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伝承の継承者たち

人類の歴史が記録を刻むよりも前――

この世界には、数多の“歪み”が存在していた。


それは現実の皮膜に浮かぶ小さな傷。

空間と時間、そして理と法の裂け目。


人知れず、幾人かの人間たちが、その“歪み”に触れ、異なる次元――“神話の残滓”に手を伸ばした。


彼らは力を得た。

それは“神”とも“魔”とも称されるような異様な力。

人間が持つべきではない、だが確かに宿された力。


**


「我々は“伝承の継承者”。英雄たちの意志を継ぎし者」


廃ビルの地下に再び、彼らが集っていた。

今や彼らは、自らを《記録外の者たち(レコード・アウト)》と名乗っていた。


その中心に立つのは、長い白髪を揺らす女、斉宮カグヤ。

彼女の血筋は、天照大神に連なるとされ、神話の中の“鏡”を通じて力を得た。

「神の火を宿した者。死者の言葉を聞く者。水の律動を自在に操る者。獣の王に選ばれし者……」


カグヤの視線の先には、それぞれ異なる“時代の遺産”を纏った者たちが座していた。


かつて“伝説”と呼ばれた英雄たち。

その力は、いずれも神話や歴史の裏に隠されていた“次元の歪み”との接触によって目覚めたものだった。


しかし、長き眠りから目覚めた今、彼らは悩んでいた。


**


「魔王ヴァルザグレスの存在が、世界の構造を変えた。

ならば……我々は、このまま沈黙していて良いのか?」


発言したのは、鋼の腕を持つ男――“ヤマト・テツオ”。

その肉体は、古代の呪具“鬼の手”と融合し、超人的な力を振るう。


「奴は人類を救い続けている。だが、それは“自由”を侵す行為にもなりうる」

「彼が生み出す秩序は確かに理想だ。でも、それは“人間の苦悩”の否定にもなる」


カグヤが静かに答える。


「ゆえに、我らの中で意見が分かれるのは当然……」


そう――彼ら《レコード・アウト》の中にも、二つの思想が生まれていた。


**


【共生派】

魔王と共に歩むべきだとする者たち。

彼の力を理解し、人類に訪れた変革の時代に適応すべきだと考える。

彼らは魔王を“異次元の隣人”として迎え入れ、協調を望む。


代表はカグヤ。

彼女は語る。


「力を持つ者には、それを正しく制御する責任がある。

魔王はそれを、我ら以上に果たしている。ならば手を取り、共に世界を支えよう」


**

【抵抗派】

魔王の存在が人類の可能性を奪うと考える者たち。

善意の支配もまた“暴力”であるとし、魔王の絶対性に警鐘を鳴らす。


中心にいるのは、“影を喰らう者”クロウ。

彼は元々、紀元前のシャーマンの末裔で、闇に宿る知性を解放した異能の持ち主。


「やつは世界を壊さず、再構築している。だが、それは支配と何が違う?」


「……俺たちは“痛み”を通じて成長してきた。全てを救う力など、毒に等しい」


**


どちらの派閥も、異能力者としての宿命と責任を背負っていた。

だが、魔王との“距離感”の違いが、彼らの分裂を決定づけた。


**


そして、最大の謎が一つだけ残っていた。


――なぜ、あの魔王は《レコード・アウト》の存在に気づいていないのか?

その理由は、カグヤが静かに語った。


「ヴァルザグレスの魔力は“理の書き換え”に等しい。

しかし……我らが得た力は“理の外”にあるもの」


つまり、《レコード・アウト》たちはこの世界の“物理法則”から逸脱した存在。

魔王が操る魔術は、この世界の“法則上”のマナに根差しているため、彼らを正確に感知することができない。


さらに異世界由来の魔王は、この“神話の次元”――過去の異次元から繋がる力にはまだ干渉できない。

そのため、《レコード・アウト》の存在は、未だ霧の中にある。


「つまり……我らが“観測不能の存在”であるうちは、魔王は完全ではない」


だが、それは同時に脆さを意味していた。

もし、魔王が彼らの存在に気づき、敵と見なしたとき――


共生の道も、抵抗の道も断たれるかもしれない。


**


その夜、カグヤは一人、夜の空を見上げていた。


黒き城塞が、遠くに輝いている。

それは月よりも静かに、しかし確かにこの地を見守っているようだった。


「ヴァルザグレスよ。

あなたが救おうとする人類の中に……あなたの“想定外”がいるとしたら、どうする?」


月明かりの中で、カグヤの手のひらに小さな“勾玉”が浮かび上がる。

それは古代より受け継がれる神霊の象徴――彼女の力の源。


そして、その一方で。


クロウもまた、都市の廃墟で不穏な動きを見せていた。

異能力者たちを一つに束ね、密かに《影の記録シェード・レコード》という新組織を立ち上げようとしていた。


「世界を“最善”に閉じ込めるなど、狂気の沙汰だ。俺たちで、その封印を砕く」


彼は既に、魔王の“行き過ぎた干渉”に対する“反抗手段”を研究していた。

その中心にあるのは、“もう一つの次元の裂け目”――

それは魔王の到来とは別の場所に、かつて開かれた“神話の終末点”。


「ヴァルザグレス。貴様の支配が永遠であるならば……俺は永遠に抗い続ける」


**


異世界の魔王によって平穏を得た人類。


だが、その裏で――

神話と伝説を背負った“異能力者”たちが静かに胎動していた。


彼らは、もう一つの“未来”を模索し始めている。


共に歩む道か。

それとも、真っ向から対立する運命か。


そして、まだ魔王は知らない。

自らが築いたこの世界に、“見えざる異分子”が生まれていることを。


――つづく。

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