もう一度
2086-08-23 16:30 ヴァリアブルシップ メインルーム
「生殖個体のマーカーが消滅しました。S-1、S-2は顕在です」
ユーリはスミレのことを思い出し悲しい顔をしていた。
「奴らの目的は生殖個体だったと言うことか」
アイナはモニターに映るアルビオンのマーカーを睨みつけるように呟いた。
「あ、これは」
ユーリが驚いたような声を出した。
何が起こったのかとアイナたちはモニターを覗き込んだ。
そこにはいくつものVN-2082を示す赤いマーカーが蠢いていた。
「これは以前の巣か?」
「はい。どうやら活動を開始したようです。かなり動きが活発になっています」
破壊された古い巣では、卵から孵化したと思われる個体がマーカーによって確認されてはいたが、動いている様子はなかった。それが突然に激しい動きに変わっていた。
「かなりの数だな」
「マーカーの表示がさらに増えている」
アスもシロウも驚くようにモニターを見つめていた。
「いくつか発現し始めているものがあるな」
アイナは薄く紫色に変化するマーカーを見逃さなかった。
すると、今までただ動き回っていたマーカーがまとまった動きを見せ、一定方向へと進み出した。
「どこに向かっている?」
アイナの問いにユーリが地図を拡大しマーカーの進行方向がわかるようにした。
「向かっている先は、おそらく新しい巣です」
「そこから地上へ総攻撃をかけるつもりか」
その時、ドンと言う音とともに船が今までになく大きく揺れた。
軋む音が部屋全体に響く。
「テンション、115%。そろそろかもしれません」
ユーリはアイナを見た。もう、ここにいて、と。
しかし、アイナはじっとモニターを見ていた。
モニターには上層へと移動するS-1、S-2のマーカーがあった。
アイナは目を閉じた。
ずっと波を感じていた。
波はきっとあいつだ。
あいつに会えるだろうか。
あいつに会ってみたい。
会わなくてはいけない。
会わなければ、帰れない。
「みんな、聞いてくれ・・・」
アイナは自分の思いを話し始めた。
「わたしは、わたし自身の怒りのためにここに来た。そして同じように怒りを感じる奴と出会った。今、やはりわたしはそいつともう一度会ってみたい。いや、会わなくてはいけないような気がするんだ。会うことは、単なる自己満足だとわかっている。それでもわたしは行こうと思う。行きたいんだ」
全員が身動き一つせず、アイナの話を聞いていた。アスは俯いていた。
「これはわたしのわがままだ。だから、お前たちはわたしのことを気にせず帰ってくれ。今までついて来てくれた事に感謝する」
アイナは深く頭を下げた。
「自分も行きます!」
顔を上げたアスが、自分の意思を示すように力強い口調で言った。
アイナは微笑みながらアスを見た。
「お前はいい。帰れ」
アスに向けたアイナの目はあの目だった。
「自分にも確認したいことがあるのです。隊長と一緒なんです」
これはアスの本心だった。
アイナは自分の気持ちをわかってもらうには、アスの気持ちを否定してはならないと思った。
「勝手にしろ」
「でも、もうシステムが不安定です。インサートから戻れなくなるかもしれません」
ユーリは戻れなくなると言うことの意味を理解していた。
「それでも構わない」
「そんな、せっかく帰れるのに」
「わたしは帰れなくてもいいと思ってここに来たんだ」
「そんな。もう、あんなこと、気にしなくたっていいじゃないですか!」
ユーリの目から涙が溢れた。アイナはユーリの肩に優しく手を触れた。
「そうだな、いつまでも引きずってるわけにはいかない。でも、だからこそ行くんだ」
ユーリは俯いたまま泣き出してしまった。
どうしたらいいか分からなくなったアイナは、ユーリから手を話すと横のシロウにすがるような目を向けた。
「ユーリ、隊長は鈍感だが、しっかりした人だ。そう言ってもちゃんと帰ってくる」
そう言ってシロウはユーリの肩を引き寄せた。
ユーリはシロウに抱き付くと大声を出して泣いた。
シロウはユーリを抱いたままアイナを見た。
「隊長、自分はここでユーリとともにぎりぎりまでアシストします。回収が始まれば自動でコクピットに戻れるはずです」
「システムが正常に動いていれば、だけどな・・・」
アイナはシロウに微笑むと、コクピットへと向かった。
「行ってくる。準備ができたら、二人とも送ってくれ」
アスもアイナの後を追った。
シロウはユーリの体を引き離すようにして顔を向けた。
「俺が二人のアシストをする。ユーリは紐の状態を観察しろ。いいか。まだやることがあるんだ」
ユーリは顔を歪めながらも頷いた。
シロウは自分の席につくとヘッドセットをつけた。ユーリも涙を拭きながら自分のシートに座った。
「ターゲットスキャン。準備はいいですか?」
シロウがアイナとアスに呼びかける。
船が大きく揺れた。
『待ちくたびれたぞ』
『俺もだ』
「ユーリ、そっちはどうだ?」
「テンション、117%。チャージ残量あと15時間。C・コクピットのパワーを優先させます」
ユーリはもう泣いていなかった。
「まだ完全に発現している個体ではありませんが、いいですか?」
『構わん、入れてくれ』
『こっちも了解した』
「ターゲットロック」
また、船が揺れた。
「アイナ、アス、インサート。絶対に帰ってきてください」
二人はVN-2082へと飛んでいった。




