の性能を宿したアンジーだけだし」
リナリーが呟いた。
俺は、自分の力を信じるが、それは同時にドレイクの力も信じることになる。
"ドレイクには対・竜殺しの力が宿った"
"謂わば『竜殺し』殺しだ。我らの天敵が貴様なら貴様の天敵がドレイクだ"
「待った。ドレイクは俺の天敵だ。俺が竜殺しである以上、あいつに勝てないって話じゃねぇのか」
「それ、私も聞いてたよ」
「だったら最終兵器には力不足なんじゃねぇか?」
「……」
リナリーは顎に手を当てて考え込む。
「本当にそうかな? あの戦い、私も見てたけど、十分張り合ってた。多分、お互いが特攻対象ってだけで力を完全に相殺できるわけじゃない気がする」
「そう、なのか……?」
負けてたのは俺の気持ちの方か?
確かに、それまで竜相手に無双してた反動で、通じなかったときのショックは半端なかったけど。
「それよりアンジーは、あの竜とどういう関係?」
「ん? なんだ?」
「なんか会話とか口ぶりから、初めて会った間柄に見えなくてね」
そりゃそうだ。腐れ縁だぜ。
高校と、死に場所まで一緒だったんだからな。
「でも何処かで会ったとは思えないし」
「ああ、リナリー。その感覚は正しい。俺はあいつとは古い付き合いだが、今日初めて会った」
「それって矛盾してない?」
「いや――」
賢者が一人死んでんだ。腹割って話すしかねえ。
俺の前世の話を。
「ドレイクとは腐れ縁ってやつ。前世からのな」
「え……」
「ドレイクは元々、リュウドウ・レイクって名前だった。俺はサガ・アンジだ。どっちも男だった。今のリナリーくらいの歳の頃、お互い事故で死んだ」
おまけにあの聖獣もな、と付け加える。
ここまで堂々と話すのは初めてかもしれない。
リナリーとベルンは硬直していた。
「竜道のことはよく知ってる。
前にいた世界じゃ魔術なんてなかったが、喧嘩っ早い俺たちはよく殴り合ってた。通ってた学校はアチカ魔法学院と雰囲気は似てたな」
俺は溜まり溜まってた分も二人に全部話した。
「リュウドウのリュウは竜って意味だ。俺はそいつを学校で唯一返り討ちにできたから『竜殺し』って冗談みたいに呼ばれてた。こっちに生まれ変わっても『竜殺し』ってのは驚いたぜ」
話すうちに信じてくれるか自信がなくなってきた。
でも話さないとな。サラマンドのためにも。
竜道に関して知ってることは全部伝えた。
前世の年齢、性別、性格、家庭環境。死因もだ。
一通りの喧嘩エピソードも伝えて反応を伺ったが、
「ドレイクよりアンジーの前世の姿のが気になる」
「ア、アンジー……殿方だったのですね……。そ、それじゃあ、私はあのあられもない姿で殿方と湯浴みを……もうお嫁にいけませんわっ」
こんな取り留めのない返しをされ、俺も後悔した。
一度にカミングアウトしすぎたか。
ちなみにベルンの裸見たのは佐我アンジじゃなく、アンジー・シルトだからな。
「一つ、わかってほしいのは、俺は俺だってことだ」
元が男だからって何か変わるもんじゃない。
一本ぶれずに筋を通す。俺の流儀だ。
「ごめん、動揺してた。アンジーはアンジーだよね」
「そうだ。だから今はドレイクに一泡吹かせることに全霊をかける。やることは変わんねえよ」
「うん。でも一緒にね」
もう何もかも包み隠さず伝えた。
あとは頭のいい連中で考えてくれ。
俺は最前線で戦う。その覚悟だ。
でも、こんな俺を受け入れてくれたリナリーとベルンには感謝してる。




