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 2085-12-16 ヴァリアブルシップ メインルーム

 

 2時間ほどでメディカルカプセルから出てきた4人はそれぞれ自分の席につき、ユーリの操作する壁の大型モニターを見ていた。

 表示されているのはアルビオンのマーカーだった。マーカーによって相手の動きを追うことができた。

 「これ、リアルタイムなんですが、巣の中に1体いるんですよね。何をしているんでしょうか」

 「かなり深い位置だな。しかも、表示を区別したやつか」

 そのマーカーは、アイナが他の機体と区別できるように表示を変えたものの一つで、特異性のspecificityからS-2と表示されていた。

 「ずっとここで動いていないようですよ」

 ユーリは表示の時間を遡ってみたが、システムが正常に戻り記録を始めた時にはすでにその位置にあり、それから全く移動していなかった。

 「あ、巣の上空で動きがあります。これは例の小型輸送機ですね」

 アルビオンと同じように区別された小型輸送機のマーカーにはST(specificity transport)-1と表示されていた。

 「上空で停止しています・・・。アルビオンを落としました。これは、S-1です」

 少しして、S-1のマーカーはS-2にマーカーと重なった。

 「何かの作戦ですか?」

 アスが疑問を投げかけるが、誰も答えることはできない。

 「こちらが動けんというのは歯痒いな」

 その思いは全員が同じだった。

 アイナはモニターに表示された数字を見た。

 まだ、505min.だった。

 「VN-2082の状況は?」

 ユーリがモニターの表示にVN-2082のマーカーを重ねた。

 S-1、S-2のマーカーのかなり下深くにVN-2082のマーカーが3つあり、そのふたつはうっすらと紫色に変化を始めていた。また、逆に上部には多数の新しいマーカーが表示されていた。

 「最下層って生殖個体だったよな。ひょっとしてそこに行こうとしているんじゃないのか」

 シロウが閃いたように言った。

 「可能性はあるな」 

 アスも同意したが、アイナは肯定しなかった。

 アイナは、2機のアルビオンがあえて危険な場所に身を置きさらに動きを止めていることが、下層へと進むことに結びつかなかった。

 「上の個体は動きそうか」

 「マーカーで表示されるようになってからかなりの時間が経っています。まもなく活動を始めると思われます」

 「おそらく降りた2機は、一時的にでも巣の中のVN-2082がいなくなったと思っているのだろう。奴らが何をしているのかは見当もつかんが、この場所にいる今がS-1とS-2を叩く絶好のチャンスだ」

 巣の中の不安定な場所での戦闘ならVN-2082が有利なのは確実だった。しかし、そうなるためには、VN-2082が動き出し、その中に特殊個体が出現し、さらにC・コクピットの修復が終わらなければならないという幾つものハードルがあった。

 「今のうちに交代で食事をとっておくか」

 アイナはユーリとシロウに先に食事を取るように告げた。




 アイナとアスが食事から戻ってしばらくすると、S-1、S-2のマーカーに動きが出た。

 「S-2が上に向かっています。上空からはSTが降りてきています」

 「やることが終わったということか」

 アイナはモニターに表示されるS-2の動きを追った。

 「VN-2082が動き出しました。アルビオンに気づいたのかもしれません」

 S-2のマーカーがSTと重なり消えた。

 「回収したな」

 すると、下にいたS-1が動き出した。上へと向かっている。

 「かなりの数のVN-2082が、STとS-1に反応しています。おそらく攻撃を始めたと思われます」

 「特殊個体の出現は?」

 「いくつか出ています」

 アイナはモニターの表示を見た。

 155min.。

 まだか・・・、アイナは焦る気持ちを抑えきれずにいた。

 「巣の周囲に多数のアルビオン確認。S-1も回収されました。STが上昇、巣から出ていきます」

 モニターにかなりの数のアルビオンが表示されていた。しかし、活動を開始したVN-2082も、数では劣っていなかった。いやそれはさらに増え続け、一気に数を増して行った。明らかにVN-2082が優勢だった。

 「STからS-1、S-2が出ました。あっ」

 ユーリがモニターの表示の変化に気づいた。

 「アスのコクピットだけ、先に修復が終わったようです」

 船の姿勢制御の影響でコクピットが強制終了される時、アスはすでにコクピットを出ていたのでダメージが少なかったと考えられた。

 「他のコクピットはどうだ」

 「他は、まだかかりそうです」

 アイナは再び数字を見たが、先ほど見た時から3分も経っていなかった。

 「相当数のアルビオンの減少を確認。こちらが優勢です」

 「通常個体のVN-2082も進化しているということか」

 「S-1、S-2の周囲から、今度はすごい速さでVN-2082が減ってます」

 ユーリが驚きの声を出した。

 「やはりあの2機か。入れそうな特殊個体は?」

 アイナはモニターのマーカーを見渡した。

 すると、地上に向かう紫色のマーカーが一つあった。

 「アス、入れるか」

 コクピットはそれぞれのパイロット専用に調整されていた。そのため、他人のコクピットを使用することはできなかった。

 「了解。入ります」

 アスはコクピットへと走った。

 「ターゲット固定。アス、インサート 」

 ユーリの言葉と同時に、一瞬船の電力が落ちた。

 「どうした。何があった」

 「船に急な姿勢制御が入りました」

 「一瞬だったので、システムに影響ありません」

 ユーリを補助するようにシロウがすぐに確認を行っていた。

 『これは、どうなっている。真っ暗だ。コントロールも効かない』

 アスからの通信だった。

 「どうした」

 アイナがすぐにヘッドセットを着け、アスの状態を確認しようとした。

 「視界が確保できません。体も動きません」

 「インサートは確実に行われています。エラーで別の場所に飛んだのかもしれません」

 ユーリはそう言いながらアスの入った個体のマーカーを再スキャンした。

 「これは? どうして・・・」

 通常は特殊個体のマーカーとインサートしたパイロットのマーカーが一緒に表示されるはずだが、アスのマーカーはアルビオンのS-1を示すマーカーと重なっていた。

 「まさか、アルビオンにインサートしたのか?」

 おかしなマーカーの重なりをアイナも確認した。

 「いや、流石にそれはないはずです」

 ユーリは動きを止め考えを巡らせた。

 その間にもアスのマーカーはS-1と共に高速で移動を続けていた。

 「アス、今確認中だ。少し待ってくれ」

 「インサート可能で、マーカーに表示されないのは・・・」

 そこでユーリは思いついたように顔をあげた。

 「孵化間近の卵ならインサート可能かもしれません」

 「卵?! S-1は卵を持ってる? あいつら卵を取りに巣に入っていたのか」

 シロウが思わず声を出した。

 「どうして卵なんか・・・」

 なんのために、卵を取りに行ったのか、アイナには理解できなかった。

 「でも、もしもそれができるなら、あたしも卵を欲しがるかもしれません。研究者として、ですけど」

 ユーリの言葉で、アイナは少し納得した様子だった。

 「アス、そのままそこにいられるか?」

 『全く視界の確保ができていませんが、特に今の状態で問題はありません』

 すぐにアスの答えが返ってきた。

 「ユーリの言うように、卵が欲しいのならそのままどこかの施設に運ぶはずだ。孵化が近い。ひょっとしたら施設の中が見学できるかもしれん」

 『なるほど。このまま孵化を待ちます』

 「ユーリはアスの個体の状況を追ってくれ。シロウは念のためマスターシステムの再チェックを」

 「はい」

 「了解」

 

 アスがインサートしようとした特殊個体は単独でかなりの数のアルビオンを倒していた。それはVN-2082自身が能力を拡張していることを意味した。しかし、それにも関わらず、その後、S-1を示すマーカーはアスのマーカーを連れたまま、S-2と共に巣の周囲を移動しながらVN-2082を次々と消していき、ついにその特殊個体も消滅させた。

 

 「S-1、S-2、共にSTに回収されました。どこかの基地に向かうと思われます。ひょっとしたら、先日隊長が襲撃したところかもしれません」

 その時アスは、何もわからないまま暗闇の中にいた。



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