お花畑
2085-07-25 ヴァリアブルシップ メインルーム
メインルームでは全員が自分の席につき、正面の大型モニターを見ていた。
「次に、ここ1週間の変化です」
ユーリは、モニターに時間のズレとチャージ使用量のグラフを表示した。
右肩上がりの線は、時間のズレも使用量も明らかに大きくなっていることを示していた。
「時間のズレは、1週間前に気付いた時には40分程度だったのが日を追うごとに大きくなり、今では120分ほどになっています。それに伴って、チャージ使用量も当初の2倍ほどに上がっています」
「ということは、それだけ船の状態が悪くなっているということか」
モニターを見つめながらアスが言った。
「確か、我々は時間の泡の中にいるようなものだと言っていたな。ならば、泡が不安定になっているんじゃないのか?」
「なるほど、そうですね」
アイナの言葉にアスが振り返りながらうなずいた。
「泡が不安定になったために時間がズレ、それを修正するためにチャージ使用量が増加しているわけか。でもそもそも、泡が不安定になるとどうなるのでしょう?」
シロウもモニターから目を離すと疑問を投げかけた。
「いずれは泡が壊れ・・・、そうなればこの船はどうなるかわからんな」
「よくない傾向ですよね・・・」
ユーリが不安な顔を向けた。
「このままで行くと、チャージはどれくらい保つ?」
ユーリはすぐに操作パネルに手を置き、計算を行なった。
モニターの表示が右下がりのグラフになった。
「あと、1年半ほどでリザーバーを含めたチャージがなくなります。けど、途中でさらに不安定さを増し使用量が増えることがあれば、もっと短くなります」
アスはじっとモニターを見つめていた。
ユーリは俯いてしまった。
シロウは不安そうなユーリを見ていた。
「わたしたちを送り出した統合本部は、チャージが5年は保つと思っている。おそらくわたしたちの今の状態に気づくことはないだろう。そのため、干渉の変化が現れなければ、紐が引っ張られることはない。つまり戻れないのだ」
アイナがシートから立ち上がった。
「ならば、あと1年半で結果を出せばいい」
アイナはひとりひとりに視線を向けた。
最後にアスとアイナの目が合った。
アスはアイナの勝気にも見える目を久しぶりに見た気がした。いやアイナはきっといつもこの目をしているのだろう。あの時からずっと・・・。
「いざとなれば、お花畑もありますからね」
アスがおどけるように言った。
「え、なんですか、それ?」
「あはは。アスはこの船を出たら、外はお花畑だと思っているようだ」
ユーリの問いにアイナが笑いながら言った。
「お花畑はアスの頭か」
「なーんだ」
シロウもユーリも表情が和らいだ。
そんなみんなを見て、アスは本当のお花畑にならないことを祈った。




