アイナとユーリの場合
2086-07-11 ヴァリアブルシップ 食堂
アイナの守りは堅い。さらに鈍感と来ている。単純なアスのようにはいかないだろうと、良い作戦が思いつかないままユーリはこの場を迎えてしまった。
先に話を始めたのはアイナだった。
「アスが言っていたが、シロウと仲が良いそうだな」
ああ、やっぱり鈍感だ・・・。ユーリはやはり一筋縄ではいかない相手だと再認識した。
「シロウはちょっとのんびりしたところがあるが、いいヤツだ。大事にしてもらえ」
笑うアイナに、ユーリはあの瞳を見た。
優しい乙女心を持ちつつも鈍感なアイナには、やはり率直に聞くべきだろう。
「隊長には想いを寄せている人はいないのですか?」
アイナは一瞬何を聞かれたのかわからないような表情をしたが、少しして理解したようだった。
「わたしにはそんな・・・」
その時、ユーリはアイナの瞳に以前から感じていた影を見たような気がした。
「隊長は、心に何か重いものでも持っているようですね」
何か思い詰めたように俯くアイナを見て、ユーリはまずいこと言っちゃったかな?と後悔した。
ユーリにとって気まずい時間が流れた。
しばらくして、アイナは覚悟を決めたように顔をあげた。
「まぁ、こんな機会はないだろうから、ユーリには話ておくか」
アイナは何を話すのか、ユーリは思わぬ恋バナが出てくるのではないかと期待した。
「まだ軍の名残が残っていた頃、そこでわたしはある男性と付き合うことになった。そいつは2つ上で色々と気が合ったんだ。そして、少ししてプロポーズされ、結婚が決まった」
おお、こんな話が聞けるなんて、あとでこっそりシロウにも話さなくては・・・、ユーリは興奮していた。
「そこで分かったんだが、そいつの父親は軍の幹部でな。それどころか父親ばかりではなく代々軍の上層部にいるような家系だった。わたしは周囲から玉の輿なんて言われたよ」
おおお、玉の輿なんて言葉、今でも残ってたんだ・・・。
ユーリはアイナの話にさらに興奮したが、そこでふと思った。そんなにもいい話があったのに、どうして今ここにいるのだ・・・、と。
「式の日も、新居も決まった」
アイナは少し俯き気味になった。
「そんな時、軍の定期検診があった。そこで、わたしの中に成れの果て物質の発現の形跡があることがわかった。さらに、その影響で子供が出来ないと言うことも」
ユーリは先ほどまでの興奮が一気に引いていくのを感じた。
「わたしはたかが子供が出来ないことくらい、なんて軽く考えていた。だから、すぐに相手に伝えたよ。その時あいつは優しく笑っていた」
アイナは姿勢を変えるように座り直した。
「それから数日してからかな・・・。式も、新居も、わたしとあいつの関係の全てが一気に失くされたのは・・・。あいつは出世して他に移動していったよ。残されたわたしは、哀れみだったり、蔑みだったり、周りからはそんな目で見られるようになった。そんなことは気にしなかったが、それよりもあいつにとってわたしは子供を産むための存在だったのかって思えてな。あいつの家系を考えれば仕方のないことなのかもしれんが、何も言わずにわたしから離れて行ったあいつのことを考えると、許せなくて。せめて一言でもあればよかったのだけれど・・・。子供が出来ないと分かった途端に掌を返すように・・・。わたしは一体なんなのだと・・・。子供が産めなければ価値はないのかと・・・。わたしはそんなものなのかと・・・」
途切れ途切れの言葉に、ユーリはアイナがその言葉に込めた怒りを感じた。
アイナは寂しそうな目をユーリに向けた。
「結婚なんてものはどうでもよかった。そんなものに憧れていたわけではないからな。ただ、わたしの全てが否定されたような気がしたよ」
ユーリに向けた悲しそうなアイナの目に涙はなかった。きっと、涙が出なくなるほどすでに泣いたんだな、とユーリは思った。
アイナの代わりに涙が出た。
そうか、だから・・・。
ユーリはもうそれ以上聞かなくてもいいと思った。
隊長は家系にこだわるような愚かな奴を憎む馬鹿げた行為よりも、成れの果て物質を憎んだ。そしてさらに、それを未来の人々に押し付けた過去の人たちを憎んで、それを糧にしてついにはここまで来たのだ。
「アイナ隊長、話してくれて、ありがとうございます」
「こちらこそ、聞いてくれてありがとう」
アイナは立ち上がると、涙を流すユーリの頭に優しく手を添えた。
ユーリは、アイナがしあわせになるようになんとしてもアスに行動を起こさせなくては・・・、と思った。




