突入
2085-07-10 ヴァリアブルシップ
「昨日からの進路です」
ユーリが一つのマーカーの動きをモニターに表示した。
「それに色の変化です」
マーカーの色は、動きに合わせ徐々に紫に変わってきていた。
「この進路だと、例の施設のかなり近くまでいきそうだな。それに特殊個体の発現も出てきている」
アイナはパイロットスーツの胸のファスナーをしっかり上げると、髪を後ろで束ねた。
「インサートする。奴の中で発現を待つ。そして発現と当時に施設に突入する」
「他にVN-2082はいません。隊長一人ですがいいのですか?」
アスの心配をよそに、アイナはC・コクピットへ乗り込んだ。
「隊長が直接行くわけじゃない。大丈夫だ」
心配するアスの肩にシロウが手を寄せた。
アイナの個体は、夕陽を浴びオレンジ色に染まった杉の木の間を移動していた。
「ユーリ、発現はまだか?」
『もう少し待ってください。確実に色は変わってきています』
山陰に入り、周囲は一層暗さを増した。
しかし、視界が暗くなることはなかった。
「こいつは夜目が効くのか。暗くても視界が確保されている」
『進行方向がかなり施設から外れています』
その直後、アイナは不快を感じた。
『あ、発現しました』
ユーリの声が聞こえる。
『コクピット再起動します』
アイナの意識が一瞬戻された。そしてすぐにまた再構築を発現した特殊個体へと送られた。
泥の中に吸い込まれるような感覚。
体の中に何かが無理やり入り込んでくる不快感。
吐き気を抑える。
耐える。
次の瞬間、アイナの意識がVN-2082に広がった。
「アンダーコントロール。このまま施設へ向かい、可能であれば破壊する」
アイナの支配下に置かれたVN-2082は大きく進路を変えた。
鬱蒼としげる木々がアイナの進路を阻む。アイナは体を大きくジャンプさせた。
「どこだ」
気をなぎ倒しながら着地。すぐにもう一度大きくジャンプさせた。
「あれか」
木々の影の中、ライトで浮かび上がる大きな建物が見えた。
同時にサイレンが鳴り響いた。
「こちらの存在に気付いたようだ。これから突入する!」
『記録とっています。お気をつけて』
ユーリの声を聞きながら、アイナは施設に向けて再度ジャンプした。
すると、大型の建物のゲートが開くのが見えた。
「アルビオンが出てきた。しかも4機。あの大きな建物は格納庫か」
着地したアイナは、格納庫から出てきたアルビオンの1体に向けてすかさずジャンプした。
不意を突かれたアルビオンは、迫るアイナの姿に一瞬固まった。
アイナの巨大な爪がアルビオンのコクピットに突き刺さる。
すぐさまアイナは後ろ足でアルビオンを蹴飛ばすように爪を抜くと、次の目標に向けジャンプした。
爆発の閃光が広がる。
アイナの動きに戸惑うアルビオンに腕を振り下ろす。
「二つ目」
新しい閃光でさらに周囲が明るくなった。
「こちらの方が動きが速い」
地面を蹴ったアイナは残っているアルビオンの背後に回ると同時にコクピットを背中から貫いた。そして爪を抜き取る動作に続けて、横にいるアルビオンに滑るように取り付くとコクピットを押し潰した。
ふたつの大きな閃光が5機目のアルビオンを浮かび上がらせた。
手に持つライフルのマズルフラッシュが見えた瞬間にアイナの体は動いていた。
「これで最後か!」
アイナはライフルを軽く避けると、アルビオンに体を向け突進した。
アルビオンは回避しつつ弾幕を張るようにライフルを撃ち続けた。しかし、アイナの動きは圧倒的で、左右にランダムなジャンプを繰り返しながら全ての弾をいとも簡単に避けていた。
「そんな動きではわたしに勝てない!」
アイナは姿勢を下げると大きくジャンプし、アルビオンのコクピットにに向け右腕を振り下ろした。
バシッ
「くそっ、避けたか」
咄嗟に両腕で攻撃をかわされたアイナの右腕は、アルビオンのコクピットを逸れ頭部を貫いていた。
火花が飛び散り、吹き出た白い液体を蒸発させた。そこでアルビオンは動きを止めた。
「そうか、こうなるともう動けないのか」
アイナは頭部に刺さった爪を引き抜くと、コクピット目掛けて振り下ろした。
「死ね!」
ドオォン!
衝撃とともにアイナの体が吹き飛ばされた。
視界に新たなアルビオンが映った。
「なんだ、まだいたのか」
アイナは空中で姿勢を立て直すと、体当たりしてきたアルビオンに向き合うように着地した。姿勢を下げすぐに飛びかかる。
右腕を大きく振り上げ、落下のスピードに合わせて振り下ろした。
アルビオンはアイナの右腕を予想していたかのようにタイミングよく左腕をぶつけそれをかわした。しかし、アイナのパワーに負けたアルビオンはバランスを崩し地面に倒れ込んだ。
一瞬、アルビオンの動きが止まる。
それを見逃さず、アイナがトドメを刺すために右腕を振り上げた。
「怖いか。そうだろう。死の恐怖を感じたなら、膝間づいて世界が変わるように祈れ!」
振り上げた腕を怒りとともに振り下ろした。
同時にアルビオンのバックパックが閃光を放った。
大きな衝撃とともにアイナの体は飛ばされ、張り付いたアルビオンとともに後ろの削られた山肌に激突した。周囲に亀裂が走り体がめり込んだ。
「こざかしいやつ!」
アイナはアルビオンを引き離そうとしたが、右腕はアルビオンの体で左腕はその右腕で押さえ込まれ動きが取れなくなっていた。
アルビオンのバックパックの閃光がさらに伸びた。アイナの体が軋みながらどんどん崖にめり込んでいく。
「まだ口がある」
アイナは頚を伸ばすと大きくアゴを開き反動をつけアルビオンの頚に噛み付いた。
白い液体がアイナの口に勢いよく噴出し、そして流れ落ち体を濡らした。
「この液体がお前の弱点だろう」
アイナはこれでアルビオンの力が抜け解放されると思った。しかしその予想は大きく外れた。
アルビオンのバックパックの噴射はさらに勢いを増し、張り付いたままアイナをいっそう崖に押し込んだ。VN-2082の苦痛がアイナにも伝わる。
「まだやるのか。しかし、この液体の噴出が止まればそれも終わりだろう?」
アイナの口を伝う白い液体の量が徐々に減ってきていた。左腕に力を入れる。
「あと少しで動く・・・」
アルビオンのバックパックから放つ光が大きく伸びる。それに伴って噴射口が溶け、バックパック全体の色が徐々に白くなっていく。
「オーバーロードしている。爆発するぞ。自ら死ぬ気か?!」
めり込んだ崖の中で、アイナは抜け出そうと抵抗を繰り返す。
すると、アイナの左腕を押さえていたアルビオンの右腕が急にだらんと垂れ下がった。
「動いた。今度こそ、終わりだぁ!」
アイナは左腕に力を込めた。
「な、なんだ」
アイナはその時、コクピットから溢れる何かを感じた。それは、振り下ろそうとする左腕を一瞬躊躇させた。
「おまえは・・・」
次にアイナが目にしたのは、アルビオンのバックパックが放つ目が眩むほどの閃光だった。
『ユーリ、隊長を戻せ!』
アスの叫ぶ声が聞こえた。
それと同時に、アイナはコクピットに戻されていた。
アスの指示がなければ、アイナは消滅するVN-2082の中で再びあの苦痛の衝撃を感じ、そのまま気を失っていたかもしれなかった。
「なんだったのだ、今のは・・・」
アイナはアルビオンから発した不思議な感覚を思い出し、コクピットから出ることを忘れていた。
西暦2729年7月 地球統合本部中央研究所観測室
「今、確かに波が出た」
暗い観測室でモニターを見つめていたマシスが思わず声を出した。
すぐに保存された記録の時間を遡り再生させる。
モニターには小さな波形が細かな周期で続く。そこに突然倍ほどに振れる波が一瞬現れた。
「今までの変化は周波数の違いだった。今回のは違う。一瞬だったけど、強くなった」
マシスは再び同じ箇所を再生させた。何度も何度も繰り返す。
「今までとは違う何かが動いた・・・」
マシスは、過去に行ったアイナたちを想った。
先のことも、元の時代の状況もわからないまま、ただ任務を行うのはどれだけ不安だろう。
考えれば考えるほど、マシスは自分がやってきたことの無責任さ、残酷さを感じた。




