44 邂逅と綻びの話
蒼月が視線をさまよわせる先で、藍鉄の家の玄関が勢いよく開けられた。
出てきた藍鉄を見て安心する反面、頭に付いた陽炎のような獣の耳と、後ろで静かに揺れる大きく太い尻尾を見て、未だその体は妖狐によって囚われているのだと身を引き締める。
『小童、確かにこの―――っ』
眼前まで来た妖狐は朱色の柱からこちらに来ることができずに、跳ね返されたように地面に転ぶ。
「は? 何してんの?」
『どういうことだ?』
妖狐も、まさか跳ね返されるとは思っていなかったのか、呆然として青く燃える社を見つめる。
―――お帰りなさい
また聞こえたその幻聴に、妖狐が懐かしそうに言う。
『ああ、お前はまだここに居たのか………我のことなど忘れ、生を謳歌してくれて構わなかったのに………』
蒼月には応えなかったその声は、妖狐の声に反応して、嬉しそうに再会を告げたあと、一体ここで何があったのか、妖狐に告げる。
―――封印は二重に仕掛けられて、あの呪い士様も社にたどり着くことができなかったのです
話に置いて行かれている蒼月だが、その呪い士というのが、今でいう陰陽師に当たる人物なのだと言うことが分かった。
『小童』
「なんだよ」
『社の封印を解け。そしたら我は必ずこの身体を返してやろう』
「!! 封印って、どうやったら解けるんだ!」
封印を解けば藍鉄が戻ってくる。
なぜ封印が山に仕掛けられたのかとか、封印は誰のためのものだったのかとか、むしろ今なぜ燃えているのかなんてことは、蒼月は気にしてられる余裕はなかった。
―――あと一つ。封印は地面の………
妖狐の頼みを聞き遂げたその声は、封印が描かれている場所を話す。
どんなことがあっても壊れないように、一番強いその封印は、社を覆う外壁そのものだった。
「そんなの、どうやって壊せっていうんだよっ」
『小童、綻びを見つけろ。我は干渉できないが、その炎は我と同義。小童の助けになろうぞ』
蒼月は綻び、というものがよくわからなかったが壊れている壁がないかと走り回った。
結論から言ってしまえば、少し壁がはがれているところはあっても、壁そのものに穴が空いているようなところは見つけられなかった。
―――あ
炎が壁の一部分に集まっていた。
―――厨房の………
まるで悲鳴を上げたかのように、炎が揺れた。
その炎が揺れるところに向かえば、穴が開いたわけではないが、その土壁の一部が剥がれおちている。
「なんだよ、これ………」
最初は何か分からなかったが、その壁に触れてみて、やっと蒼月にも分かった。
壁の中に、人が埋められている、ということに。
この社がだいぶ古いものだとなんとなくわかっていた蒼月にも、まだそこまで腐っていない眠るようにして埋められているその姿に怖気が走る。
―――ごめんなさい……ごめんなさい………
炎がそう謝る。
見てはいけないものを見てしまったのだと、蒼月は目を逸らした。
『どうした』
「あ………」
炎の揺れと一緒に、そんな声が届く。
『そうか………人柱を………』
妖狐は、ぼんやりと、見たものを否定しようと思考停止した蒼月から視線を逸らすと、声に告げる。
『燃やしてやれ。お前ならできるだろう? ずっと我と共に生きてきたお前なら』
炎はただ一言、やってみる、と答えた。




