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 西暦2730年5月 山の中腹にある農業プラント


 赤茶け乾いた広大な土地は、長年の浸食でここが以前は山だったとは思えないほどに状態を変えていた。

 そんな日当たりだけはいいこの場所に、食料を生産するための巨大な農業プラントが建っていた。

 「建物は特に問題なさそうだが」

 小型VTOLで到着したばかりの作業着姿のレジェ・シノハラは、農業プラントを見上げながらそう呟いた。

 「お待ちしてました」

 声のする方を振り返ると、このプラントの責任者であるヨハン・マイヤーが出迎えにきていた。

 「遠いところまでご足労いただきまして申し訳ありません」

 シノハラの倍ほどの年齢のマイヤーが頭を下げた。

 「早速状況を教えてください」

 シノハラはすぐにそれを制すと、本題にかかった。

 「では、こちらへ」

 マイヤーは先導するようにプラント横の上りの細い道を歩き出した。

 「今朝早く、プラントの稼働が停止したとのことで慌てて確認にきたのですが、電源が完全に落ちていました」

 道は少しずつ傾斜を増した。

 「非常電源が働いているので、1日くらいは生産に問題はないのですが・・・」

 マイヤーの息が荒くなった。

 「あ、ここです」

 マイヤーは大きく息を吸い込むと、道の横の崖を見下ろしながらその先を手で示した。

 そこには豊富な水の流れの中に水没した建物があった。

 「電源施設が完全に水の中です」

 「こんな川の近くに電源施設があったのですか」

 「いえいえ、この川はもともとなかったのです」

 シノハラは川がどこから流れてきているのか見るために上流に目をやったが、小高い丘に遮られ分からなかった。

 「少し前に地震があったようなので、何か地殻変動でもあったのかもしれません」

 「それにしてもすごい水量ですね」

 「ここの施設は地下深くから水を汲み上げていますが、この川の水が枯れずに維持できたら、大昔のように土で作物が作れるようになるかもしれません」

 シノハラは土で作物ができる様子を見たことがなかった。作物は水で作るものだった。

 「では、電源が戻ればプラントの稼働は可能ですね」

 「はい」

 「分かりました。すぐに手配します。設備の型番を教えてください」

 マオヤーはポケットから携帯端末を取り出すと検索を始めた。

 「いやぁ、シノハラさんに直接来ていただいて良かった。プラント管理課経由だといつも時間ばかり掛かって」

 シノハラも端末を取り出すと、マイヤーからのファイルを受け取った。

 「標準的な型番なので在庫はあると思います。輸送機も同時に手配し、今日中には届けさせます」

 「ありがたい」

 「ただし、到着後12時間以内に復旧してください」

 「了解しました」

 マイヤーは自身ありげに答えた。

 「では、わたしは新しい電源設置場所の基礎工事を見てきます。シノハラさんはこのあとはどうされます?」

 「そうですね。この川の上流を少し辿ってみます」

 「分かりました。また帰るときにでも声をかけてください。お気をつけて」

 マイヤーは急ぎ足で、登ってきた小道を降りて行った。

 シノハラは強い日差しを遮るためにサングラスをつけると、端末を使って統合本部に連絡を入れた。

 


 日差しを遮るものが何もない赤茶けた道は照り返しも強く、春を過ぎたばかりだというのに真夏の暑さだった。

 そんな上り勾配の道をシノハラはゆっくりと歩いていた。

 「かなりの紫外線だろうな」

 紫外線の影響を避けるために外出時にはサングラスと長袖が必須だった。シノハラはつなぎのファスナーを大きく開けた。

 やがて小高い丘の頂上に出た。遠い川の先を辿る。

 それは遠くの山から流れてきているようで、はっきりとその場所がわかる距離ではなかった。

 遠い山は太陽の陽を反射して、うっすらと緑色に輝いているように見えた。

 「ああ、きれいだな・・・」

 忘れかけていたその言葉がごく自然に自分の口から出たことにシノハラは驚いた。

 「こんな景色は見たことがない」

 シノハラは端末を取り出すと、その景色を記録した。

 

 

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