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Episode31 竜殺しと竜の紋章


「ふわ~あー……あ……ふぅ……」


 あくびこいて、体伸ばして、息を吐き出す。

 今日から何もしなくていい日が2週間続く。

 クラスの連中は遠足で無人島へ出発。

 俺は留守を任されて授業免除。

 リノの監視役っていう、いつもの面倒が付きまとうのは仕方ないとして。


「あーーーー、自由だーーーー!」


 最高だ。またベッドの上に寝転がった。

 このまま惰眠を貪るのもアリだな。

 それこそ前世で不良だった頃みたいに。

 差し詰め、今の俺は夏休みを迎えた中学生ばりの自由さを手に入れた。


 贅沢言えば、ブッ○オフかTSU○YAがあれば。

 漫画かDVDかYou○beかゲームでもあれば。

 まぁそこまで言わねえが、ベッドでできる娯楽があれば無限に引き籠れる。


「…………」


 だが、ぼーっと天井を眺めて愕然とした。

 この世界で授業をサボれても暇すぎる。

 そりゃそうだ。娯楽なんて何もねぇし。


「あー……」


 これ、もしかして想像以上に拷問?

 意外と休みってつまんねぇな。

 とりあえず起きて制服に着替えておこう。


「アンジー、おはよう!」


 既に着替えて出歩く準備万端のリノが、散歩前の飼い犬みたいにキラキラした目で俺を見た。


「ういーっす」

「ね、ね、今日から何して遊ぶ?」

「俺が楽しめる遊びなんてこの世界にあるか?」

「なんか急に悲観的だね……」


 そもそもリノが元凶なんだぞ、おい。

 お前あれだけ暴れといて目覚めたら覚えてませんってバックレやがって。

 俺も今度からそれ使おうかな。

 精神鑑定なんてされねぇだろうし。


「アンジーが楽しいことってなーに?」

「そうだなー。まぁ喧嘩も楽しいとは思うが、俺も知性ゼロの猿じゃねぇ。漫画も読むし、ゲームもするし、それなりのことはやるぜ?」

「まんが、げーむ、なにそれ?」

「要するにベッドのお供だよ」

「べ、ベッドのお供!?」

「そうよ。それだけあれば昼も夜もベッドが楽しいし、時間も忘れられるぜ」

「そんな……アンジー、大人だね……」

「はぁ?」


 逆に子どもっぽいと思うが。

 てか、リノの目がギラついて鼻息も荒い。

 また目からビーム状態になるのか?

 心眼モードだっけ。それだけは勘弁だ。


「いつもはベッドのお供が居るの?」

「ねぇよ。だからつまんねえって言ってんだろ」

「そう。よかった……」

「……?」


 よくねぇ。

 リノとはたまに会話が噛み合わない。

 突然、今まで体丸めて寝てたミラがベッドの上からぴょんぴょーんと跳び上がって俺の肩に乗っかってきた。


「キュウキューウ!」

「なんだよ? ……いてっ」


 バシっと肉球で殴られた。

 最近、ミラも肉球殴りに快感を覚えたのか、よく俺を殴ってくる暴力系ヒロイン街道まっしぐらになりつつある。


『リノちゃんにヘンなこといわないの』


 光の粒子で日本語の文字が現れた。

 何も悪いこと言ってねえ。冤罪すぎる。


『ひまつぶしならモンショウさがしは?』

「モンショウさがし?」


 モンショウ……紋章……か?

 紋章探し。あれのことか。

 リナリーが言ってた『竜の紋章』だ。

 学校の校舎には建材で使われたらしい古代竜の祭壇の名残りで『竜の紋章』がそこかしこにあるようだ。


「確かに宝探し感覚で面白いかもな」


 幸いにもリナリーが描き残したメモがある。

 紋章を校舎の地図にマッピングできれば、意味はなくても達成感は得られる。

 飽きたらやめればいいし。


「よし、今日は竜の紋章探しで遊ぶぞ」

「おー!」


 リノはなんでもよさそうだった。

 何するかわかってない感じで拳を掲げた。



     ○



 他の奴らは講義で、それを横目に平然と廊下を歩く快感は前世と同じだった。

 ただ、アチカ魔法学院は不良が多すぎる。

 基本サボった不良学生が蔓延ってやがる。

 唯一、入学当初と違うのは俺たちを見る眼。

 完全にヤバいものを見るような眼だ。

 頼むからこっち来るなって怯えた顔でチラチラ見てくる。立場逆転だな。


 職員室の近くにあった廊下の本棚から、黄ばんだ校舎の地図をくすねた。


「それって取っていいの?」

「さぁな。でもこの地図もここで人知れず黄ばみ続けるより俺に遊んでもらった方が嬉しいって言ってるぜ」

「そうだね! さすがアンジー!」

「じゃあマッピング開始と行くか」

「いえーい」


 ミラが呆れたように首を振った。

 言わんとしてることはわかるが、無視だ。



 紋章を探す上で、なんとなくここだって所に目星を付けて行ってみた。

 校舎裏とか屋上とか空き教室の周りとか。

 リアル探索ゲームみたいな感覚で。

 これが意外と当たる当たる。

 ここだろって覗けばほぼ百発百中だった。


「なんでそんな簡単に見つけられるの?」

「不良の勘ってやつかな」

「すごーい! アンジーはやっぱりすごいね」


 リノのこういう所は悪い気はしねぇ。

 こいつの猟奇さを知りながら未だにツルんでるのも、そこに心地良さを感じてるからだ。


「でもこんなあっさりってのも確かに変だ」

『それだけ かずがおおいのかも』

「……だろうな」


 ミラも引いていた。俺も正直引いた。

 普段過ごしている校舎に竜絡みのモノがこんなに潜んでたら気味が悪ィ。



「あなたたちは!?」


 突然、後ろから声をかけられた。

 ミラは俺の銀髪に隠れ、リノは竦み上がった。

 俺は振り返って声の主を確かめた。


「あぁ? なんだ?」


 サボリ公認の今、俺もめっちゃ強気だ。

 そこには教頭のラウラがいた。

 驚いて眼鏡の奥の目ん玉が見開かれてる。

 相変わらずのダイナマイトおっぱいだぜ。


「なんで此処に!? 今日から遠足でダイナ島に向かったはずでしょう?」

「は? 教師の連絡系統は大丈夫か」

「え……?」

「俺たちはこないだの騒ぎで謹慎中だぜ」


 授業も出席禁止という名の免除だし。

 それをなんで教頭が知らねえんだよ。


「そんな……遠足参加は指示したはず……」

「ええ?」


 話が食い違ってるようだ。

 てか知らなかったとしてもそんな驚く事か?

 まるでこの世の終わりって顔してやがる。


 ラウラは動揺して抱えていた書類を落とした。

 ばさっと広がる紙を慌てて拾い上げる。

 俺やリノも、仕方ねぇなーって感じで拾うのを手伝ってやった。


「――!」


 書類の表紙を見て、一瞬だけ驚いた。

 だが、即行で知らんふりして渡してやった。

 ……表紙に『竜の紋章』が描かれてやがる。


「あ、ありがとうございます。とにかく、私がなんとか遠足に行かせてあげますから寮で待っててください。で、では」

「…………」


 馬鹿だな。そんなに動揺したらモロバレだ。

 ま、書類の紋章だけで一発だったが。

 ラウラ。テメェはクロだ。


「なんか教頭先生、様子が変だったね」

「変なのは様子だけじゃねぇぞ」

「ん? どういうこと?」

「しっ……お前見なかったか。さっきの書類」

「見たけどそれがどうしたのー?」


 リノはド天然すぎて駄目だ。

 さっきまで紋章探しで夢中になって見てた絵柄をすっかり忘れてやがる。


「よし、あいつを尾行(ツケ)るぞ」

「なんで? 先生が寮で待っててって……」

「待つわけねぇだろ! 全部ヤツらの罠だ」

「ヤツら?」


 説明するのも面倒くせぇ。

 とにかく最初から変だったが、この学校の幹部は揃って竜とグルだ。

 状況証拠が揃いすぎてる。


 古代竜を祀った神殿の建材が使われた校舎。

 サラマンドが感じる竜の世代交代の感覚。

 そんで、遠足が急に無人島に変更されたこと。

 竜殺しセンサーなんかなくても、竜種がこれから何かしでかすのは推測できる。

 魔女のメドナが預言してたことだ。


「今、俺はヤバい状況に置かれてるが、リノが味方してくれたらすげぇ心強いぜ」

「本当?」

「ああ。だからラウラを追う。得意だろ?」


 尾行は暗殺者の血を引くリノの十八番だ。

 リノは満面の笑みで頷いた。

 俺に頼られて嬉しくなったんだろう。



     ○



 2人と1匹でラウラを尾行した。

 ラウラは焦ったような足取りで、まず教頭室に戻り、封筒を抱えて出て行った。


 たまに親指の爪を噛んだりして忙しない。

 明らかに動揺してやがる。

 俺かリノが遠足に行ってないのが、奴らにとって不測の事態なんだ。


 あれだけの事件で学校を騒がせた俺らだぞ。

 それで無理やり遠足に行かせるのはおかしい。

 リナリーの言う「自宅謹慎になった」ってオチのがまだ筋も通ってるし、納得もできるぜ。


 もしかして、これはリナリーの策か?

 俺らを守るために自宅謹慎を隠蔽したとか。

 それか、学校の幹部どもを出し抜くために参加したことにしたのかもしれねぇ。

 リナリーならそれくらいの機転は利かす。



 ラウラは学校の裏門に出た。

 俺たちは木陰に身を潜めて様子を見守った。

 裏門には後から別の誰かが現れた。

 すげえ。バイヤーの取引現場を見てる気分。

 麻薬の裏取引って感じだな。


「なんだい、これは?」


 そこに現れたのは銀髪の女だった。

 つまんなそうな顔で差し出された茶封筒を見ている。


「イザベラ……!?」

「あの人、アンジーの敵だ」

「待て。まだ動くな」


 どうどうと猛獣(リノ)を宥める。

 ラウラの取引(?)相手が竜鱗のイザベラ?

 ってことは、あいつも竜側の味方か?


「いつもの報告書と、あと伝言です」

「伝言? 茶封筒は見慣れないねぇ」

「緊急で。お父様によろしくお伝えください」


 それだけの会話で終わった。

 イザベラはラウラから茶封筒を受け取って、肩に乱暴に担ぎながら裏門から外へ出て行った。

 ラウラも校舎に戻っていく。


『おとうさま? ファルマイヤになにかあるね』


 ミラの光文字が視界に入る。

 ファルマイヤ家が絡んでるのか。

 イザベラは『竜の鱗』を武器にしていたし、あいつも怪しいとは思ってた。


 だが、イザベラには腹黒さを感じねえ。

 こればかりは不良の勘だが。

 ファルマイヤ家が真っ黒でも、イザベラだけ何も知らねえってこともあり得る。

 今の会話もよく分かってない雰囲気だった。


「教頭先生が校舎に戻っちゃうよ。どうする?」

「そうだな……」


 ラウラを追っていても仕方ねえ。

 あいつはどうせこれから寮に向かって、俺らを遠足に誘導するに違いねえ。


「イザベラだ。次はイザベラを追うぞ!」

「ええ? でも外に行っちゃったし」

「だからだよ。実家にでも帰るんだろ」


 ファルマイヤ家には何かある気がした。

 幸いにも俺らは今フリーだ。授業もないし。


 それにイザベラも気がかりだ。

 前に喧嘩した時より憔悴しきった顔してた。

 イザベラと付き合いが長いワケじゃねぇが、こないだのリノとのガチンコ勝負もあるし、負け続きで不安定になってるんじゃねーかと……。

 別に情が移ったんじゃねーぞ。

 学校で唯一張り合えそうな奴が意気消沈してたら面白くねぇってだけだ。



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