少女
2085-12-16 ワカヤマ山中アルビオンの基地と思われる施設内
アスは急に明るさを感じた。
「孵ったのか」
視界が流れたあと、目の前には床があった。
視界がゆっくりと上がる。
「子供・・・」
見えたものはパイロットスーツを着た小柄な少女だった。
おそらく孵化の時のものだろう。少女は頭から粘液を浴び、びしょびしょになっていた。
恐怖に怯えた顔をしている。当然だ。
目が合った。
固まったまま動きを止めた少女。
時間が止まったかと思えるくらい何も動かない。
ずっと少女は目を離さずこちらを見ている。
やがて、止まっていた時間が動き出すように、少女は一歩一歩、ゆっくりと後ろに下がり始めた。
驚いたことに、アスの挿入個体がその少女の動きに合わせて動き出した。一歩、また一歩。
「ついて行っているのか・・・」
すると少女が静かに手を差し出した。
「何をするつもりだ。これは凶暴な生物だぞ。手を出すな」
少女の手が顔に触れた。
そして少女の口が動いた。
「何かを言っている?」
顔に触れた手が優しく動いた。
「この子は何をしているのだ。それにこいつはどうしてこうも大人しいのだ」
視界しかないアスには、少女とのやりとりが全くわからなかった。
少女の背後に大きなケージが見えた。
「そうかあの中に入れるつもりだ」
やがてケージの中に入ると、少女が向きを変え、外に出た。
ケージが閉まる。
アスはケージの中から少女を見ていた。
少女の手が動く。
「何をする。噛み付かれるぞ」
少女はケージの隙間からまた手を差し出し、優しく顔に触れた。
そして何かを喋った。
「さっきと同じ言葉だ・・・」
アスは少女の口の動きを探った。
「何を言っているんだ」
少女の言葉はわからない。しかし、その時アスは、少女の周囲に広がる穏やかな波を見たような気がした。
「なんだ、今のは」
ケージの周囲に人が集まってきた。
「どうしてだ。ひとりは大人としても、他の二人はどう見たって子供じゃないか」
手を出す少女の後ろから興味深そうにこちらをみている3人の姿が見えた。一人はつなぎ姿の女性。そして後の二人はパイロットスーツ姿の少年と少女だった。
笑いながら会話をする4人は、楽しそうだった。
「どうなっているのだ・・・」
しばらくしてさらに何人か人が集まってくるとケージが動き、手を振る少女を視界に捉えたままアスは何処かへ運ばれて行った。
その後、視界が途絶えた。
幼体は目を閉じ、眠りについたようだった。
アスは不思議な気持ちを残したままコクピットに戻った。




