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帰還


 少し前から、アイナの視界に索敵のマーカーが現れなくなっていた。

 「みんな、帰ったか・・・」

 マーカーが表示されなくなったのは、船が遠く離れて行ったのだとアイナは思った。

 「あいつはどこにいる?」

 マーカーをなくしたアイナは、波の感じる方向を探りながらVN-2082の通常個体が蠢く洞窟内を移動していった。

 「確かにこっちだ」

 アイナは広い空洞に出ていた。

 「あれか!」

 空洞の先に外の光が差し込んでいた。そこに4機のアルビオンが見えた。

 先を行く2機のアルビオンの機体はかなりの損傷を受けているように見えた。しかも1機は頭部がなかった。

 それでも、押し寄せるVN-2082と戦いながら先に進んでいた。

 「そこにいたのか」

 アイナはやっと波の場所を掴んだ。

 「待ってくれ・・・」

 突然、後方からアイナを押し退けるようにVN-2082が次々と飛び上がり、4機のアルビオンに向かった。

 「邪魔だ!」

 アイナは目の前のVN-2082に爪を突き刺すと大きく飛び上がり、着地と同時にアルビオンを追う通常個体に腕を振り下ろした。

 「もう、やめろ!」

 背中を銀色に光らせた大きな特殊個体が、周囲に蠢く通常個体を、爪を突き刺し、腕で殴り、尾を当て、足で蹴り、次々と消して行く。

 アイナの個体を敵と認識したVN-2082がアイナに襲い掛かる。

 それは、まるでVN-2082が仲間割れをしているような光景だった。

 「あんなボロボロの機体で・・・」

 アイナは無我夢中で攻撃を与え続けた。

 なぜなら、頭部をなくし、装甲は傷だらけで、あちこちの関節から白い液体を吹き出し、それでも戦うアルビオンの姿が頭から消えなかったから・・・。

 「どうして、そうまでして戦う?」

 まるでそれは自分の姿に思えた。

 「でも、あいつはわたしとは違うんだ・・・」

 気がつくと、アイナの周りからVN-2082が全て消えていた。

 4機のアルビオンがいた方向に体を走らせる。明かりの差し込む場所に出た。

 差し込む光は巨大な縦穴の上からだった。

 「どこに行った?」

 アルビオンの姿を探す。

 「まだ、話したいことがあるのだ」

 しかし、アルビオンはアイナの視界から完全に消えていた。

 その時突然、何かがぶつかってくるような衝撃を感じた。

 

 

 

 

 ヴァリアブルシップ メインルーム


 アスがコクピットを出ると、メインルームは照明が落ち、非常灯だけになっていた。

 一つだけモニターの明かりがある。

 動いているのはユーリのデスクのみだった。そのすぐ隣にシロウがいる。

 大きな揺れに体を取られそうになりながら、アスはユーリのシートにたどり着いた。

 「どうなった?」

  アスがユーリの横にいるシロウに聞いた。

 「紐が引かれ始めた。泡の崩壊も始まっている。もう修正はできないようだ」

 「チャージ、あと数分でなくなります」

 ユーリが切羽詰まった声を出した。

 「隊長はどうした?」

 「通信が途絶えたままなんです」

 船が大きく軋んだ。壊れるのではないかと思うくらい大きな音を立てる。

 「強制排除しろ」

 シロウが叫んだ。

 「強制排除出来ません。こちらからの操作を全く受け付けないようです」

 ユーリが顔を歪めながらシロウを見た。

 「強制排除が効かないなんて、どうなっているんだ」

 シロウはそれでも何か方法がないか考えた。しかし、強制排除が効かない以上できることはないと思われた。

 「隊長の位置はわかるか?」

 アスには何か考えがあるようだった。

 「はい、ずっとトレースしています」

 「シロウ、俺を隊長の個体にインサートしてくれ。それで隊長を押し出す」

 シロウは、その方法なら隊長を戻せると思った。しかし・・・。

 「チャージがなくなり、システムとコクピットとの通信が不安定だ。おまえが戻れなくなるぞ」

 「俺はさっき、とてもいいものを見た。もう、満足だ。それに、おまえはユーリを守るのだろう。だったら、俺は隊長を、アイナ・ウメハラを守る」

 アスは笑っていた。シロウは、こいつはほんとに隊長のためにここに来たんだ、と思った。

 「行け」

 「すまん」

 アスはシロウに敬礼をするとコクピットに走った。

 「ユーリ、コクピットに入れ。あとは俺がやる」

 シロウはユーリを押し除けるようにシートに座ると操作を始めた。

 「いくぞ。アス、インサート。・・・元気でな」

 大きな衝撃が船に伝わった。体が大きく揺れる。

 「まだ、入りません。あたしだけ、あたし一人だけで帰さないでください・・・」

 シロウの後ろには揺れで飛ばされないように必死にシートにしがみつくユーリがいた。






 アスはインサートと同時に衝撃を感じた。

 そしてアイナを感じた。

 「何だ?! アスか! 何をする。邪魔をするな」

 「こうでもしなければ、あなたは帰らないでしょう」

 「おまえはどうするつもりだ」

 「もういいでしょう。戻りましょう。戻れたら、聞いて欲しいことがあるんです・・・」


 アスの声が遠ざかる。

 アイナの意識は自分自身に戻された。船の回収を感知し鎮静ガスの放出が始まったコクピット内で、それでもアイナの意識はまだ探すことをやめなかった。


 「隊長を戻した」

 『こちらはシステムが落ちた。あとはコクピットの単独バッテリーだけだ。こちらからはもうおまえを戻せない』

 『船が急速で動いています。早く意識を戻さないと』

 「二人ともコクピットに入ったんだな」

 『ああ、俺もユーリも入った』

 「そうか、幸せにな」

 『ばか!諦めるな』

 「諦めてなんかいない。まだやれることはある」

 アスは上を見上げた。そして、光の差し込む方向に向かって壁を蹴った。

 さらに縦穴の側面に取り付くとすぐにまたジャンプした。

 光が眩しい。

 アスの背が銀色に輝く。

 巣穴の上部にいた1機のアルビオンがアスに気づきライフルを向けた。

 マズルフラッシュが見える。

 その直後、アスは大きな衝撃を1回だけ感じた。






 アイナはぼんやりとした意識の中で、再び探し求めていた波にたどり着いていた。


 『ああ、やっと落ち着いた・・・』


 「終わったのか」


 『うん。終わった。今、眠る準備中。あ、そうだ。ありがとね、さっきは・・・。後ろから襲われずにすんだ』


 「そんなこと・・・」


 『お礼を言ったんだから、素直に受け取りなさいよ』


 「なぁ、おまえは自分自身に存在する意味があると言ったが、わたしには存在する意味があると思うか?」


 『そんなの人に聞くことじゃないでしょ。まだわかんないのかなぁ。おばさんのくせに』


 「おばさんと言うな!」


 『あなたは自分自身を否定されたって言ったけど、そんな奴がいるなら、あたしが蹴飛ばしてやるよ。あたし、足癖悪いからね。あはは・・・。てかね、あたしはあなたの存在を否定しないし、むしろ感謝してる』


 「感謝だと? 馬鹿を言うな」


 『だって、あなたが来なかったら、あたしはきっともう存在していないのだから。あたしにとっては、あなたは必要な存在だよ』


 「・・・」


 『あなたが来た事によって、あたしが生まれた。それだけじゃないよ。あたしが生まれた事によって、あの子たちに出会い、あの子たちが出会った。その出会いが小さな世界を変えた。きっとこれからも変わっていくよ。意味のないことなんてないんだよ」


 「わたしの意味・・・」


 『えっと・・・、連れのヒト? 彼氏さんかな? その人はもう気づいたと思うよ』


 「アス・・・、か」


 『あたしはもう否定されたとは思っていない。あなたもだよ。だから、安心して帰って。そして、あなたもあなたの世界を楽しんで』


 「帰ったところで・・・」


 『もういいから。あなたの怒りのことは、ちゃんと受け取った。みんなに話すよ、絶対に。そして、みんなで変えるよ』


 「帰っていいのか・・・」


 『そうだよ。まさか、おばさんを説教するなんて思わなかったよ』


 「確かに、おばさんかもな・・・」


 『もう、疲れたから、眠るね。来てくれてありがとう』


 「わたしは、アイナだ。アイナ・ウメハラだ。おまえの名前は?」


 『あはは、グーゼン? 笑っちゃった。あたしの名前はね、しらせ・・・』


 「シラセ・・・」


 その名前を記憶に刻む。

 すると、アイナを眩しい光が包んだ。

 全てが解け、力が抜けたように広がっていくのを感じた。


 やがてそれは重さを変えた新たな流れとしてゆっくりと収束を始める。





 西暦2726年8月24日 地球統合本部本部長室


 本部長室から見下ろす海の彼方に光が見えた。その光は強さを増し徐々に広がるように近づいて来る。

 見たことのない光。

 その光景は神々しくもあった。

 「始まったな」

 窓からその光を見つめるオオカワが言った。

 「そうですね」

 その後ろで、シノハラもその光景を見つめていた。

 「長い間、苦労をしただろう。お疲れ様・・・」

 「みんな、ありがとう」

 二人は姿勢を正すと、光に向かって敬礼をした。




 地球統合本部中央研究所 所長室


 「始まったな。やはりわたしの考えは正しかったのだ」

 ノジマは自分を包み始めた眩しい光の中で、満足そうに呟いた。




 地球統合本部メディカルセンター トーコ・サリアンのオフィス


 眩しい光に包まれるトーコ・サリアンは、端末パネルから手を離すとその手を見つめた。

 「いよいよ戻って来るか。ちゃんとお姫様を守ったんだよね・・・、アス」

 見つめる手は徐々に光に同化していった。




 地球統合本部中央研究所 メインコントロールルーム


 「やっと帰ってこれるね」

 マシスの見つめるモニターには、歪に曲がった時間の波が映っていた。

 やがて歪んでいた波が綺麗な直線に戻る。

 「おかえり・・・」

 マシスは光に包まれていた。

 モニターにLOSTの文字が表示された。

 「紐が切れてしまった・・・」

 マシスは一瞬戸惑った表情をしたが、すぐに優しい笑みを浮かべた。

 「この時代にはちゃんと戻ったはず。紐はもうなくていいよね。紐に囚われることなく、好きな場所に行くといい・・・」

 眩しい光で、もう何も見えなかった。

 





 『時』は軽く息を吐いた。

 それは小さな小さな抗いに対する、呆れたため息のようなものだった。


 ・・・時が流れる。

 



 

 ずっと好きだった・・・


 知ってたよ でも、いつから?


 あの日、君の目を見た時から


 あはは 真面目に言ってよ



 ・・・そして、時は流れる。




 結婚してくれないかな


 わたしでいいの?



 ・・・時は流れ続ける。




 どっちだと思う?


 元気なら、どっちでもいいよ


 名前は考えてくれた?


 うん 決めた



 ・・・時は流れる。




 一瞬の中に存在するものにとってはとてつもなく大きな変化であっても、永遠の時の流れにしたら気にかけるほどのものでもない。


 ・・・時は流れる。


 何事もなかったように。

 今までと何も変わらぬように・・・。



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