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Episode29 人殺しと剣聖の娘


 リナリーが他の教師を呼びつけ、傷ついた不良生徒を保健室へ運んだ。

 そのまま保健室で作戦会議。

 アチカの教員が何人か集まったが、みんな事情を聴いて冷や汗を浮かべた。



 現場付近に犯人はいなかった。

 つまり、刃物を持った修道服の女が今も校舎を彷徨ってるってこと。

 しかも狙いは『竜鱗』メンバー。

 不良2人組がそう名乗ったせいで、『竜鱗』が狙われているとか。


 変態の辻斬りが始まったってワケだ。

 普通、こんな事態になれば、休校にするとか、出歩かないように呼びかけるとか、教員側で対応すべきことがあるんだろうに、ここの教師は揃いも揃って無能だった。


「ど、どうしましょう、リナリー先生……」

「落ち着いてください。私の方でリノちゃんを探して取り押さえますから、先生たちは他の生徒たちに帰宅を命じてください」

「め、命じるって、あの子たちにですか」


 他の教師は怯えて動こうとしない。

 今まで不良を野放しにしてたツケだ。

 命令とか呼びかけとか、今になってあいつらと絡むのが怖くなったんだろう。


 今までは『竜鱗』が学校を牛耳っていた。

 イザベラが生徒会を根城に『竜鱗』を束ねていたおかげで、不良どもも流血沙汰になるほどヤンチャしなかった。

 それが新手の登場で統制が混乱。

 この俺のことだ。反省はしねぇが。


 リナリーもここの教師の無能ぶりを察したようだが、今は生徒の安全が優先。

 猫の手も借りたい状況だった。

 ここの教師は猫にもなりゃしねぇ。


「とにかくお願いしますね! アンジーは私と来て。リノちゃんの友達なんだし」


 リナリーは俺の手を引いた。

 そのまま保健室を後にする。



「なぁ。あんた、接近戦もいけるクチ?」


 前方を走るリナリーに尋ねた。

 冠位魔術師と言えど、華奢なリナリーは魔術以外からっきしって印象だ。

 俺もリノと直接戦ったことはあるが、単純な魔術戦じゃ終わらない相手だぜ。なんせ忍者だし。


「うーん。どうだろ。小さな子を押さえつける程度の力はあるけど、気になるのはリノちゃんの剣の腕前かな……」

「あいつは忍者みたいに素早いぜ」

「ニンジャって何?」

「とにかくちょこちょこ動き回る奴のこと」

「そう……やっぱりそうか」


 リナリーは遠くを見た。

 何かを思い出そうとしてるみたいだ。


「さっきの子たちの傷跡だけど……」

「ククッ、ありゃ『影真流』の剣技だぜ?」


 サラマンドがリナリーの髪から顔を出した。


「えいしん……? なんだそれ?」

「サラちゃん、余計なこと言わないでよ」

「――その昔、暗殺業に長けた部族がいてな。そいつらが究めた殺人剣がある。斬られた本人は斬られたことすら気づかない。なぜかって剣捌きが速すぎるのと、人体の筋を綺麗にカッ捌いちまうからだ。出会ったときには細切れよ。ケケケ」


 リナリーはサラマンドを小突いた。

 女の子に話す話じゃないでしょ、と忠告した。


「ま、その部族は全滅したって話だがなー」

「なんでリノがそんな剣術を使うんだよ?」

「多分、あの黒髪と蒼い目は……」


 リナリーは走りながら固唾を飲んだ。 


「その部族の末裔なんだと思う」

「マツエイってなんだ?」

「生き残り。その血を引いてるんだよ」

「はぁ、マジで……。また血統がらみか」


 なんでリナリーが部族の特徴を知ってるのか。

 冠位魔術師だし、博識なんだろうか。



     ○



 探すまでもなく、野次馬を発見。

 校庭に人だかりがわんさか居た。

 揉め事が起こっていることは間違いねえ。


「みんな退いて! 離れてて!」


 リナリーが先陣切って渦中に飛び込んだ。

 俺も野次馬を掻き分け、中の様子を覗き込む。

 ちょうど数人のガラの悪い不良が爆風に吹き飛ばされたとこだった。……爆風?


「のぁああああっ!」


 校庭に粉塵が舞いあがる。

 なんとか踏ん張って爆風を耐えた奴は、負けじと砂煙に初級魔術を放った。

 闇雲に放たれた魔弾は煙の中に消えてゆく。

 あれだけ一斉に掃射されれば、煙の中のヤツはひとたまりもないだろう。そりゃ爆発めいたことも起こる。


 だが、煙に消えた魔弾は爆発しなかった。

 突然、亀裂が入るように紫色の光の筋が見えると、すっぱり煙ごと斬られ(・・・)、霧散するように魔弾も消えた――。



「…………」


 リナリーが絶句して固唾を飲んだ。

 予想が当たったらしい。


 煙が晴れてリノが姿を現した。

 竜鱗の連中を睨む蒼い瞳が、きらりと光る。

 比喩じゃなくてマジで光った。

 今のリノなら目からビームでも出るんじゃねぇか?


「まずい。あれ、完全に心眼モードだ」

「目からビームが出るんだな!?」

「ビーム……? ううん、何も出ないけど」

「な~んだ、新しい必殺技かと思ったぜー」


 リナリーが呆れたように答えた。


「心眼ってのは、暗闇や視界が悪い場所でも相手の動きを見極める能力だよ。極めれば『未来予知』に近い芸当もできるみたい。……今のリノちゃんは隙なし」


 おいおい、さすがに人間離れしすぎだろ。

 でも冷徹な青い眼からは凄い殺気だ。

 本気全開って感じだ。


 あと、右手の細いナイフは魔力が宿ってる。

 紫色のオーラみたいなやつだ。

 あれは前に俺の『炎の巨人(フラムリーゼ)』の片腕を斬ったときと同じだ。あれでさっきの魔弾の掃射も斬り捨てたんだろう。

 特徴を知ってる俺なら何とかできるかも。

 ここは俺の出番だ。


 ――そこでリナリーが俺を手を制した。


「待って。アンジーはまだ隠れといて」

「なんだよ。俺を連れてきたのはそっちだぞ」

「アンジーは体調が悪いでしょ。それにあの状態のリノちゃんにアンジーが攻撃したら、リノちゃんはショック受ける。アンジーは取り押さえてから説得する係ね」

「ブチのめしちまえば誰がやっても一緒だろ」

「だめ。女の子の心は繊細なんだから」


 今の俺も一応、女なんだが……。

 別に女になりたいとは思ってないが、複雑な気分だ。



「――アンタ、覚悟はできてんだろうねぇ!」


 そこにドスのきいた女の声が響いた。

 この声は聴いたことがある。

 紛れもなく竜鱗の(かしら)の声だ。


「ファルマイヤの名に賭けて、部下に手ェかけられて見過ごすワケにいかねぇ!」


 校庭の空気がびりびりと痺れた気がした。

 それだけの気迫はあった。

 イザベラの登場は予想通りというところで、野次馬の連中は一斉に静かになって、待ってましたと拍手を送るやつもいた。


 だが、一部から心配の目を向けられている。

 こないだの俺との戦いで負けたからか。

 ……意外とイザベラも学園アイドル的存在なのかもしれない。


「これは竜殺しの命令かい?」

「――――」

「口は割らねえか。わかった。覚悟は十分ってことだね。だったら、あたいも本気でいくよ」


 イザベラは氷の剣を生成した。

 それをナイフで受け止めるにはあまりにデカすぎる。


変換(エザッツ)銀盤(アイスバーン)!」


 校庭をスケートリンクに変えやがった。

 まっ平で綺麗な銀盤が校庭を包む。

 イザベラはどうやら氷魔術が得意なようだが、靴裏にも刃を氷で生成して、ここをアイススケート場にして滑る気だ。


 おお、と野次馬はどよめいた。

 イザベラが滑走して大振りな刃でリノを襲う。

 それをいとも簡単にリノは避けた。

 腰を曲げてナイフを銀盤に突き立てると、体操選手のようにその場で軽々と逆立ちして、足技でイザベラに反撃をしかけた。


 だが、ここはイザベラの土俵。

 イザベラも助走をつけて素早く移動すると、大回りに滑ってまた剣を振り被る。

 リノは青い眼光でその動きを見据えている。

 そして――



「――――」


 消えた。どこにも気配がない。

 ふと風が吹いたように忽然と見えなくなった。



「ふ…………ふざけんっなぁッ!」


 直後、イザベラは虚空に剣を振り回した。

 まるでヤケになったような動き。

 だが、その動きに合わせ、金属音が響いた。

 イザベラの周辺で何かが小刻みに飛び回り、それを氷の剣の大振りで弾き返した。


「――――……すぅ」


 直後、リノが残像とともに姿を現した。

 銀盤を滑って間合いを取り、刃物を構え直している。


 正直、驚いた。

 イザベラにはリノの動きが見えたんだ。

 じゃないと弾き返せない。

 そういえば、ファルマイヤって沿岸領土を与えられた辺境貴族は、元々剣聖と呼ばれた武将がその地位を与えられたんだとか。

 ジーナがそう言っていた。

 その娘のイザベラも凄腕ってワケだな。



 つまり、勝負はどっちの剣術が優れてるか。

 剣聖の技量か、暗殺者の技量か。



「くっ……」


 直後、氷の剣がバラバラに粉砕した。

 イザベラの顔が引き攣る。

 リノの短刀は、それを受けた氷の剣そのものにもダメージを与えていたようだ。


 リノは斬ることに関しては破格の腕前。

 しかもそこは銀盤の上。相手の土俵だ。

 なのに、やっぱあいつ、強いな……。


「チッ、ナメんじゃないよ!」


 イザベラは怒りに打ち震えてから、決心したように突然、自分のスカートを切り裂いた。

 露わになった太腿から『竜の鱗』を抜いた。

 あいつ秘蔵の武器だ。

 あれで付けられた傷は一生治らないとか。


 だが、リノの方は、もう次の手に出ている。

 既にイザベラの懐まで飛び込んでいた。

 まずいと思ったか、イザベラは『竜の鱗』を持ち直してその一閃を打ち払う。


 だが、リノの踏み込みに力負けした。

 後ろに吹き飛ばされ、無様に転び、銀盤の上をすーっと滑っていった。その後を追撃かけるようにリノはまだ標的を追っていく。速え。

 容赦ねぇな……。

 イザベラは戦える態勢じゃないってのに。


 リノが剣を突き刺そうと腕を伸ばした。

 あと少しでイザベラに刺さる。

 野次馬も悲鳴を上げた。

 もはやイザベラが主役で、リノが悪役だ。


 その寸でのところで――



「ハァ!」


 救いの手が差し伸べられた。

 突然、赤い影が隙間を割って入り、手に持つ何かでリノのナイフを弾いた。

 イサベラの前に滑り込んで庇ったのは、


「大丈夫? 刺されてない!?」


 リナリーだった。

 赤髪の教師は不良の親玉に味方した。


「チッ、アンタは……新米の……」

「その様子なら大丈夫そうね」


 イザベラに睨まれてもリナリーは庇い続ける。

 ぶっちゃけ、まともに剣の勝負なんてできそうにないが、大丈夫なのか?


 リノの冷徹な瞳は殺気を振り撒いている。

 その殺気で動けなくなる奴もいるだろう。

 だが、リナリーは至って冷静。

 肝が据わっていた。いけるのか?



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