表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/55

ニホン


 西暦2728年8月 地球統合本部中央研究所観測室


 減光され薄暗い観測室で、主任研究員カオリ・マシスはモニターに流れる横のラインをじっと見つめていた。

 後ろでドアの開く音がし、足音が近づいてきた。

 マシスがゆっくりと振り返ると、所長のノーリス・ノジマと目が合った。

 「その後の波の様子はどうだ?」

 「はい。かなり微弱ですが、継続しています」

 ノジマはマシスの横のシートに座ると、モニターを注視した。

 「このスケールだと、やはりわたしには分からないな」

 「あ、すみません」

 マシスは慌ててモニターの表示スケールを拡大した。

 「これでも、かろうじてわかる程度か」

 最大にしたスケールでもラインの動きは小さかった。

 「去年の12月に観測してから、一時は発現と消失を繰り返していた波が、8月に入ってからはずっと継続しています。何かしら変化が出ているのではないでしょうか」

 「確かに、これだけ継続するものは単なる気まぐれではないだろうな。しかし、この程度では、目に見える変化の発現にはほど遠い」

 マシスはノジマのため息を聞いたような気がした。

 「彼女らは今も任務を続けているのでしょうか」

 マシスはモニターからノジマに顔を向けた。


 ヴァリアブルシップを送り出してから、既に1年以上が経っていた。

 当初、遅くとも1年もすれば、過去に干渉した変化がこの時代に現れるのではないかと考えられていた。ところが変化は生じず、そればかりか変化の前段階である時間の波すら曖昧なものでしかなかった。

 1年前は、シヴァル計画の成功を取り上げるマスコミの報道に、人々は大きく期待しその時を待ち続けた。しかし、成果の発表が全くなされないことでマスコミの報道も減り、今ではその話題を見ることはなくなっていた。

 一向に進展がないことに痺れを切らした一部の市民が統合本部前で抗議を行ったことがあった。しかし、それもほんの一時のことだった。

 抗議を行ったところで、どうにもならないことがわかっていたのだ。

 諦めに近い気持ち。シヴァル計画そのものが夢物語だと感じていたのだ。

 もう、この世界を救う事はできない、と。


 「きっと、頑張っている」

 ノジマの目は、彼女たちを、いや自分自身を信じているように力強かった。

 「・・・はい」

 マシスはノジマの言葉に自分の思いを恥じた。


 『変わると信じなければ、彼女たちが戻ってきた時に顔向けできない』





 2084-09-20 ヴァリアブルシップ メインルーム


 オーストラリアでの出現とほぼ同時にニホンに現れたVN-2082のマーカーは、1ヶ月ほど前からその数を急激に増やしていた。

 それが10日ほど前、ついに地上に出ると急速に広く拡散していった。

 少し前にメディカルカプセルから出てきたアイナたち4人は、それぞれの席でリラックスした様子でコーヒーを飲んでいた。

 「では、そろそろ始めようか。ユーリ、いいかな」

 ユーリがモニターにVN-2082の表示がある地図を映した。

 「では、ここ数日のVN-2082の行動を共有したいと思います。地図はニホン。当時、キュウシュウと言われていたやや大きめの島です」

 1~2日前からVN-2082の動きは落ち着いてきており、キュウシュウ全域に広がると同時に地上を一気に壊滅させたと思われた。

 その後、過去の例と同様に巣に戻りそのまま繁殖行動に移ると考えられた。しかし、やや行動が思っていたものと異なったためにユーリが急遽気になった動きをまとめたのだった。

 「アメリカ、オーストラリアなどで発生したVN-2082と比べ日本での発生数は少なめですが、キュウシュウの面積から考えるとその全域を覆うには十分だったと思われます。その後、1個体が日本で最も大きなホンシュウと言われていた島へと移動を開始しました」

 モニターは他のマーカーから離れて移動する一つのマーカーの動きの表示に変わった。

 「この間には海があり、過去の例ではVN-2082は海を渡れないので、おそらくトンネルか何かがあったと思われます。興味深いのは、この個体は戦闘を一切行わずに移動しているということです」

 「過去の例では地上を壊滅させた後には巣に戻り活動を停止していたな。インサートができればよかったのだが、何か目的でもあるのだろうか」

 アイナは手に持っていたコーヒーカップを置くと、考え込むように腕を組んだ。

 「なんとも言えませんが、ひょっとしたら生殖個体かもしれません」

 ユーリの言葉に皆がハッとした表情を浮かべた。

 「その後、この個体は本州の中央あたりに進んだところで動きが鈍りました。するとキュウシュウからホンシュウに向かう新たな集団が見られ、一部は実際にホンシュウに入りました」

 「一部は、というと?」

 アイナがユーリの言い方に疑問を持った。

 「追っていた集団がキュウシュウ側で何かに引っ掛かったように動きを止めました。おそらくなんらかの理由でトンネルが使えなくなったのではないかと」

 「渡った集団は今でも先の個体を追っているのか?」

 「おそらく。かなりゆっくりとした動きですが、本州中央に向かっています」

 「ミツバチが巣分けでこのような行動をとると聞いたことがあったが、あとの集団が続かないとなると繁殖にも影響が出るかもしれないな」

 「はい。それは十分に考えられます」

 今までのVN-2082の攻撃により、地上はほぼ壊滅状態と考えられた。ここで繁殖数が変わったところでもうあまり影響はないのではないかとアイナは思った。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ