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【毎週金曜更新】魔王の娘、世界を統べる  作者: 木原梨花
第一章 虚像の魔王

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第5話 魔王様の祭り

 魔王城の周辺は闇の精霊の加護が強く働いている。地水火風、四つの属性の精霊たちは世界のあちらこちらにいるが、闇の精霊はこの場所にしか存在しない。その加護の周縁にあるこの土地は、かつて王都の悪逆な貴族たちから魔王が救ってくれたことに恩義を感じ、魔王信仰が広まったのだ――

 ――と、いうことが宿でもらった冊子に書かれていた。宿の窓からその冊子と広場に組まれた櫓とを見比べて、セラスは首をかしげる。

「魔王って、信仰されてたんだ?」

「らしいよ。俺も父さんからちらっと聞いたって程度だけど」

「へー、全然知らなかった。ここだと結構城から近いのに」

「近いって言っても、間に闇の精霊の平原があるからな。人間が暮らせるのはこの村がギリギリってところだろ」

「ふーん……ちなみにこれ、ホントなの? パパが昔、この村を助けたって」

「父さん曰く、ホントらしい。昔は人間が相当酷かったみたいでさ。王都って言ってもならず者が武力で天下取ったみたいな感じで、支配域を広げるためにあっちこっちで暴れてたって」

「ええ……それ、酷くない?」

「酷かったんだよ。まあ、だからエザフォス様が圧倒的な力で世界を統一しようと思ったわけで」

 納得したようなしないような、不思議な気持ちでセラスは肩をすくめた。納得するには、疑問に思うことが多すぎた。

「パパもそうだけどさ、支配する場所が広いのって、嬉しいことなの?」

「ん? どういうことだよ」

「支配する場所が広いと、なんか色々考えなきゃいけなくて面倒臭くない?」

「あー……まあ、それはそうなんだけどな」

 オニロは説明してくれようとしたのか、しばらく考え込む。だが、ポンと膝を叩くと立ち上がった。

「こういうのは見たほうが早いだろ。ちょうど祭りも始まる頃だし、外行こうぜ」


***


 村は決して大きいわけではない。人口も二百人程度だと言っていただろうか。宿もセラスたちが泊まっている場所ひとつだけだし、ほとんどが小さな民家と畑で構成されている。

 その広場の真ん中に櫓が組まれ、その周囲を取り囲むようにたくさんの出店が並んでいた。食べ物を売っている店もあれば、よくわからない民芸品が並ぶ店もある。その全てにたくさんの人が集まっては楽しそうに買い物を楽しんでいた。

「なんかいろんな服着た人が多いね」

 オニロに買ってもらった飴をなめながら、セラスは辺りを見回す。この村は少し肌寒いからか、村人はだいたい毛皮の上着を身に纏っている。しかし同じ上着でも毛糸のものだったり、素材はよくわからないがモコモコとしたものだったり、セラスも見たことがないような服を身に纏った人の姿も多い。

「魔王祭を見るためにどっかから来た人たちだよ。毛糸は北のほうにある風の精霊の加護域から来た人たちだな。でもあのモコモコはどこだ……? 水の精霊の加護域で似たようなの見たことあったけど、ちょっと違うような気もする」

「へー……住んでるとこで服って違うんだ」

「手に入るものがそもそも違うからな。だから旅人はすぐわかる」

「ふーん」

 セラスは口の中で飴を転がしながら感心して息を吐く。そういえば、そんなようなことを本で読んだ気がする。しかし、実際に目にすると思った以上に色合いが鮮やかで本当に見ただけでわかる。

「祭りだから集まってくる感じ?」

「だろうなー。まあ、魔王信仰、とか言ってるけど、要するに観光資源だから」

「観光資源?」

「そ。ずっと普段住んでるとこにいると飽きるから、あっちこち旅に出るんだよ。そのきっかけが祭りとか自然現象だったりとかするものなんだよな」

「……平和だね?」

「まーな。何事もなければ誰だって争いたくはないんだよなー。面倒だし」

「そんな理由なんだ……」

 案外くだらないんだな――と、セラスは苦笑いする。だが、そういうものなのかもしれない。トゥルマリナとラティオがよく喧嘩をしているのを見るが、あれですら外から見れば面倒臭そうだなと思う。ましてや先ほどの冊子にあったような暴力だの支配だのということになれば、なおさらだ。

 だが――セラスの耳に、炎の中で泣き叫ぶ人々の声が甦る。彼らだって、こういう風に呑気に祭りを楽しむ日々を送っていたかもしれない。こんな風に櫓を組んで出店を並べて。そして――

「……ス……セラス!」

「ッ!」

 手首を掴まれ、ハッとして振り返る。

「お前、ぶつかるって、柱に」

「え?」

 と、良く見れば確かにあと一歩進んだら真正面から柱にぶつかっていた。危なかった、と息を吐きながらゆっくりとオニロのほうへと身を寄せる。

「ちゃんと前見て歩けよ、危ないぞ」

「ま、前は見てたけど……」

 ごにょごにょと言い訳をするセラスに、ちゃんと気をつけろよとだけ小言を言って再び歩き出す。それがまるで心の内を読まれて気を遣われているような感じがして、少し居心地が悪かった。

「……村って、ここにあるだけじゃないのよね?」

「そうだな。この辺は魔王城の近くだから小さい村がいくつかあるくらいだけど、城から離れたら大きな街もあるし、もっと離れれば王都もある」

「王都……は、人間の支配者が住むところ?」

「そ。五百年くらい前に世界中の人間が穏やかに暮らせる世界にしようって言った人が世界を統一したんだってさ。城にも人間の王様がわざわざ挨拶に来たとか聞いた」

「へー。見たことないや」

「五十年くらい前までは定期的にやりとりもしてたらしいけどな。まあ、人間って寿命も短いし、どっかで途切れたらそんなもんなんだろ」

「魔王と直接連絡とってても途切れちゃうのに、連絡とらない人たちがずーっと勝手にお祭りしてるんだ」

「……確かに。言われてみればヘンな話だな」

 オニロも今気づいたとばかりに首をかしげる。

 櫓の近くには、小さな小屋が建っている。と言っても入るのは人間ではない。小屋の奥に、よくわからない石像が置かれているだけの小さな小屋だ。オオカミのような形をしていて、恐らく村人が彫りだしたものなのだろう、少しだけ不器用な角が残っていて、しかしだからこそなんだか可愛らしく見える。

 小屋の入口に「魔王像」と看板が掲げられていた。

「……魔王のこと、オオカミだと思ってるってるの?」

「そうなんじゃないか? まあ、エザフォス様はこの村には一度来ただけでそれっきりらしいし」

「じゃあ、ぜんぜん魔王様の加護のない村じゃん」

「はは、ホントだよな」

 オニロは笑うが、呑気に笑っていていい話なのだろうか。勝手に父の名前を使われていることに、若干の違和感を覚えてしまう。それも、わざわざ見たこともない魔王を想像して、手間のかかる石像まで彫って。

「魔王って、怯えられたり罵倒されたりするものなんだと思ってた」

 ――焼けた村の匂いがフッと甦る。

「そうじゃないとこもあるんだよ。だから父さんも、最初はここから見てけって、連れてきてくれたんだろうし」

「ふーん……」

「いくら俺たちのことを誰も知らないっつっても、魔王を敵視してるところにいきなり連れてかれたら俺もさすがに困っただろうし――」

「ふざけるな、こんな祭り開いて!」

 オニロの声を阻むように聞こえた声に、セラスたちはハッとして足を止めた。

 広場の向こう側で、若者たちが老人たちに詰め寄っている。どちらも似たような獣の毛皮を着ているから、恐らくこの村の人たちだ。近くにいた人々の視線も彼らのほうに集中する。だが、そんな視線は気にした様子もなく、恰幅のいい若者が声を張った。

「じいさまたちは外に出ないから知らないんだろ!? 魔王はとんでもないやつらなんだって!」

 それなりに距離があるはずなのに、その声はかなり響いてくる。しかも、魔王の悪口だ。セラスは思わず息を止めて彼らの様子をじっと見つめる。

「いい加減魔王信仰なんてやめろって、前々から言ってるだろ!?」

「バカを言うな、若造が! 魔王様がこの村を悪辣な王都の連中から救ってくれたから今この村があるというのに!」

「その王都だって、何百年も前に滅びた王国のことじゃねえかよ! 時代は変わったんだよ! それがなんで理解できないんだよ!?」

「魔王様の加護があったからこそこの小さな村は生き残っているのだ! なぜそれが理解できぬのだ!」

 ぎゃあぎゃあと言い争う声に、いつの間にか野次馬が集まってきている。村人もそうだが、旅の人たちは不愉快そうにその様子を眺めていた。ついさっきまで楽しそうな雰囲気だったのに、今は不穏なざわめきで広場が包まれている。

「……普通は、魔王なんて崇めないよね」

 それでも、苦々しい感情は浮かんでくる。ピリピリとした空気の中、セラスはオニロのほうにわずかに身を寄せながら、争う村人たちを眺めていた。


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