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システムダウン


 2085-12-15 ヴァリアブルシップ メインルーム


 「地上への進撃が始まりました」

 壁の大型モニターは、巣から周囲に広がるVN-2082の赤いマーカーの様子を映していた。

 「敵の輸送機確認。10機ほどです」

 「特殊個体はどうなっている?」

 「います。現在、地上に向かっています」

 ユーリがモニターの表示を変えた。そこには地上へと動く6つの紫色のマーカーがあった。

 「6体か。地上に出たところで入る」

 モニターの表示が再び巣の周囲に戻る。すると、モニターを見るアイナの表情が急に硬くなった。

 「何だ。すごいスピードで消されているじゃないか」

 他の3人も驚きで動きを止めた。

 巣の周囲を囲むように表示されるアルビオンのマーカーが、次々とVN-2082のマーカーを消しながら巣に押し寄せていた。

 「やはり、かなり性能が上がっているな。このままでは時間の問題だ。また核が使われるかもしれん」

 アイナは唇をかんだ。

 「特殊個体、地上に出ました」

 「いくぞ!」

 ユーリの声に反応して、アイナはC・コクピットへ走った。

 すぐにアスとシロウが続く。

 『いいぞ、入れてくれ』

 『こっちもいいぞ』

 『シロウ、準備完了』

 「アイナ、アス、シロウ、インサート」

 それぞれの意識は地上に出たVN-2082の特殊個体へと入って行った。


 

 インサートした視界は、太陽が沈んだ後の暗いオレンジがわずかに残った空を映していた。

 『夜になります。大丈夫でしょうか』

 アスが暗闇での戦闘を心配するように言った。

 「問題ない。こいつらは夜目が効く」

 『なるほど』

 アスもシロウも安心した様子だった。

 「アスは右。シロウは左だ。わたしは正面からいく」

 アイナはそう言うと同時に目の前のアルビオンに飛びかかり、すぐさま1機を沈めた。爆発を避けると次の獲物に向かう。

 アスは右から回り込みながら、ライフルを撃つアルビオンに襲いかかった。

 シロウは大きく左にジャンプすると、そのまま逃げようとするアルビオンの背に爪を突き刺した。

 アイナたちは巣の周囲のアルビオンを次々と倒していく。

 さらにインサートしていない特殊個体も素早い動きでアルビオンを追い込んでいた。

 「わたしたちが動かさなくても特殊個体は良い働きをする」

 『敵の動きを読んでいますね』

 『これは明らかに学習しています』

 アスもシロウも他の特殊個体の動きに感心していた。

 『アルビオンが撤退して行きます。追いますか?』

 シロウの問いにアイナは周囲を見渡した。

 「操作していない特殊個体がここに留まっている。核を警戒しているのかもしれん。シロウだけ追ってみるか」

 『了解。一番近くの集団を追ってみます』

 「他の特殊個体とともにアスはわたしとここで警戒だ」

 『アス、了解』

 やはり敵の行動を学習しているのか、しかしどうやってそれを獲得しているのだ・・・、アルビオンを追わない特殊個体を見ながらアイナは不思議に思った。



 夕日の名残が完全に無くなった暗闇の中、アルビオンのバックパックからの噴射の光りが延びる。

 シロウは時々体を軽くジャンプさせながら、逃げるアルビオンに迫っていた。

 「シロウです。5機のアルビオンを追っています。1個小隊と思われます」

 『適当なところで攻撃してもかまわん』

 アイナからの通信が入った。

 「了解。仕掛けてみます」

 どれにするか、シロウが獲物にする機体を選ぼうとしたところで、その中の1機が急に機体を反転させるとシロウに向けて大きくジャンプした。

 続けて残りの4機も方向を変えた。

 「そっちもやる気か」

 ライフルのマズルフラッシュが見えた。シロウはそれを軽くかわし撃ってきた機体に飛びかかった。

 同時に他の4機からライフルの銃弾が放たれる。

 飛び交う銃弾の中、空中で素早く姿勢を変えたシロウは、アルビオンの背後に着地するとすぐにまた飛び上がった。

 戸惑うようなアルビオンが見えた。

 「こっちを見失ったな」

 シロウは落下とともに爪を突き刺した。

 しかし、咄嗟に出したアルビオンの右腕がシロウの爪に当たった。腕はそのまま切断され、ライフルとともに飛ん行く。切断された機体側から白い液体が噴き出したがすぐに止まった。

 「隊長が言っていた弱点はこれか」

 他の4機から一斉にライフルが撃たれる。

 シロウはライフルをかわすように軽くジャンプすると、切断の衝撃で倒れ込んだアルビオンに覆いかぶさった。

 「まず、おまえからだ」

 シロウがコクピットを狙い右腕を振り上げると突然地面が揺れた。

 「地震か」

 揺れにシロウの動きが一瞬止まったことを見逃さず、ライフルが一斉にシロウに向かった。

 すかさずジャンプし、射線を外す。さらに狙ってくる銃撃を左右に小刻みにかわしながら大きくジャンプすると、再び倒れているアルビオンに覆いかぶさった。

 右腕を大きく振り上げる。

 同時に4機を警戒する。撃ってきたらすかさず離脱するつもりだ。

 シロウは一気にコクピット目掛けて腕を振り下ろした。

 アルビオンは残った左腕を犠牲にし、かろうじて攻撃を避けた。

 切断された左腕が飛んでいき、弾かれたシロウの腕はアルビオンの右肩に突き刺さった。

 「次が来るか」

 4機からの攻撃を警戒したシロウは、すぐさま離脱のジャンプをするために姿勢を下げた。

 「!」

 突然視界が白くなり、脳に凄まじい衝撃が走った。

 シロウはアルビオンの腕の切断面から止まることなく噴き出す白い液体を浴びていた。それは目にとって強烈に刺激性のある液体だった。

 

 シロウの意識はコクピット内に戻っていた。

 目に受けた衝撃が大きかったので、緊急排除のプログラムが個体消滅前に作動したのだった。

 自分の作ったプログラムの恩恵を真っ先に受けたのがシロウだった。

 「わざと浴びせたのか・・・」

 頭はまだ衝撃の名残で揺れていた。

 「消滅まで意識が残っていたら、どれだけの苦痛を感じるのだろうか・・・」

 コクピットの中で苦痛に顔を歪め気を失っていたアイナの姿が浮かんだ。

 『シロウどうした?』

 アイナの声が届いた。

 シロウは頭に残った衝撃を消すように大きく息を吸い込んだ。 

 「やられました。大丈夫です」

 『こちらはまだ動きがない。少し休んだら入ってこい』

 「了解しました」

 シロウは一旦コクピットを出ることにした。

 ハッチを開けるとすぐにユーリの元へと向かった。ユーリが心配そうな顔をむけた。

 「プログラムはちゃんと作動した。問題なさそうだ」

 ただそれを言うためにコクピットを出たシロウは、「よかった」と言うユーリの言葉を聞きながらすぐにまたコクピットへ入っていった。

 「いいぞ、送ってくれ」

 『シロウ、インサート。お気をつけて』




 『新たな輸送機確認』

 ユーリからの通信に、特殊個体にインサートした3人は索敵モニターの表示されるマーカーの方向を見あげた。

 「確認した」

 『こちらでも確認』

 『見えます』

 星の煌く夜空の奥にアイナたちに向かってくる小型の輸送機が見えた。

 「徐々に高度を下げているな」

 アイナはインサートされていない横の3体をみた。輸送機に気付いた個体は姿勢を下げていた。

 「飛びかかるつもりか」

 『我々も便乗しますか』

 「いや、何かありそうだ」

 アイナは波を感じていた。

 「わたしとシロウはこのまま。もしも敵の攻撃があればしっかりかわせよ。アスは他の特殊個体に少し遅れて追従しろ」

 『了解』

 『わかりました』

 さらに高度を下げ加速した輸送機からミサイルが放たれた。

 「くるぞ!」

 5発のミサイルが地面に着弾し、一瞬の閃光のあと爆炎が広がった。

 アイナは爆煙の広がる中、味方のマーカーを確認した。全てがミサイルを避けていた。

 『3体が輸送機に向けてジャンプしました。続きます』

 アスから通信が入った。

 「罠かもしれん。気をつけろ」

 アイナの予想通り、先にジャンプした2体が瞬時にやられた。

 『狙撃されました。やはり罠です』

 大きくハッチが開いた輸送機の後部デッキに、2機のアルビオンが見えた。

 片膝をつき構えるアルビオンのライフルの銃口が光る。

 『当たるか!』

 アスは体をひねり銃弾をかわした。

 その直後、アスの脳に衝撃が走った。伏射で構えたもう一機の追撃によるものだった。


 コクピットに戻されたアスの体は、あまりに強烈すぎた脳への衝撃によって震えていた。

 『緊急排除が働いても、結構キツイな』

 シロウへと送ったアスの通信が聞こえた。

 『だな・・・』

 シロウにもその衝撃の強さが蘇ったようだった。

 『輸送機を追いますか』

 シロウはそれを打ち消すようにアイナに確認した。

 「いやアルビオンが降下した。この位置でいい」

 アイナは遠くで輸送機から飛び出す2機のアルビオンを見ていた。

 あいつなのか・・・、アイナは波の正体を探った。

 「ユーリ。この輸送機と降下した2機のアルビオンの識別マーカーを、他のものと区別できるようにしろ」

 アイナは2機のアルビオンに対して臨戦態勢をとった。

 


 

 「入れる個体はないか?」

 コクピットから出たアスは、次にインサートできる個体をユーリに確認した。

 その時突然、船が大きく揺れた。

 その揺れの大きさに驚いたユーリはデスクにしがみつき、立ったままのアスは思わずユーリのシートを抱えるようにつかまっていた。

 「また、地震か!?」

 「ここは地震の影響を受けません」

 そもそも泡の中に存在するヴァリアブルシップはVN-2082の存在する外界の影響を受けるはずもなかった。

 「船が緊急で姿勢制御を行っています。泡が今までになく不安定になっているようです」

 揺れが続く。二人は体が飛ばされないように必死でしがみついていた。

 突然、警告音と共にモニターにアラームが表示される。

 「何のアラームだ?」

 アスはしがみつくシート越しにモニターを見たが、揺れが激しく確認できない。

 『どうした。こちらは戦闘が始まる』

 アイナにもアラームが鳴っているのがわかった。

 「C・コクピットが維持できません。システムが再起動します。強制排除されます」

 ユーリの言葉と同時にメインルームの照明が落ちた。

 非常灯の暗い明かりの中で、アラームの赤い光が点滅する。

 しばらくしてシステムが再起動を始めた。

 やがて照明が点きメインルームがいつもの明るさになると、その時には揺れは治まっていた。

 C・コクピットのハッチが開き、アイナとシロウが出てきた。

 いつもと変わらない状態のメインルームを見て、二人は何が起こったのか全く分からない様子だった。

 「強制排除されるなんて、何が起こったのだ」

 苛立った様子のアイナが首のファスナーを下げながら聞いてきた。

 アスがユーリを見て、説明することを促した。

 「船を支える泡が急に不安定になったようです。おそらくかなり状態が悪く、それを修正するためにシステムへの電力が優先され、システムダウンを避けるために強制排除されたのだと思います」

 泡が不安定になることが分かってから、時々時間が修正されていることは何度かあった。しかしそれは深夜にひっそりと再起動されるだけで、次の日に影響が残ることは全くなかった。

 「ゆっくりと、状況を確認しよう」

 アイナは不安を隠すように言ったが、表情は固かった。

 それからすぐに、アイナとシロウの入っていた特殊個体のマーカーが消えた。

 その直後、再び船が大きく揺れると、システムが完全にダウンした。



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