乾杯
西暦2726年8月
「やっと寝てくれた」
そう言いながらキッチンにやって来たアイナは、小さなテーブルを挟んでアスに向かい合うように座った。
「あの子、久しぶりにあなたが戻って来たから、興奮しちゃって・・・」
アイナは笑いながらボトルを持つと、氷の入った二つのグラスにアルコールを注いだ。
「それじゃぁ、乾杯」
「お疲れ様でした」
二人の合わせたグラスの音が、照度を落としたダウンライトだけの薄暗いキッチンに響いた。
ゆっくりと味わうように一口飲む。
「ここまで大変だったでしょ」
「そうだな。やっと、移民船団の第一陣を送り出すことができた。ずっと手が離せなかったけど、これで長期の休みがもらえるだろう。統合本部の全員がほっとしてるよ。この成功は星間ネットワークのおかげだ」
「今でも広がっているの?」
「ああ、天の川銀河はすでに超えたようだ」
「SHIRASEってすごいね」
「そうだな」
「今回は、どれだけの人が飛び立っていったの?」
「恒星間航行用大型移民船が15隻。この星の人口の約半分が乗った。まずは、天の川銀河のあらかじめ整備された15の惑星で生活を始める事になる」
「銀河か・・・。なんだかわかんないくらい遠い世界って感じ」
「今ではそんなにも遠い距離じゃないよ。太陽系の距離はコンビニに行くくらいだそうだ。だから銀河内は隣町に行くくらいだって」
「そんなに身近なんだ」
「将来もっと恒星間航行用エンジンが小型化されれば、個人単位で銀河の外へ出るようになるかもしれないな。自分の車で旅をする、みたいに・・・」
「あなたも行きたかった?隣町の銀河に」
「確かにこの仕事をやってる事でかなり待遇良く移住できたはずだけど、俺はこの星で十分だから」
「わたしもここでいいよ。不思議と愛着があるし。まぁ、わたしたちが生きてる間はこの星も大丈夫でしょ。でもあの子はどうだろう」
「成人するまでは、親と一緒の星にいなきゃいけないからな。でもそのあとはあいつの好きなようにすればいい」
「そうだね」
「そうだ。シロウもここを離れないって言ってた。最もユーリのことを考えたら、無理出来ないし」
「え、ひょっとして、ユーリちゃんおめでた?」
「ああ、シロウがデレデレの顔をしてたよ」
「そっか、今度お祝い持って、ユーリちゃんに会ってくるよ」
微笑むアイナはグラスを空にした。今度はアスがアルコールを注ぐ。氷が弾け音をたてた。
「久しぶりだね。こうしてゆっくり飲むのは」
「そうだな・・・」
アイナはグラスをアスに向けた。
「ねぇ、もう一回、乾杯・・・」
穏やかに流れる時間の中に、グラスの当たる優しい音が広がった。
時は、流れ続ける・・・。
~ VN-2082 過去を変えるモノたち 終了 ~
最後まで読んでいただきありがとうございます。
時の流れに終わりがないように、物語もきっと続くことでしょう。 Kei




