ショートケーキ
2085-05-05 ヴァリアブルシップ 食堂
居住区画につながる小さな食堂で、アイナはイチゴショートケーキを食べながらコーヒーを飲んでいた。
ここのところVN-2082に際立った動きはなく、インサートするようなことは全くなかった。そのためパイロットスーツではなくスウェットのボトムにタンクトップのようなリラックスした服装で過ごすことが多かった。
そこへアスが入ってきた。
「あれ、隊長がケーキを食べてるなんて珍しいですね」
「時々甘いものが食べたくなるんだ。どうせわたしには似合わないと思っているのだろ」
アイナはそう言いながらフォークに刺さったケーキを頬張った。
「そんなこと思っていないですよ。あ、コーヒーいただきます」
アイナは自分がコーヒーを飲むときはいつも決まって他の3人分もドリップしていた。
「他の二人は?」
「ユーリが例のスミレ・・・だっけ、にインサートしてるので、シロウはそのオペレーターしてます」
アスは自分のカップにコーヒーを注ぐとアイナに向かい合うように座った。
「この任務に志願した時は、食事なんてレーションばかりなんだろうな、なんて思っていたんですけど、メディカルチェックに怒られなければほぼ好きなものが食べられるなんて、待遇がいいですよね」
「膨大な予算と莫大な資源が投入された船だからな。そんなことでもなければ、こんな閉鎖された空間であてもなく生活はできないだろう。最もメディカルカプセルの恩恵が大きいのだろうけど」
アイナは姿勢を変えるように椅子に座り直した。
すると、体にピタリとしたアイナのタンクトップが胸の膨らみを際立たせた。
アスは、ストレスだけでなく無駄な性欲も消してくれるメディカルカプセルの効果をありがたいと思った。
ケーキを食べ終わったアイナは満足そうな表情をしている。アスにとって、そんな表情を見るのは久しぶりのことだった。きっとVN-2082が眠りについたことにより、それに伴う緊張から解放されているからだろう。
『奴らがずっと眠ったままならいいのに・・・』
そう思いながら、アスはアイナから視線を逸らした。
「VN-2082が眠ったままだといいのにな。そして、干渉の変化が現れてくれるといいのだが・・・」
自分の思っていたことがアイナの口から突然出たことにアスは驚いた。しかし、アイナはそんなアスの驚きに気づく様子もなく話を続けた。
「けど、変化が出ない限り、わたしたちは戻ることができない」
「本当に、変化は出ていないのでしょうか?」
アイナはアスの言葉の意味がわからず首を傾げながら視線を向けた。アスは続けた。
「変化が出ているのに、何かのトラブルで紐を手繰り寄せることができないとか、もしくはすでに人類が滅んでしまったとか」
ああ、そう言うことかとアイナは思った。
「2、3年で人類が滅ぶことはないと思うが、あまりにも効果の現れないことにもう忘れられてしまっているかもしれないな」
アイナは笑った。
「そんな・・・」
「もし、そうなら、どうする?」
アイナは意地悪な目を向けた。
「そうなら、ここから出ます」
「そう言えば、ここから出るとどうなるのだろうな」
二人とも腕を組むと天井を見上げながら考えた。
「ひょっとしたら、外にはお花畑が広がっているかもしれませんよ」
アスが無邪気な表情で言った。
「めでたいな」
アイナが呆れた表情でアスを見た。
「なんであれ、そこで4人で生活するってのはどうです。あ、そうだ。ひょっとして、もしもの時のために男女混成だったのかも」
アスの想像力にアイナは唖然とし、そして笑った。しかしすぐに表情を固くしアスから視線を逸らした。
「もしもそうなったら、わたしにはその資格はない。遠慮するよ」
「え?それは・・・」
そのとき急にドアが開いた。
「・・・、まさかあんなにも綺麗な夕日が観れるとは思いませんでした。あのパネルがなかったらもっと良かったのに」
「あんなにも山を削らなくてもいいのにな」
ユーリとシロウの声がアスの質問を遮っていた。
「あ、アイナ隊長ケーキ食べてる」
入ってきたユーリが目敏くアイナのケーキを見つけた。
「分子生成プラント産とは思えないほど美味しいぞ」
アイナは表情を緩めユーリに応えた。
「あたしも食べます」
ユーリは食堂の奥にあるプラントルームへ軽くスキップをしながら入っていった。
「どうした?何かあったのか?」
シロウがぼんやりしているアスに声をかけた。
「あ、いや。なんでもない」
アスは慌ててコーヒーカップを取ると、口に運び一気に飲んだ。




