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隊長


 2084-10-06 ヴァリアブルシップ メインルーム


 「それでは、始めようか」

 今までとは違って重苦しい雰囲気の中、先日のキュウシュウでの戦闘に関する検討会が始まった。

 いつもはパイロットスーツで集合していたが、今日は皆、上下スウェット姿だった。

 「まず、現在のVN-2082の状況ですが・・・」

 ユーリが大型モニターにキュウシュウの地図を表示した。

 「ご覧の通り、マーカーが全て消失しています」

 「全滅か。使われたのはやはり核か」

 アイナが険しい表情で言った。

 「はい。半減期がごく短時間のもののようで放射能の残留は問題ないですが、それでも成れの果て物質はかなり発生すると思われます」

 「巣の中にいても閃光が見えた。かなり深くで爆発させたのだろうな」

 その時シロウは、巣の深くにいる個体に入っていた。

 「戦闘の解析に移ろう」

 アイナは大きくため息をつくと話題を変えた。

 「はい。ではまず、初めて出現した再構築個体です」

 ユーリは壁の大型モニターに、アスやシロウの視覚データからモデリングされた特殊個体を映した。それはアイナがインサートを行ったVN-2082だった。

 「再構築の発現した特殊個体は、通常個体に比べひと回りほど体格が大きくなっています。また、それに合わせて前肢後肢の筋肉量も上がっていると思われます。それと、外観の大きな特徴として、背中の被毛が銀色に輝いています。ただ、まだ1体しか確認できていませんので、これが全て特殊個体を表す特徴と断言はできません」

 ユーリはモニターの特殊個体を回転させ背の色が見えるようにした。

 「動いていると大きさからは判断しづらいですが、この背中の特徴が特殊個体のものだとすると識別しやすいですね」

 アスは特殊個体を初めて視界に捉えた時のことを思い浮かべていた。

 「隊長が実際に入ってみて・・・」

 アスは特殊個体への意識挿入のことを聞こうとしたが、アイナの状態を思い途中で言葉を止めた。

 「入ってみた感想か?」

 アイナは気にもせずアスを見た。

 そして、どのように表現すべきか少し考えた後、話を始めた。

 「意識の挿入は、考えた以上に気持ちの悪いものだった。VN-2082の中に自分が入っていくのか、それともVN-2082が入り込んできているのか・・・。吐き気を抑えるのが大変だったな」

 アイナはそこで表情を固くした。

 「それよりも、VN-2082からフィードバックされる感覚の方がキツかった。特に死ぬときは・・・」

 アイナの話に、アスもシロウも、そしてユーリも顔を歪めた。

 「まぁ、それぞれ個人差もあるだろうから、あくまでもわたしの感じたことだ。気にしなくていい」

 アイナは笑いながら軽く言ったが、3人はコクピットの中で顔を苦痛に歪めながら気を失っていたアイナの姿を思い浮かべ、とても気にしなくていいものだとは思えなかった。

 「戦闘シーンを出してくれ」

 アイナが再び話題を変えると、ユーリは慌てて映像を変えた。

 モニターに視覚データからモデリングされた新型アルビオンとアイナの再構築個体との戦闘映像が流れ始めた。

 アイナにとって自分の戦闘記録だが、こうして俯瞰するのは初めてだった。

 特殊個体がジャンプし爪を振り下ろす。それをかわしながら刀を振るうアルビオン。さらに刀を避け爪の攻撃を仕掛ける特殊個体。

 「なんて速さだ」

 シロウが驚きの声を出した。

 「この動きは、隊長のコントロール下にあるからですか?」

 アスも驚きの表情をアイナに向けた。

 「VN-2082の反応は良いように感じたが・・・」

 アイナは答えに困りユーリを見た。

 ユーリは少し考えたのち、『おそらくですが』と付け加え話し出した。

 「特殊個体は筋肉量などが上がっていることから、通常個体に比べその運動性能はかなり上昇していると考えられます。これは基礎能力ですので、隊長のコントロール下にあるなしにかかわらず戦闘能力が上がっているものと思われます。もっとも、仮にあたしがこの特殊個体に入っても、隊長のような動きはできませんけど」

 「再構築の発現が、何かしらVN-2082の能力に影響を与えたと思っていいか?」

 「はい。再構築は新たな神経ネットワークを作ります。神経はあらゆる器官に影響を与えます。通常個体から進化したようなものと言っていいでしょう」

 ユーリの説明に納得した3人は、新型アビリオンの出現によっていとも簡単に劣勢に追い込まれたこの状況が、再構築個体によって再び戦況を変えることができるのではないかと思った。

 しかし、これ以上戦闘を続ける意味があるのかと言う疑問が湧いているのも確かだった。

 今回の戦いで、VN-2082がどれだけ劣勢となったところで、地表にはほんのわずかな人類しか残っていない。これ以上干渉を行ったところで、もう大きな変化は望めないのではないのか。

 全員がおそらく同じことを考えていたのだろう。

 しばらく静寂が続いた。

 「これ、いつまで続ければいいのでしょう・・・」

 突然、ユーリが思っていた疑問を投げかけた。

 それは、みんなの気持ちを代弁していると言ってもよかった。

 そして、何か溜まっていたものが流れ出すように話を続けた。

 「ここで人類全てを滅ぼしたところで、長い時間軸からすればほんの一瞬だって聞きましたけど、あたしにはその一瞬が些細なこととは思えません。とても大きなことをしてしまったと感じます。人類の大半がいなくなった今、これ以上戦う意味はあるのでしょうか」

 ユーリは悲しそうな表情になった。

 「自分も十分に干渉を行ったように思います。それによって、すでに未来は変化しているのではないでしょうか。けど、我々を引き寄せる紐の反応は全くありません。ひょっとして、我々がここで戦っている間に人類はすでに滅んでしまったのではないかと思えてしまいます」

 シロウは、悲しそうな表情のままのユーリを見ていた。

 作戦が成功すれば、その時点でVN-2082を強制終了することとなる。万が一、VN-2082が暴走するようなことがあった時も同様の処置が取れる。しかし、その権限はアイナたちにはなく、またヴァリアブルシップからは不可能だった。

 「隊長の考えを聞かせてください」

 アスはアイナの考えを聞くために、姿勢を正すようにシートに座り直した。

 アイナはしばらく視線を下げていたが、やがて考えがまとまると3人に視線を移し口を開いた。

 「今回、記録にないタイプのアルビオンがこのニホンで投入された。わたしたち同様、奴らも生き残るために必死に足掻いているのだろう・・・。人類が地上に現れた大昔、人類は人類の生存を脅かす多くの生物に囲まれた環境で必死に生き、子孫を残してきた。やがて人類は大きな力を持ち、地球の頂点に立ち、繁栄を続けた」

 アイナは壁のモニターを見た。そこには再構築個体と新型アルビオンとの戦闘映像が流れ続けていた。

 「いつしか、人類のおごりともいえる行動が地球を蝕み始めた。しかし、人々はそれに気づく事はなかった。なぜなら、人の一生は、地球の歴史から見たらほんの一瞬だ。そのほんの一瞬に存在する人々が遠い未来のことなんて考えるだろうか。想像できるだろうか。結局、今が良ければそれでいいのだ。そんなこの時代にわたしたちはやってきたのだ」

 アイナの特殊個体がアルビオンに覆いかぶさるように右腕を振り下ろした。アルビオンはその攻撃を避けると刀をアイナに突き刺し、アイナを消滅させた。

 「人類の数は、この時代の人々にすれば絶望すぎるくらいに減っただろう。しかし、数はすぐに増える。問題は数ではないのだ」

 モニターの映像が再び戻り、アイナがアルビオンに向かってジャンプした。

 「大切なのは、人類が消滅する、いや地球自体がなくなるかもしれないと言う危機感を持つ事だ。VN-2082の出現で、人は自分たちが滅びるかもしれないという恐怖を知ったのではないか。安穏に続く暮らしの中で、やっと気付き始めたのではないか」

 アイナは3人を見た。

 「わたしは、口先だけで何もして来なかった人々がそのことに気付くまで、根付かせるまで、戦闘を続けるつもりだ」

 アスは、アイナのその言葉の中にはやはり大きな怒りがあるのだと思った。

 「・・・これが、わたしの考えだ。さぁ、今度は君たちの番だ。みんなの考えも正直に言ってくれ。ユーリ、どうだ」

 ユーリは真っ先にふられたことに一瞬戸惑ったが、すでに考えはまとまっているようですぐに話し始めた。

 「あたしは大学で、海に棲む生物の研究をしていました。汚染された海に今でも生物がいるのかって思われるかもしれませんが、結構いるんですよ」

 ユーリはそこで笑うと、話を続けた。

 「ちょー酸性とかそんな過酷な環境にもうまく適合して暮らしているんです。猛毒の成れの果て物質でさえ受け入れて。そー言うのを見てると、ひょっとしたらこのあと人類もこの過酷な環境に適応していくんじゃないかなぁなんて思えるんです。けど、それにはゆっくりとした膨大な時間がかかります。だとすると、急激な干渉はそれを妨げてしまうのではないかと。とは言え、自然の進化に身を任せないのが人類が進んできた力なのかもと考えると、干渉も否定できません。正直、わたしにはこの後どうしたらいいのかわかりません」

 ユーリは自分の考えを話せたことで、満足した表情をアイナに見せた。

 「自分も、ユーリと同じようなことを思っていました」

 話し出したのはシロウだった。アイナはシロウに視線を移すと、考えを聞く体制に入った。

 「自分はあちこちで野宿するのが趣味でしたので、いろいろなところに行きました。そしてその都度、変わり果てた地球の姿を見てきました。そんな悲しい姿を元に戻したいと思い、この作戦に志願しました。今、ユーリの話を聞いて、そんな環境下でも生きている小さな生物のことを思い出しました。適応して生きているんですね。生物は変わり続けながらその命を繋いでいくものなのです」

 シロウはユーリを見た。ユーリは優しく笑い返した。

 「けど、実際に作戦に参加して思ったのは、これほどの干渉の仕方はやはり我々の、人類のおごりなのではないかと。我々は十分干渉しました。もうこれでいいのではないでしょうか」

 そこまで言って、シロウはアイナに軽く頭を下げた。

 そして最後にアスが話を始めた。

 「自分も十分に干渉したと思います。作戦を考えたら、完遂と言ってもいいでしょう。ここ数ヶ月、過酷な状況の中で気を張り詰めよく頑張ってきたと思います。そろそろ、気持ちを休めて状況の観察だけでいいのではないかと考えます」

 『・・・反対の意見がふたつ。保留がひとつ。これで決まったな・・・』

 アイナは始めから多数決の意見に従うつもりだった。ところが、アスはさらに話を続けた。

 「しかし、この船の隊長は、アイナ・ウメハラです。自分は隊長の考えに従います」

 「自分も同じです。自分の考えを聞いていただけたのでそれで十分です。隊長に従います」

 「え~。あたしだってそうです。最後に言おうとしてたのに」

 シロウの後、ユーリが慌てて言った。

 「相手が気付くかどうかわかりませんが、気付かせなくてはいけないと言うことには賛成です。作戦を続けましょう」

 アスの言葉に、シロウもユーリも大きくうなずいた。

 「ありがとう・・・」

 アイナはこの辺りが作戦の潮時かと考えていた。作戦継続に反対されれば素直にそれを受け入れるつもりでいた。しかし、だからと言って心の中の怒りが簡単に治るものではないと感じていた。

 今はそんな自分のわがままにでもついてきてくれるみんなに感謝するしかなかった。

 「作戦を継続する」

 そう言った後、アイナは表情を緩めるとみんなを見た。

 「今日はもう休日にしよう。夕食はいつもより豪華なもので」

 思わぬ言葉に、3人は歓声を上げた。




 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 第1部終了です。

 もうお気付きの方もおられるかと思いますが、この物語は『SHIRASE 捕食者を狩るもの』を別視点で書いたものです。

 そんなわけで、次の準備が整い次第、また投稿を始めます。

 よろしくお願いいたします。 Kei



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毎日の更新、お疲れ様でした。 楽しく読ませていただきました。 第2部も楽しみにしてます。
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