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出会い


 2084-10-04 ヴァリアブルシップ メインルーム 


 数時間前からキュウシュウでのVN-2082の動きが急に活発となり、アイナたちはインサートによって何が起こったのか観察を行っていた。

 『地表にアルビオンタイプ多数。さらに空中の大型輸送機から次々と降下しています』

 『こちらでも確認しました。以前と形状が少し異なります』

 『動きが良くなっている。かなり手を加えたな』

 『やられた。頼む』

 「続けてインサートします」

 3人が意識挿入したVN-2082は新しいアルビオンの集団に何度も消された。しかし、またすぐに挿入を繰り返し状況の観察を続けた。

 「アルビオンタイプは巣の周囲を囲むように攻め込んでいます」

 『また、核を使うつもりか。懲りない奴らだ』

 アイナの舌打ちが聞こえた。

 アルビオンの侵攻状況を見ていたユーリが、モニター上の変化に気付いた。

 「紫確認。再構築個体です」

 VN-2082の巣を示す位置には今までの赤とは異なる紫色のマーカーがはっきりと現れていた。紫色は再構築が発現した個体の識別マーカーだ。

 『ユーリ、わたしを戻してくれ。アスとシロウは引き続き観察を続けろ』

 『了解』

 『わかりました』

 「アイナ、エクストラクト」

 すぐにC・コクピットのハッチの開く音がするとアイナが飛び出し、大型モニターの紫色のマーカーを確認しながらユーリに近寄った。

 「入れそうか」

 「今ターゲットスキャンしています。再構築個体が最優先されるので、出来るはずです」

 「なんだ、これは。物凄い速さでマーカーが減っているじゃないか」

 アイナはモニターに映る赤色のマーカーが、巣の周囲で次々と消えていくことに気づいた。

 「アス、シロウ。マーカーが急速に消滅している。何かわかるか」

 『こちらでは、確認できません』

 アスの挿入個体は巣から遠く、その様子を見ることはできなかった。

 『見えます。これは、新型? 凄まじいスピードでVN-2082を消しています』

 シロウが確認した直後、その個体も消滅した。

 『こちらアス。確認しました。あっ』

 アスもシロウも挿入個体を失いながらも、次々と再挿入を繰り返した。

 「再構築個体、ターゲット固定されました。インサート可能です。現在、巣から地上へ向かっています」

 「地上に出たところで入れてくれ」

 アイナは大きく深呼吸をすると、そのままC・コクピットへと向かった。

 再構築個体への意識挿入とはどんなものなのか。訪れが突然過ぎたその時に、アイナは不安を感じる時間すらないことに安心した。

 「再構築個体、地表に出ました」

 『入れてくれ』

 「アイナ、インサート」

 アイナの意識は今までと同様にC・コクピットを飛び出した。そして今までと同じ感覚でVN-2082に挿入された。

 『くっ、な、なんだこの感じは・・・』


 アイナは粘度の高い泥の中に全身が埋もれていくような感覚の中にいた。

 徐々に息苦しくなり、動かない体は泥の中で広がり溶けてゆく。

 自分がなくなってしまうかと思えるような希薄な感覚。

 すると希薄な中に何かが無理やり押し入るように入り込んできた。

 それは感覚を弄ぶような不快な波となり、何度も何度も押し寄せる。

 不快は頂点と達し、胃が収縮する。

 噴き出すものを必死で抑えた。

 もう、やめてくれ。

 懇願したところで不快な波が収まることはない。

 止まらない不快な波を回避するために、自己防衛により徐々に意識が薄れていく。

 だめだ。負けては自分でなくなる。

 アイナは意識を必死で繋いだ。

 耐える時間。とてつもなく長い時間。しかしそれは一瞬のことだった。

 不快がなくなるのではなく、アイナ自身がその不快に慣れた時、突然視界が開いた。


 アイナは視線を左右に振った。

 「見える」

 しかし、視線は低い。アイナが意識挿入を行った個体は地面に伏し動きを止めていた。

 「壁を登っている途中だったら落ちていたな」

 アイナは大きく息を吸い込むと体に力を入れた。

 重さを感じた。

 大きさを感じた。

 被毛に伝わる外界を感じた。

 「動け!」

 アイナの言葉に反応するように、VN-2082が姿勢を上げた。

 「よし。アンダーコントロール。VN-2082を手に入れた」

 VN-2082をコントロール下においたアイナは、地面を蹴る感覚を自分のもののように感じながら体を走らせた。

 すぐに前方にVN-2082の集団が見えた。

 突然その集団を凄まじい速さで切ってゆくアルビオンが視界に入る。

 「刀を使っているのか」

 右から左からVN-2082が、続けざまに覆いかぶさるようにアルビオンに爪を振り下ろす。

 しかし、軽く躱しながらその動作の途中でふるう刀は、軽々とVN-2082の体を切り裂いていく。

 背後からVN-2082が襲い掛かる。アルビオンは刀を逆手に持つとそのまま後ろを振り向かず突き刺した。すぐに刀を持ち直し左から迫るVN-2082に振り下ろすと、そのままジャンプし右のVN-2082の背後に着地し横一文字に背を切り裂いた。地面を蹴り再びジャンプしそのままスライディング。滑るように次のVN-2082に迫ると下から切り上げるように切断し、さらに正面と左右から被さってきたVN-2082に大きく刀を振り回し、3体を一気に仕留めた。

 アルビオンの動きに、アイナはただならぬ恐怖を感じた。

 「VN-2082を狩っている・・・」

 アルビオンはこの狩りを楽しんでいるように見えた。

 アスが、アイナの近くの個体に入った。

 『これが隊長の個体ですか。大きく、それに背が光ってる?』

 アイナからはアスの個体の区別が出来なかったが、アスは明らかに通常個体とは異なる姿を確認していた。

 『上空に待機している輸送機確認』

 シロウからの連絡にアイナは空を見上げた。

 「核か・・・」

 目の前のアルビオンは、1機だというのに確実にVN-2082の数を減らし続けている。このままでは核の爆発を防ぐことが出来なくなる。

 「やってみる!」

 アイナは大きくジャンプすると、前面に残っていたVN-2082の集団を飛び越え前に出た。

 着地すると、目の前にVN-2082の腹を突き刺したアルビオンの姿があった。

 アイナとアルビオンの目が合う。

 アルビオンは周囲と異なるアイナを認識した様子だった。

 「いけ!」

 アイナは体を細かく左右にジャンプさせながらアルビオンに迫った。

 右腕を振り上げ、加速し向かってくるアルビオンに攻撃を仕掛ける。

 「外した」

 アイナの攻撃をアルビオンはスライディングでかわし、代わりに刀を振り下ろしていた。

 激しいGを感じ、凄まじいスピードで視界が流れる。体が横に押しつぶされたような感覚。

 「避けたぞ」

 瞬時にアルビオンの刀をかわしたVN-2082の動きに、アイナは驚きを感じるとともに体に伝わる衝撃の強さに不安を感じた。

 「視界だけの時とは全く違う。しかし、だからこそ・・・」

 アイナはジャンプすると、アルビオンに向かって爪を振り下ろした。

 「こちらの動きも早いが、奴の動きも早い」

 またもアルビオンはアイナの攻撃をかわしていた。

 「しかし、最初に見た時よりも動きが鈍っているぞ。機体の限界か」

 アイナはアルビオンの動きの変化に気付いていた。しかし、それでもアルビオンの刀は素早い動きでアイナを狙ってきた。

 下段から刀を切り上げる。

 「遅い!」

 アイナは刀を避けると、腕を振り下ろした。

 爪がアルビオンの装甲をかすめる。

 当たった感触をアイナは確実に感じ取った。

 「この感覚・・・。つまり、コントロール下に置くということは、こういうことなんだ」

 姿勢を立て直すように、お互いがジャンプし離れた。

 その時、一瞬アルビオンの動きが止まり、アイナの爪がかすめた装甲を見た。

 「な、なんだ?!」

 突然アルビオンから湧き上がる強い波動をアイナは感じた。

 「これは・・・、怒りだ」

 アルビオンから発する怒りの波動はその強さを増し、アイナの意識を大きく揺さぶった。

 「そ、そうだろう。お前だって怒りのために戦ってるのだろう。憎いか? 人類を次々と消していくこの醜い生き物が憎いか!」

 アイナは姿勢を下げ力を込めた。

 「けど、お前が怒りをぶつけるのはわたしじゃない!」

 目の前に、怒りの渦の中で最大加速で迫るアルビオンが映った。

 「怒っているのは被害者であるわたしたちだ。その怒りは自分自身に向けろ!」

 アイナはアルビオンに覆いかぶさるように飛びかかった。大地を蹴った衝撃がアイナを包む。

 「なんだ、避けないのか」

 こちらの攻撃をかわすと予想したアイナは一瞬戸惑ったが、すぐに爪を振り下ろした。そのまま突っ込むアルビオンが、倒れ込みながらアイナに向かって足を振る。

 「足癖の悪い奴!」

 キックをかわされ仰向けに倒れたアルビオンに、アイナは右腕を力一杯振り下ろした。

 「ここがコクピットだろ! 死ね!」

 バシッ

 アイナの右腕に衝撃が伝わる。

 振り下ろしたアイナの爪はアルビオンの左腕によって防がれ、コクピットを貫けぬまま地面に突き刺さった。

 その直後、アイナの脳に強い衝撃が走った。そしてそれは通常の経路とは逆に腹部に伝わり一撃を与えると、すぐにまた脳に戻り今までに経験したことのないような強く大きな痛みとしてアイナに認識させた。

 「!!」

 その痛みの認識は、耐えがたい苦痛としてアイナの精神と肉体に襲いかかる。

 C・コクピットの中のアイナの体が大ききくのけぞった。

 胃の内容物が噴き出すような感覚。いや、体の中のもの全てが噴出するのではないかと思えた。

 VN-2082の巨体から有無を言わさず伝わる苦痛は、小さな体のアイナにはあまりに大きすぎた。

 VN-2082を支配下に置いたときに感じたアイナの不安はこれだった。自由に動かすことの代償としてのVN-2082からのフィードバック。それは想像を絶するものだった。

 崩壊寸前で、生体防御である脳のブレーカーが作動する。

 そして、アイナは意識を失った。


 『隊長の個体が消えた』

 『やられた。次、入れてくれ!』

 『ダメだ。どんどんやられていく』

 『あいつには敵わない。巣の周囲は全滅だ』


 アイナのC・コクピット内にアスたちの悲痛な会話が流れる。


 『隊長はどうした』

 『戻っているはずですが、応答がありません』

 『あ、何か投下された。核か』

 『巣の中の個体に入った。上か?閃光確認。巣がやられる。もう無理だ。戻してくれ』

 『こっちももういい。戻せ』

 『隊長はまだ出てこないのか?』

 『反応ありません』

 『コクピットのハッチを強制解除しろ』

 『信号送ります。開きます』


 慌ただしいメインルームのモニターから、VN-2082のマーカーは完全に消滅していた。





 西暦2728年10月 地球統合本部中央研究所観測室


 モニターの波形を観察していたカオリ・マシス主任研究員は、いつもとは異なる波のわずかな変化に気付いた。

 「波の周波数が変わった・・・。何があったのだろう」

 マシスは、過去の世界で起こっていることを想像してみた。しかし、いくら考えてもそれは出来る筈もなかった。




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