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アイナとシロウの場合


 2086-07-11 ヴァリアブルシップ 食堂


 「まず、シロウにはお礼を言いたい。ありがとう」

 突然の予期せぬアイナの言葉に、シロウは少々戸惑った。

 「ああ、なんのことなのか分からないよな」

 アイナは笑いながら話を続けた。

 「こんな感じで、わたしは人と付き合うことが苦手だ。話すのが下手だと言ってもいいだろう。仕事のことを話すのはまだいいのだが、それ以外のことになると、まるでダメなんだ。だから、軍とは関係のないユーリがこの船のメンバーになった時、かなり戸惑った。プライベートではどう接したらいいのかわからなかったんだ」

 アイナは立ち上がると、コーヒーを注ぐためにカップボードからカップを取り出した。

 「あ、自分がやります」

 「大丈夫だ。これくらいは出来る」

 アイナは手慣れた様子でコーヒーを注ぐと、ひとつをシロウの前においた。

 「ありがとうございます」

 アイナは自分の席に戻ると、手に持ったカップを見つめながら話を続けた。

 「きっと、ユーリも戸惑っていただろうな。こんな堅物の隊長とどう接したらいいのかと」

 アイナは視線をシロウに移した。

 「シロウはユーリの面倒をよく見てくれた。助かった。本当にありがとう」

 シロウは突然言われたアイナの先ほどの言葉の意味がここでやっと理解できた。

 こんな感じだから話が下手だと思うのだろうな・・・、隊長ではないアイナを少し見たような気がした。

 「そんな、お礼を言われるほどのものじゃありませんよ。ただ、ユーリとは気が合ったんだと思います」

 「よかった。気が合うものがいてくれて」

 アイナは安心したようにシロウに笑顔を向けた。

 ああ、これがユーリの言っていた目か・・・、きっとアスはこの目に惹かれたんだな、と思った。

 「わたしは隊長として、みんなが無事に戻れるように努力するつもりだ。だが、万が一わたしの力が及ばなくなった時は、ユーリを守ってくれ。頼む」

 いつもの目に戻ったアイナは、そこで頭を下げた。

 「ええ、そのつもりです。頭をあげてください」

 「ありがとう」

 アイナはずっと手に持っていたコーヒーカップを口に運んだ。

 「自分はユーリを守ります。でも、隊長を守ろうとしてる奴もいるってことを忘れないでやってください」

 「え?」

 やっぱり隊長は何も気付いていない・・・、シロウは半ば呆れながら、アスも大変だ・・・、と思った。

 「そういえばアスが言ってたんですけど、まだ軍の所属だった頃、戦闘訓練で隊長と一緒になったことがあって、その時隊長に助けられたと」

 シロウはそれとなく話題を変えながら、アスの名前を出した。

 「ああ、そんなこともあったな。飛行中にエンジンが止まったんだ。あいつ、うろたえながらもちゃんと着陸したぞ」

 アイナは懐かしそうに笑った。

 「あの時自分は他の訓練で別の場所にいたのですが、そのことが伝わるとベイルアウトで落ちてくるんじゃないかと皆右往左往してました」

 シロウも懐かしむように笑った。

 「ここでの出来事も、いずれみんなで思い出しながら笑って話ができるといいな」

 「そうですね。あ、その時は、アスの初恋の話なんて聞いてみると面白いかもしれませんよ」

 「そんな話があるのか」

 相変わらずのアイナは、他人事のように興味深そうな顔をするだけだった。



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