Specificity-3
2086-08-23 12:00 ヴァリアブルシップ メインルーム
「テンション、110%」
船は大きく揺れながら軋んでいた。
船を守るように周囲に広がっていた時間の泡は、今では船の表面に張り付くように残っているだけで、干渉空間の消失によって時間の波の衝撃を直接受けていた。
「リザーバー残量20時間ほどです」
ユーリの報告を聞きながら、アスもシロウも何もできないまま、ただ自分の席でじっとその時を待つしかなかった。
アイナは目を閉じ、落ち着かない不思議な気持ちを抑えていた。
そして・・・。
『来る』
「巣の上空でSマーカー確認! 降下しました」
アイナとユーリの反応はほぼ同時だった。
「S-1とS-2。それに識別不明がもう1機です」
全員がユーリの周囲に集まった。
「S-1とS-2と識別していると言うことは、機体がまだ生きていたと言うことか。識別不明機は新型かもしれんな」
アイナは気持ちを抑えきれなくなっていた。
「識別不明機、S-3と表示します。3機とも最下層に到達しました」
「その奥にいた2体の再構築個体は顕在か?」
「はい」
最下層からその下の生殖個体のいる空洞に続く通路には、はっきりと紫色のマーカーがふたつ映っていた。
「インサートする」
「紐の反応があれば、強制的に戻しますよ」
コクピットに向かうアイナにユーリが大きな声で言った。
「アス」
シロウがアスの肩を押した。
「俺はユーリのそばにいる。お前は隊長についていけ」
シロウの言葉にアスは頷くと、アイナを追ってコクピットへと走った。
「アイナ、アス。インサート」
ユーリの言葉と同時に船が大きく揺れ、一瞬電源が落ちた。
すぐに回復したが、ユーリは慌ててシステムに異常がないか確認を始めた。
『インサート出来ていない。もう一度頼む』
アイナからの通信だった。アイナのインサートが電源が落ちたのと重なり、アイナの意識はコクピットに戻されていた。
「システムチェック中、もう少し待ってください」
『俺はインサート出来ている。S-2確認』
『まだ入れないか』
「システムが不安定で、ターゲットにロックが出来ません」
『S-1とS-3も確認』
アスからの通信の直後、アイナがインサートを行おうとしていたマーカーがモニターから消えた。
「マーカー消失しました」
『一体やられた。S-3だ。機体確認のため、S-3を追う』
『入れる個体はもうないのか』
アイナの焦る声が響く。
「ありません」
ユーリの申し訳なさそうな声に、アイナはコクピットから出るしかなかった。
アスは生殖個体のいる空洞に通じる洞窟を、S-3を追ってそれとは逆方向に向かっていた。
S-3のライフルのマズルフラッシュが見えた。アスは予測したようにそれをかわすと、弾丸は後方で洞窟の壁に当たり閃光とともに壁を崩した。
「こんなところで撃つと穴が崩れるぞ」
アスは穴の側面を使いジャンプすると、バックステップで逃げるS-3に向かって右腕を振り上げた。
「今までの機体より小さい」
S-3は明らかにS-1、S-2よりもひと回り小さかった。
アスの振り下ろした右腕が空を切った。
「小さいから機動性が高いのか」
S-3はアスの攻撃をかわしていた。
「機動性は高いかもしれないが、動きはぎこちない。まだ、機体に慣れていないのだろう」
アスはS-3に向け加速した。
マズルフラッシュが光った。咄嗟にアスは回避しようとしたが、弾はアスの横を通り過ぎ後方の壁で炸裂した。
大きな振動が伝わり、広範囲に岩盤が崩れ落ちた。
「崩落で穴が塞がったぞ。そうか、2機と分断したかったのか。あの2機は何をする気だ」
S-3は巣の広い縦穴に出た。
アスは爪の攻撃を仕掛けながら後退りを繰り返すS-3に迫った。
大きく後ろにジャンプしたS-3にアスも飛び上がった。
「もう、後ろはないぞ」
S-3の目の前に着地する。S-3の後ろは壁だった。
アスは攻撃を行うために姿勢を下げると、爪を振り上げ飛びかかった。
「・・・」
なぜか、一瞬攻撃が遅れた。
S-3のいない岩肌に爪が突き刺さる。砕けた岩が飛び散った。
「くそ!」
爪を引き抜こうともがくアスの目にS-3のライフルが映った。
やられた・・・、アスは個体消滅の衝撃を覚悟したが、それは来なかった。
爪を抜き姿勢を変えるとその場から離脱した。その直後にライフルが撃たれた。
アスのいた壁面が砕け爆発する。
「やはり、機体に慣れていないのだ」
アスは再びS-3を正面に捉えた。
動きを止めたS-3にゆっくりと近づく。
アスは先ほど一瞬攻撃を躊躇した原因が突然思い浮かんだ。
そうだ。あの時に感じた波だ・・・。
まさか、この中にあの子が・・・。
いや、そんなはずはない。
ここから感じるのは、もっと弱く。
もっと曖昧なものだ。
違う、そうじゃない。
アスは伝わる感触を否定しながら、後ろ足で立ち上がると右腕を大きく振り上げた。
これは違う。
ここじゃない・・・。
アスはS-3のコクピット目掛けて一気に爪を振り下ろした。
今俺は何て言った?
ここじゃない?
アスの爪がめり込んだコクピットが白い液体を噴き出す。さらに火花が飛び散った。
『アス、逃げろ! 罠だ。ユーリ、強制排除』
アイナの声が響いた気がした。
その直後、アスはコクピットに戻っていた。
「なんなんだ・・・。そんなこと、あるはずがない。俺はただ、あの時見たものを引きずってるだけなんだ」
アスは自分の感じたことが信じられず、それを否定したかった。
「・・・隊長が感じていることは、これなのだろうか」
もしも隊長も同じことを感じていたのなら、自分も隊長と一緒にそれを確かめてみたいと思った。




