索敵
2085-12-02 ヴァリアブルシップ
「ニホン、ワカヤマ山中を移動中の5体のうちの一つに紫の反応がうっすらと出ています。このままいくと特殊個体の発現となります」
数時間前に突然現れたVN-2082のマーカーを、ユーリがパネルを操作して拡大させた。4つは赤く、そしてひとつはぼんやりとした紫色だった。
「今まで反応がなかった場所じゃないのか」
「突然反応が現れました。時々探査が不安定になるんですよね。なぜでしょうね」
シロウの疑問にユーリも疑問を投げかけた。
VN-2082のマーカーは全ての個体を表示しているわけではなかった。突然に現れたり、急に消えたりすることもあった。今までの観察からマーカーが消えても個体そのものがなくなっているわけではないことがわかっていたが、その原因はいまだに不明だった。
「アスとシロウが先に通常個体に入って周囲の観察。特殊個体が発現したところでそれにわたしが入る」
アイナの言葉にすぐにアスが反応した。
「今度は自分が特殊個体に入ります。隊長ばかりでは負担が」
アスは以前のアイナとの会話で、アイナがVN-2082に対して高い感受性を持っているのではないかと思っていた。ひょっとして過度にインサートを繰り返すと、体に何かしらの影響が出るのではないかと心配した。
「大丈夫だ。それに・・・」
そういえばアスにしか話していなかったなと、アイナはそこで言葉を止めた。あいつが出て来るかもしれない・・・。
「大丈夫だ」
アイナはもう一度アスに向かってはっきりと言った。
「了解しました」
アスは素直に従うことにした。
「シロウいくぞ」
アスはシロウに声をかけると、一緒にC・コクピットへ向かった。
「ターゲット固定。アス、シロウ、インサート」
『よし、入った』
『こちらも入った』
アスとシロウの声が、アイナのつけたヘッドセットにも届いた。
『山中の木々の間を移動中』
「上空に敵確認。見えますか?」
ユーリの索敵モニターにenemyのマーカーが現れた。
『空を見ている。輸送機が上空に接近』
『こちらも見上げた。あ、あれはアルビオンじゃないのか』
アスの視界に上空の輸送機から降下する3機のアルビオンが映った。
『もうすでにこちらの存在に気付いているようだ。攻撃態勢に入っている』
「特殊個体はまだか?」
アイナが急かすようにユーリに聞いた。
「まだ完全に発現していません。もう少し待ってください」
ユーリの言葉が終わる前にアイナはコクピットに飛び込んでいた。
『1機のアルビオンに攻撃を仕掛けるようだ。しかし、これは相手の罠なんじゃないのか』
アスの挿入個体は、降下後にその姿を見せつけるかのように大きくジャンプしたアルビオンに向かっていた。
体を沈ませ飛び上がると背を向けているアルビオンに襲いかかった。次の瞬間、アスの意識はコクピットへと戻された。
『次、送れるか?』
「あ、ターゲットロスト。再スキャンします。少し待ってください」
アスを送り込むため、次の個体にロックした途端にそれが消滅した。
『戦闘の様子が確認できた。やはり罠だ。目立つ動きをするアルビオンにVN-2082が向かったところ、それを後方から狙撃された』
「紫、発現確認しました」
『よし、送ってくれ』
「ターゲット固定。アイナ、インサート」
アイナのインサートと同時にモニター上の赤のマーカーが全て消滅した。
「通常個体、全てやられました」
『もう、アルビオンには歯が立たないです』
『あっという間にやられました』
アスとシロウがアイナに通信を送ったあと、二人は悔しそうにコクピットから出てきた。
『特殊個体、アンダーコントロール。やってみる』
アイナは自分の体の中に入り込む不快感を押し殺すように言うと、体を走らせた。
「3機編成か・・・」
木々の間を凄まじいスピードで走るアイナの視界には、索敵されたアルビオンの位置がコクピットとの無接点神経接続によって表示されていた。
「まず、こいつから」
アイナはスピードに乗ったまま体を大きくジャンプさせると、1機のアルビオンの背後に迫った。そのまま背中のバックパックに爪を突き刺す。すぐに機体を蹴飛ばすように爪を抜き離れた直後、アルビオンが爆発した。
そのまま姿勢を低くして木々に隠れるように次のアルビオンに向かう。
今度はジャンプせず、アルビオンの足元から一気に爪を突き上げた。
爆発が起こる。その時にはすでにアイナは最後の1機の背後にいた。
右腕を振り上げながら正面に回り込む。
「終了・・・」
アイナの爪がコクピットを貫いた。
アルビオンの爆発が周囲の木々を吹き飛ばした。
アイナはすでにその位置にはいなかった。
『全てのアルビオンの消滅確認。戻りますか?』
ユーリの声が届いた。
「輸送機がまだ上にいるな。何かするつもりかも知れん。もうしばらくこのままにしてくれ」
アイナは隠れるように姿勢を低くすると上空の輸送機を見上げた。
輸送機は上空を旋回しながら徐々に高度を下げてきた。
「状況の確認か。あの高さなら届くかもしれん」
アイナは獲物を狙うように、じっと輸送機が近づくのを待った。
輸送機の高度がさらに下がる。それに合わせて姿勢を低くし力を蓄える。
そして狙いを定めると最大のジャンプをした。
加速度を感じ、体が浮かび上がる。
木々から抜け太陽の陽を浴びたアイナの背中が銀色に光る。と同時に右腕が輸送機の翼を砕いていた。
すぐに高高度からの着地の衝撃がアイナの全身に伝わった。
戦闘時におけるVN-2082からのフィードバックには徐々に慣れてきていたが、流石に初めての大ジャンプの衝撃は大きかった。アイナはその苦痛に顔を歪めながら周囲を見渡した。
山肌に激突した輸送機から上がる黒煙が見えた。
索敵モニターに敵のマーカーは見当たらなかった。
『戻りますが?』
ユーリの声が聞こえた。
アイナは少し考えたあと。
「いや、こちらの存在は向こうにバレている。すぐに次のがくるだろう。このまま待機する」
『了解』
アイナは木々の中に身を隠すように姿勢を下げた。




