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観測日

世界はそれを「観測日」と呼ぶようになった。


その日、魔王ヴァルザグレスは宣言した。


「我が全霊をもって、この国の“悪意”を裁く。人の理を侵さぬ範囲で、ただ真実を照らし出す――それが、我の世界平和の第一歩だ」


彼が動かしたのは、かつて魔界をも震撼させた秘術――《万魂観応ばんこんかんのう》。


あらゆる思念、欲望、罪悪の波動を“世界の網”として感知し、全ての犯罪的行為を感知・干渉・識別・選別・追跡するという“超次元魔法”。実行には莫大な魔力と精神集中を要し、彼の元世界ですら禁忌とされた術だ。


だが、現代日本で――それは、発動された。


それは、昼過ぎのことだった。空が一瞬、深紅に染まった。魔王城の上空に巨大な魔法陣が浮かび、そこから五芒星の光が世界へと拡散する。


都内の地下アイドル事務所で、違法薬物の製造拠点が突然崩壊。そこに踏み込んだ警察は、現場に“幻の通報者”から送られた魔法のような証拠一式を確認。


中部地方の山中で発見された少女は、誘拐されてから1年。今まさに命を落としかけていたところを、ドアを破って突入した県警が救出。なぜその住所が判明したのか――それを示すのは、地面に刻まれた“魔紋”だった。


同時刻。名古屋では、裏社会の詐欺グループ拠点に雷撃が直撃。焼け跡からは数十台のPC、裏金数億円、そして生配信中だった詐欺電話の録音データが全て残されていた。


そのどれもに、“同じ印”が添えられていた。


――《汝の罪は、既に照らされた》。


観測から3時間で、全国100件以上の進行中の重大犯罪が“収束”した。


殺人、誘拐、詐欺、薬物、組織犯罪、放火、虐待――

それぞれが、超常の力によって阻止され、証拠が残され、容疑者が拘束されていった。


また、未解決事件――いわゆる“迷宮入り”とされた約300件についても、次々と「証拠・現場・遺体・動機・手口」が整理された書簡として警察に届いた。


その中には、戦後最悪とされた“某連続爆破事件”の黒幕、警察内部による証拠隠蔽が示された資料も含まれていた。


国会は緊急召集された。法務委員会、警察庁、防衛省、内閣官房、全てが混乱の渦に巻き込まれた。


ある議員は叫んだ。


「これは内政干渉だ! 魔王は日本の司法を乗っ取ろうとしているのか!?」


だが、ある現場刑事は静かにこう語った。


「この結果が“乗っ取り”なら、俺たちが今まで見過ごしてきたものは一体何だったんだ」


魔王城では、佐倉美月が淡々と報告を整理していた。


「全てのデータは“検証可能”な形で提出されています。証拠改竄はなし。法律に照らせばすべて有効。……ただし、どうやって得たかを説明できる人間は、世界に一人もいない」


「ならば説明の代わりに、結果で示すだけだ」


ヴァルザグレスは疲弊していた。万魂観応は一度に数百万の罪意識を読み取り、その善悪の意味を照らし、魔王の精神を喰らう魔法でもある。


それでも彼は言う。


「我が為したのは、“裁き”ではない。人が為すべき正義を、人が届かぬ範囲で、少しばかり支えただけだ」


「……あなたは、どこまで行くの?」


「世界が、我が手を取る限りは。たとえ、恐れられようとも」


そして、世界中が震撼したのはその翌日だった。


ロシア、ブラジル、ドイツ、韓国、アメリカ――

それぞれの国の刑事機関宛に、“魔王からの供物”が届いた。


中には、数十年にわたって未解決だった国際犯罪、国家的隠蔽、強権による弾圧の証拠と被害者の遺体情報、加害者の潜伏先――全てが入っていた。


国連は異例の緊急会合を開催。「超常存在による正義執行の是非」について、人類が初めて本格的な議論を開始する日となった。


だが、ヴァルザグレスの語る言葉はただ一つだった。


「世界よ。これは試練だ。

 我を利用するか、拒絶するか――いずれにせよ、その選択が汝らの“真価”を示す」


彼の背には、魔王の名にふさわしい黒き威容。


だがその目には、確かに“全ての命を守ろう”とする意志が宿っていた。


――つづく。


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