46 結末と疑問の話
藍鉄はゆっくり手を炎に向けて伸ばす。
「貴方は………僕と同じ、ハグレモノだ」
「鉄?」
「ハグレモノ同士………友達に、なりませんか?」
弱々しい微笑みだが、明らかに蒼月と妖狐の頬は引きつった。
「………はぁ!?」
『ともだち、だと』
蒼月が知るのは戦が始まる前とその直後の社の姿。
それ故、妖狐が土地神として崇め奉られていたことを知っているし、その直後に社から追い出されて妖狐と呼ばれる立場になったことも知っている。
妖狐としても、自らがしてきたことを善だと認識しているわけではないので、この双子の兄妹に強いてしまった人生の想像など、容易にできる。
「はい………友達、です………だめ、ですか?」
『………お前が、そう望むなら』
「………望みます」
『我はここにいる。………いつでも、この社に来るがいい。望みの追加も受け付けよう』
目を伏せる妖狐。
満足そうに笑う藍鉄に、蒼月は肩を掴んで大きく揺らす。
「ちょ、おま、神だぞ! と言うか、妖狐だぞ!?」
「良いじゃないですか………元から、僕と蘇芳は二人ぼっちですし」
元から二人で暮らしていたのだし、それが一人増えたところで何も変わらないと嘯く。
『………我から言うのも難だが………我はお前の両親の仇なのだが』
そう言われて混乱するのは妖狐だ。
「また、来ます。………今度は、蘇芳と一緒に」
『………ああ』
蒼月は混乱しながらも、帰ろうと言う藍鉄の言葉に従って朱色の柱を越える。
―――またね
朱色の柱を出た先は藍鉄の家。
後ろでは、森と一緒に社が透けて見える。
「そういえば………月さんが、助けてくれたんですか?」
「え、あ。助けたってほどじゃ………」
藍鉄を、家の外の長椅子に座らせて、蒼月は暗くなってしまった空を見上げる。
「なんか、僕はまた、月さんに嘘をついてしまったようですね」
「え、嘘?」
「『もう二度と、会うことはないでしょう』って言ったのに………会っちゃいましたねぇ」
あはは、と笑う藍鉄。
「………そう、だな」
「すみません、月さんにとっても、妖狐は仇、でしたね」
「………もう、どうでもいいよ」
見上げた空にある月は丸く、二人だけになったその場所を明るく照らす。
見下されているのに、何だかどうでもよくなってきて、蒼月は微笑む。
こんなに振り回されたけど、この半年の出会いがあったから、何だか自分も変われた気がする、と思う蒼月は、この夜の静寂を楽しんでいた。
「月さん」
「うん?」
「………かっこよかったですよ」
「え? 何が?」
「ふふ、秘密です」
「え? ちょっ、何? え!?」
「月さん、おやすみなさい。多分、お母様が心配されていますよ」
悲鳴を上げて山を駆け下りていく蒼月。
くすくすと笑った藍鉄は、蒼月が見えなくなるまで見送り、自らの式紙を蒼月の家に送る。
「そういえば、この匂い………お父様の焚き染めてた香の匂いに似てる………」
家の中に入った藍鉄は、自らの服の匂いを嗅いで、昔を懐かしむ。
いつついたのかは分からないが、もしかしたら父も何かしら助けてくれたのかもしれないと微笑む。
「一件落着」
紫煙が舞った。




