Episode11 竜殺しとストーカー
騒音で目が覚めた。
近くでガシャガシャと金属音が鳴ってやがる。
誰かが無理やり鳴らしてるみてぇだ。
「うっせーなぁ……」
「キュゥン! キュ! キュウ!」
しかも動物の鳴き声までし始めた。
体を起こそうとしたが、なんだか怠い。
指先がピリピリ痺れるような感じもする。
痺れる……?
思い出した。
俺は怪しい金髪女に誘拐された。
スタンガンを当てられたみたいに、全身を電気ショックが襲って気を失ったんだ。
「――っ!」
気合いを入れて無理やり起きようとした。
すると、じゃらりと鎖が鳴った。
右手首に手錠が嵌められてる……。
この俺も手錠は初めてだぞ。
周囲を見渡す。
典型的な"洋室"って感じの部屋だ。
その部屋には怪しい置き物や水晶玉、檻、拷問具みたいなのが溢れ返ってて散らかっていた。
俗に言うオカルトチックな雰囲気がある。
あの怪しい金髪女の部屋に違いねぇ。
俺はその部屋のベッドの上に寝ていた。
全裸で。
まさかの全裸だ。
そして手錠をかけられてる。
中身は男だが、5歳の女の子が全裸で手錠を嵌められるってかなりヤバい状況じゃね……?
「キュウ!」
またガシャンと金属音がした。
音の方向を見ると、天井から吊るされた鳥籠のような小さな檻に、白い兎がいた。
兎のくせに角が生えてやがる。
あれも魔獣の一種なんだろうか。
まぁ、糞蛙より見た目が良いが。
「キュウ! キュゥーキュ!」
白兎は俺をガン見しながら檻に体当たりしてる。
何か訴えてるみてぇだ。
「なんだよ、騒がしいな」
「キューウ!」
白兎は角を檻の鉄柵にがんがん当てて何かを伝えようとしている。
それが偶然にもリズミカルで笑えてきた。
でも……偶然にしては続くな。
まさか兎はわざと音を鳴らしてるのか?
「お前も、あの金髪に捕まったのかい?」
「キュ」
「ケッ、可哀想にな。俺もこの通り全裸だぜ」
「キュウ……」
なんか自慢げに言ってしまった。
白兎も「全裸は関係ないでしょ……」と言っているように見えた。
つか、なんで兎と会話してんだ、俺。
早くここから脱出した方がいい。
部屋にある拷問具もヤバいし、こんなワケわかんねぇ場所で死にたくねぇし。
しかし、どうしたもんかな。
手錠が掛かっててベッドから離れられねぇ。
「キュウ」
白兎は天井の方を角で指した。
角の矛先は鳥籠を吊るす紐に向けられている。
次に、机に置かれた水晶を指し示した。
水晶には薄っすらと映像が映されている。
すげーな。球体ってだけでテレビと変わらねえ。
その水晶に移ってるのは俺自身だ。
私生活。魔術修練の様子。誕生日会の様子。
うわぁ……。
ストーカーがよくやる奴じゃねぇか。
途中、俺が炎魔術を放つ様子が映った。
「キュウ!」
白兎はまた天井のロープを角で指した。
もしかして俺の炎魔術を使って、あのロープを焼き切れって言ってんだろうか。
あの紐を焼き切れば、鳥籠が落ちてその衝撃で檻が壊れるかもしれない。
「……っ、キュウ!」
白兎は焦って部屋の入り口に目配せした。
足音が聞こえ、部屋の前で止まった。
「あらぁ? お目覚めかしら」
「あ、テメェ! 早く俺を解放しやがれ!」
「いやよ。せっかく捕まえた"お人形"を見す見す逃がすわけないじゃない」
「はぁ……人形だぁ?」
「ひひっ、アンジー。あなたは今日からこの私、ティミーちゃんのお人形さんになるの」
金髪女はティミーというようだ。
自分をちゃん付けで呼ぶとか痛い女だぜ。
それより人形って。
見た目も相当ぶっ飛んでるが、性格もだ。
関わらない方が良い奴に関わっちまった。
「それで俺は裸なのか。着せ替え人形かよ」
「え……。違う違う。服がびしょ濡れだったから風邪引かないように脱がせてあげただけよ」
「あ、そうだったのか。ありがとよ」
変態なのか良い奴なのか、掴みどころがよく分からねぇ女だな。
「でも、その発想は斬新ねぇ。人形を着せ替えるって新しいわっ」
変態に要らぬ知恵を与えちまったよ、畜生!
「そうだわ! 何故だか知らないけど、ちょうどあの黒髪の女の子が大量に衣装を持ってたから、それで遊びましょ。いひひ」
「黒髪……もしかしてリノのことか?」
「そうそう。あの子には協力してもらったわ。あなたを誘き出してもらう為にね」
リノの奴、こんな変態に騙されやがって。
ティミーは部屋の隅に置かれた手提げ袋を部屋の中央でひっくり返し、中の衣装をぶちまけた。
「なかなか可愛い衣装あるじゃない」
リノにくれてやったのが仇になった。
ティミーはふりふりのフリルスカート付きの服を1着見繕い、意気揚々と俺に近づいてきた。
うわぁああ、こっち来んな!
「そ、そういえばリノは何処にいったんだ!」
「まだ寝てるわ。あの子も後でお人形さんにして遊びましょ。それより今は……」
じわりじわりと近づいてくる変態女。
イヤらしい表情を浮かべて舌なめずりしてる。
「く、来るな。あっちいけ!」
「いいじゃない。きっと似合うわ。ふふ」
俺は滅茶苦茶に暴れまくった。
人間、身の危険を感じると滅茶苦茶に暴れる。
とにかく暴れる。
俺もこれでもかってくらい暴れた。
女モノの服を着るなんてありえねぇだろ!
これまで頑なに拒んできたのも、自分が男だと思ってるからで、その禁を破ることは信念を踏み躙られることに近いのだ。
だから死んでも抵抗しなければならない。
俺のプライドを守るためにな!
「ほらほら抵抗しても無駄よ。そーれっ」
「ぐぁっ! ……ああああ!」
ティミーは指先から電撃を飛ばしてきた。
直撃した俺は手足が痺れて動けなくなった。
「今よっ! えーい!」
「ヤメロォオオオオオ!!」
元から全裸だった俺は簡単に足からするりとフリルスカートを履かせられた。
白シャツを被せられ、リボンまで付けられた。
ちなみにノーパンである。
スカートを履かされ、股間のガードがないこの状況は全裸よりもひどく激しい虚無感を直肌に感じることになった。
「イヤぁああああああ!」
半泣きになった。
今まで色んな怪物に襲われても泣くことはなかった俺が泣き出した。
「うっ……うぅ……」
犯された。俺の信条はボロボロ。
ジーナが買ってくれただけあって、サイズがちょうどぴったりなのも心を抉る。
「か、かわいい。なんてかわいいのかしら!」
「…………」
「この着せ替え人形って発想、最高ねっ」
「…………」
「そうだわ。あの子にも寝てる間に試そう」
ティミーは鼻息を荒くして服を引っ掴んだ。
そのまま慌ただしく部屋を飛び出した。
取り残された俺。
何もする気力が起きなかった。
きっと今の俺は死んだ魚みてぇな目をしてる。
「キュウ……キュウ……!」
白兎の鳴き声が聞こえた。
なんだか励ましてもらってる気がする。
俺みたいなクズに構い続けるなんて、どっかの誰かさんを思い出すぜ。
ああ、ミラにこんな姿は見せられねぇな。
ん……ミラ?
そうだ。俺は有銘ミラを探していた。
この部屋は洋館のイメージにぴったりだ。
もしかして『山の洋館』って此処か?
ってことはミラもここに監禁されたのか?
あの変態金髪魔術師に捕まって、俺みたいに犯されてるのかもしれねぇ。
ミラは昔からの誼だが、贔屓でもなんでもなく、普通に可愛い女だ。
クラスの野郎どもからもモテてたし。
生まれ変わっても俺みたいに容姿が似るなら、ティミーに目をつけられる可能性は十分あり得る。
「こんなとこでヘコたれてる場合じゃねぇな」
さっきの凌辱は忘れることにした。
スカート履いたくらいで何だ。俺は俺だ。
だが、どうやって脱出する。
このひ弱な腕じゃ、手錠をかけられた時点で詰んでる。
「キュキュウ! キュウ!」
白兎はまた天井を角で指し示した。
あいつを逃がす手伝いをすれば、お返しに俺の脱走も手伝ってくれるってことか。
だが、所詮は動物だしな。
逃がしても俺を見捨てるかもしれない。
「チッ、うだうだ考えてても仕方ねえ!」
イチかバチか脱走を手伝ってやろう。
損するもんでもあるまいし。
「落ちて怪我すんじゃねぇぞ!」
俺は天井から吊るされた紐に炎を放った。
適当に火力調整し、ぱちんと指を鳴らす。
練習の成果もあって狙い通り、紐は燃えた。
檻が床に落ちて崩壊した。
白兎は無事みたいだ。
ぶるぶると首を振って元気に鳴いた。
白兎はぴょんぴょんと床を跳ねて部屋の隅に移動すると、拷問器具の裏手に回って、鍵を咥えて出てきた。
「鍵の場所知ってたのか! お前、賢いなっ」
「キュウキュウ!」
ただの動物だと思ってたが、侮れねえ。
白兎はベッドまで跳びはねてきて、口に咥えた鍵を器用に腕の手錠に差し込んだ。
あとは自分でやれ、とばかりに鍵を離した。
俺は鍵を回して手錠を外す。
「お前いい奴だな! 一緒に逃がしてやるよ」
「キュウ!」
白兎の頭を撫で回してやった。
ベッドから飛び降りて俺も脱出モードだ。
先に装備をなんとかしねぇと。
中央にぶちまけられた服の山を掻き分けたが、似たようなスカートしかない。リノに押し付ける為に選別したのは俺自身なのだから自業自得か。
よく見るとパンツもある。
……なぜ?
さすがに下着まで渡した覚えはねぇぞ。
てか普通、他人の下着なんて貰いたくねぇだろ。
でも此処にあるってことは、リノが勝手に引っ張りだして持っていったことになる。
「…………」
深くは考えないでおこう。
おかげでノーパンを回避できるんだからな。
俺は服を着たまま、パンツを履いた。
意外と履いてみるとスカートも便利だな。
仕方ないから服はこのままだ。屈辱的だが。
「キュキューウ!」
部屋からどう脱出するか考えてると、白兎が水晶玉の乗った机へと移動した。
机に羽根ペンや墨入れみたいなものがある。
白兎は器用に羽根ペンを両手で取り、文字を机に直接書き始めた。二足立ちして、肉球でなんとかペンを持った状態だから不安定だった。
文字も書けるとは驚きだ。
こいつ、もしかして知性があるのか?
「キュ……ウウ……」
字を書き終わり、兎は一歩後ろに下がって角でその字を指した。
"ミラ ワタシ"
そう書いてあった。
「え……」
言葉を失う。字はカタカナで書かれてやがる。
あの手紙を書いたのは白兎だったのだ。
俺の探し人も、この白兎だったようだ。
「嘘、だろ……?」
「キュウ!」
こいつが有銘ミラ。
白兎――ミラは大きく頷いている。
少し微笑んだようにも見えた。
本当の本当に、この兎がミラのようだ。
生まれ変わっても人間になると思っていた。
だが、そうとは限らねぇらしい。
不良だった俺が女になり、美少女だったミラが兎になったなんて。
冗談みてぇな話だ。
あ…………。
つまり俺のこの女装……じゃないが、精神的女装も見られたということ。
恥ずかしすぎて死にたくなった
ありえねえ。




