揺らぎ
西暦2727年12月 地球統合本部食堂
100人ほど収納可能な本部内食堂には、夕食の時間をすでに過ぎたこともあり人はほとんどいなかった。
その隅の窓際のテーブルで、レジェ・シノハラとカオリ・マシスが向かい合うように座り、遅い夕食をとっていた。
「今年もまた、名だけが残ったクリスマスがやってきますね」
シノハラは綺麗に平らげたトレーの隅にフォークをおいた。
「干渉の変化がクリスマスプレゼントのように届けられるかな、なんて期待してたんですけどね」
マシスは最後に残ったトマトをフォークで突き刺すと、残念そうに言った。
「そちらの観測でも、全く変化はなしですか」
「全く、です」
シノハラはコーヒーカップを取り、トマトを口に入れたマシスはフォークをトレーに戻した。
「波も、何事もないように穏やかなんですよ」
次にコーヒーカップを手にしたマシスは、食堂の窓に目を向けた。昼間なら削られ低くなった山の向こうに海を見ることができたが、この時間はガラスに映った自分の姿しか見えなかった。
人のいない食堂は静かで、時折厨房の中で食器の当たる音がするだけだった。
「こんなこと、上司の前では言えませんけど」
マシスは外に向けていた視線をシノハラに移した。
「向こうに行ってる彼女たちには申し訳ないんですけど、何も変化が起こらなくてもいいんじゃないのかな、なんて思ってしまうんです」
マシスはシノハラの反応を伺うように一旦話を止めた。シノハラの表情は何も変わらない。そのまま話を続けることにした。
「過去への干渉によって、未来へ進みゆく道の角度をほんのわずかでも変えることが出来れば、膨大な時の流れの先では大きな変化をもたらします。けど、それは必ずしもいい変化とは限らないのではないかと。ひょっとしたら、とんでもない世界になるかも知れません。だったら、もう、このままでもいいのではないかと・・・」
マシスは俯き、話をやめた。これは言う人を選ぶようなマシスの本音だった。
シノハラはすぐに他人に話すような人ではなかったが、この話を聞いて自分に対する見方が変わってしまうかも知れないと、マシスは少し不安を感じた。
「わたしは作戦司令長官と言う任に就いていますが、その一方で、平凡な人間です。平凡な人間として、マシスさんのそんな言葉が聞けて安心しました」
マシスが顔を上げると、シノハラは笑顔を向けていた。




