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テンション


 2086-07-08 ヴァリアブルシップ メインルーム


 早朝、起床時間前に緊急招集がかかった。

 慌てて起きたアイナは、寝巻きがわりのスウェットのままボサボサの頭で自室を飛び出した。すると、同じような格好でやはり頭がボサボサのアスもちょうど部屋から出てきたところだった。

 「何があった?」

 「分かりません。あの呼び出しはユーリですが」

 そう言いながら二人はメインルームへ飛び込んだ。

 「おはようございます!」

 ユーリの笑顔が二人を迎えた。その横にはシロウもいる。しかし、いかにも寝起きのアイナとアスの姿を見てすぐに笑顔が消えた。

 「思わず緊急招集かけちゃいましたけど、ごめんなさい・・・」

 ユーリは二人の慌てた姿に申し訳なさそうに頭を下げた。

 「そ、それはいい。何があったのだ?」

 「紐にテンションがかかっています」

 しょぼんとするユーリに変わってシロウが説明を始めた。

 「テンションがかかり始めたと言うことは、T-デバイスのチャージが始まったことを意味します」

 緊張していたアイナの表情が穏やかになった。

 「そうか・・・、よかった」

 アイナとアスはほっとした表情でお互いに顔を見合わせた。

 「よかったな・・・」

 今度はユーリとシロウを見た。

 「ところで、どうして二人はすでに着替えているのだ?」

 ユーリとシロウはしっかりと身だしなみを整え、おまけにパイロットスーツ姿だった。

 「あ、あたしたちは、早起きなので」

 ユーリが申し訳なさそうに言った。

 「自然観察の名残です」

 シロウが補足した。

 「着替えてくる・・・」

 アイナはそう言って回れ右をすると、そそくさと廊下へと続くドアに向かった。

 「俺も」

 すぐにアスも出て行った。

 するとシロウがユーリに近づく。

 「あのふたりどう思う?」

 二人がいなくなったことを確認してシロウが小声で言った。

 「そうですね。アスさんは怪しそう。隊長はどーかなぁ。あの人そー言うのに鈍感そうですから」

 「だよな・・・」

 「はっきりさせたいですね」

 「させたいな」

 ユーリとシロウは、顔を見合わせながら考え込んだ。

 

 



 2086-07-08 夜 ヴァリアブルシップ 食堂


 今朝、回収の兆しが現れたことを知ってから、船内が明るくなったようにみんなが感じていた。

 普段と同じメニューの夕食も、いつもよりも美味しく感じられた。

 他愛もない会話をしながら食事を終え、コーヒーを飲み始めたところで、みんな聞いてくれと、アイナが話を始めた。

 「あと少しで帰れると言うことで、最後に全ての組み合わせでふたりだけで話をする機会を設けてはどうかとシロウから提案があった。まぁ、二人で話す機会もあったとは思うが、最後となれば話す内容も変わってくるだろう。わたしはいいと思うが、みんなはどうだろう」

 「いいでーす」

 すぐにユーリが賛成の手をあげた。

 「いいですよ」

 ユーリがすぐに手をあげたことを少々疑いながらアスも賛成した。

 「それではくじ引きで相手と順番を決めることにしよう。ユーリ 、くじを頼む」

 「了解しましたぁ!」

 ユーリは立ち上がると敬礼の真似事をした。

 その時、船が大きく揺れた。

 しかし、今までとは違い、揺れても不安なくやり過ごすことができた。





 西暦2726年7月 地球統合本部中央研究所 メインコントロールルーム


 本来ならば数人で操作するコントロールルームの長い操作デスクには、その中央の席にマシスひとりが座っていた。

 その後ろの所長席にはノジマが座り、マシスの操作するモニターを見ていた。

 「エネルギーチャージ12%。生活区画に影響を与えず順調に進行しています」

 マシスがノジマに振り返りながら言った。

 「結局、こちらも二人だけか」

 マシスはそんなノジマの言葉に、いいじゃないですか、と軽く笑った。

 ノジマも笑っている。

 「まぁ、チャージの監視だけで、あとはオートだからな」

 「そんなことよりも、彼女たちは回収が近いことに気付いていますよね」

 「チャージが始まれば、徐々に回収の紐にテンションがかかる。待ちに待った反応だ。絶対に気付いている」

 ノジマは自信と希望を混ぜ合わせたような口調で言った。

 「ただ、チャージが終了しテンションが最大になったところで、紐は一気に引っ張られるはずだ。その時までにC・コクピットに入っていてくれないと困るが・・・」

 「それは問題ないでしょう。テンションがかかればもう帰るだけです。他には何もすることなんてないはずですから」

 あと1ヶ月もすれば、ヴァリアブルシップは長い長い任務を終えて帰ってくる。迎えるのはたった4人だけとなるが、どうやって迎えようかとマシスは思いを巡らせた。

 あ、そうだ・・・、トーコには教えてあげなくてはいけない。

 「あの、所長・・・」

 マシスはすぐにノジマの許可をとった。





 2086-07-10 ヴァリアブルシップ メインルーム

 

 「巣の最下層に5機のアルビオンが降下したようです」

 時折大きく揺れるメインルームで、ユーリはデスクの小型モニターにアルビオンのマーカーを表示した。ユーリの周囲に他の3人が集まり、そのモニターを覗き込んでいる。チャージの減少を少しでも減らすために、壁の大型モニターは使用しないようにしていた。

 「その下にいる生殖個体を狙っているのかもしれんな」

 「このアルビオンは通常の機体でしょうか?」

 「Sのマーカーだった機体が完全に新しくなっていたら、旧表示では現れないかもしれません」

 「5機か・・・。Sのマーカーはずっと2機だったからな」

 「下に行く途中に再構築が発現した個体が2体あります。入ってみますか?」

 アイナはしばらく考えた。

 「発現個体は通常個体よりも進化しているはずだ。勝手にやってくれるかもしれん。しばらく動きを観察して判断しよう。無理にチャージを使うことはない」

 「分かりました」

 

 それから1時間ほどして、アイナの予想通り再構築の発現したふたつの特殊個体は、5機のアルビオン全てのマーカーを消していた。

 「ここはもうこいつらに任せておいて良さそうだな」

 「ああ、通常のアルビオン相手なら、インサートする必要はない」

 ・・・そうだ、もうインサートの必要はない。そう、あいつが出てくるまでは・・・。

 アスとシロウの会話を聞きながら、アイナはそう思っていた。

 


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