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アルビオン


 2083-12-24 ヴァリアブルシップ メインルーム


 オーストラリアの砂漠地帯に現れたVN-2082は、その勢力を大きく広げオーストラリア全体に及んでいた。

 他の大陸同様、この地からの人類の消滅も時間の問題だと思われた。

 数時間前にその様子を確認しC・コクピットから出た3人は、それぞれの自室でしばしの休息を取っていたが、ユーリの緊急召集によって呼び出されてしまっていた。

 メインルームに集まったアイナ、アス、そしてシロウは、ユーリが指摘したモニター上のVN-2082の動きを注視していた。

 「ここ、戻しますね」

 ユーリはそう言いながらモニターの表示の時間を数秒間巻き戻し、再び再生させた。

 モニターには沢山のマーカーが動き回っていた。するとその中のいくつかが急に消えた。

 「消えたな」

 それは明らかな変化だった。

 「マーカーが消えたと言うことは、死んだ、と言うことか?」

 シロウがモニターを見たまま言った。

 モニターがリアルタイムの表示になった。 

 「あ、消滅が勢いを増しています」

 モニター上からマーカーがさらに激しく消滅していくのがリアルタイムでもはっきりと確認できた。

 「今まで、消えるなんてことはなかった。明らかに異常だ」

 アイナは髪を束ねると、胸まで下ろしていたパイロットスーツのファスナーをあげた。

 「また、見学だが、状況を確認する」

 「了解」

 3人はC・コクピットへ乗り込んだ。

 「スキャン開始・・・。インサート」

 ユーリの声で3人の意識はVN-2082へと挿入された。


 『な、なんだ』

 シロウの驚きの声を聞いたユーリがモニターを見ると、シロウの意識が挿入された個体のマーカーが消失していた。

 『こっちもだ。入った途端に意識が戻された』

 『これか。VN-2082がやられている。人類が新しい兵器を導入した。人型の兵器だ』 

 アイナが驚きの声を出した。

 VN-2082はその機敏な動きから、その時代の通常兵器は全て無効だと思われていた。しかし、それがいとも簡単にやられるとはいったいどんな兵器なのか。アスもシロウもアイナの言葉が信じられなかった。

 『これは、初期型のバイオマシン 、アルビオンだ』

 『すぐに送ってくれ!』

 「了解」

 『オレもこのまま送ってくれ』

 「スキャン完了。アス、シロウ、インサート」

 アスとシロウは、アイナの言葉では信じられないその状況を確認するために再び飛んで行った。



 アイナは目の前に映る今までとは全く異なる光景を瞬きをする事なく見つめていた。

 過去の記録でしか見たことのない人型兵器アルビオンは、VN-2082とほぼ同じ大きさで戦車などとは比べ物にならないほど俊敏な動きをしていた。

 VN-2082の振り下ろす巨大な爪の攻撃を避けたかと思うと、すかさずライフルを向けその姿を霧のように消していった。

 『アイナ隊長、こちらでも確認しました。どこにこんな兵器を隠していたんでしょう』

 『あれだけ優勢だったVN-2082が次々とやられていきます』

 アスもシロウも信じられなかったアイナの言葉を現実として捉えた。

 『やられた! 送ってくれ!』

 「はい。送ります。アイナ、インサート 」

 C・コクピットに戻されたアイナの意識はすぐに別の個体へと挿入された。

 『記録によると、アルビオンの実戦投入はもっと後のはずだが。人型兵器のデータを取る。ユーリ、いいな』

 「はい。全て記録しています」

 『くそ。やられた』

 『大丈夫だ。焦るな。VN-2082が必ず勝つ』

 『え?!』

 『記録をとれ。戻されてもすぐに送り込め。二人ともいいな』

 『了解!』

 「スキャン。アス、インサート」

 3人の意識は何度も送り返されながらも、すぐにまた飛び出していった。

 




 西暦2727年12月 地球統合本部本部長室


 本部長室の応接セットで、オオカワとノジマがテーブルを挟んで座っていた。

 秘書がテーブルにコーヒーを置くと、すぐに下がっていった。

 「まだ、具体的な変化が観測されたわけではないのですが・・・」

 秘書がいなくなったことを確認すると、ノジマはシートから背を起こし、小さな声で話し始めた。

 「弱いタイムウェーブが観測されました」

 「やっとか・・・」

 オオカワはコーヒーに手を伸ばすと、ゆっくりと一口飲んだ。

 「この波が消えず、さらに大きくなり続いてくれれば、干渉の効果が出ていずれこの時間の中で変化が起きるでしょう」

 ノジマもコーヒーを手にとった。

 「声が小さいと言うことは、公表には時期尚早、と言うことか?」

 ノジマはコーヒーを手にしたまま続けた。

 「シヴァル計画が発動した時に比べると人々の関心はかなり落ちてきています。変化のないことに文句を言うこともなく再び絶望を感じているのでしょう。そんな寝た子をわざわざ起こす必要はないですよ」

 「確実になってからでも遅くはないか」

 「最も・・・、動きが確実になっても、それがいい変化になるとは限りませんが」

 ノジマはやっとコーヒーを口に運んだ。

 「せめて彼らと連絡が取れればいいのだがな。送り出してからすでに半年が過ぎた。窓さえない狭い船の中での半年は、ここにいるものには想像できないくらい長い時間なのだろうな」

  オオカワはコーヒーカップをテーブルに置くと腕を組み天井を見上げた。

 「メディカルカプセルによって、逆にあっという間に感じているかもしれません」

 ノジマの言葉に、オオカワはそのメディカルカプセルを使えば、自分のこの半年も短く感じたのだろうかと思った。

 



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