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狐の嘘と君の真  作者: 華宵 朔灼 / よぴこ
本編 -中学生-
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43 心中と事実の話

 妖狐は、横抱きにした蘇芳を寝室へと横たえると、感心したように部屋を見渡した。


 『これほどのものをこの年で作り上げたのか………』


 妖狐は確かに双子の母親の中で封印された。

 もともと女性は体の中で魂を育むことができるため、憑かれる、ということに一定の耐性がある。

 そして当時、双子の母は相当の力を持つ巫女で、その腹の中には二つの魂が存在していた。


 『あの娘も面白かったがなぁ』


 助かりたくば魂を差し出せと、目覚めることのない夢の中で持ちかければ、そんなことはしたくないと告げる双子の母である巫女。

 腹の中の子供を喰らうかと言えば、そんなことはさせないと、圧倒的不利な夢の中で六年間も妖狐をその身の中に封じ続けた。

 しかも子供たちの中に妖狐の因子を植え付けることはできたが、芽吹くのにかなりの時間がかかってしまった。


 『魂が三つに分かれるというのは、少し不便だな』


 妖狐の中にある記憶は、双子の母の中でその当人と対決した六年間の記憶しかない。

 藍鉄と言う少年の中にある因子が、蘇芳という少女の中にあった因子を吸い出し取り込んだことで、今妖狐のもともとの魂の大きさに戻っている。


 『しかし、この身体は最高だな』


 ぺたぺたと自分の体を触り、どこにも不具合がないのを確かめる。

 人間の体だから傷の治りなどは相当遅いが、それでもただ人間に憑依しただけではここまでスムーズに体を動かすことなどできやしない。

 母体に封印され、その腹に居る子供に因子を埋め込んだ状態で一定の期間過ごさせれば、いい憑代ができるのだろうと考察し、藍鉄という少年は随分と研究が好きだったのだな、と考える。


 『何にしろ、これからどうするか………』


 耳がピクッと動き、尻尾がファサッと揺れる。


 『出て来い。煙の男』

 「あれ? ばれてたかー」


 目を向けた先に居たのは和装で煙管を加える青年。


 『その姿、確かお主は………』

 「別に思い出さなくていいんだけどね? その体を殺すのは止めて欲しいなーって言いに来たんだ」


 青年はつかつかと妖狐に歩み寄ると、藍鉄の頭をゆっくりと撫でる。


 「この体は、主の子供の物だからね」

 『ふん。心配するな。時が来て回復すれば自然とこの身体は必要なくなる』


 妖狐は頭を撫でまわす青年を歯牙にもかけない。

 逆に青年は抵抗しないことをいいことに、藍鉄を後ろからぎゅっと抱きしめる。


 『気色悪いな』

 「君も分かるだろ? 主と同じ魂の近くは安らぐんだ」

 『………』

 「藍鉄君は主以上の逸材さ。この霊力の匂い、好きだな………」


 鬱陶しくなったのか、妖狐は青年の抱擁を振りほどく。


 「あれ、残念」


 振りほどかれた青年はまた煙管をふかすと、笑って、今度は蘇芳を見る。


 『もし女児を愛でるなら女体になるのをお勧めする』

 「いや、彼女は藍鉄君ほど似てないんだよね。主に」


 だから抱きしめたいとは思わないとため息をつく青年に、冷たいまなざしを向ける妖狐。


 『で? わざわざやってきたのはなぜだ? 我の力とこの身体の霊力にお主は太刀打ちできぬであろうに』


 にやりと笑う妖狐。

 妖狐はこの青年の正体を知っている。

 この双子の父親である陰陽師に仕えていた鬼。それが、この青年だ。

 その首に確かにある契約の傷跡からは、じわりじわりと存在する為の力が漏れだしていることから、きっと主が死んだあともそのまま顕現し続けているのだろうと想像する。


 「確かに。俺は主と共にあんたに立ち向かって、力を削ぐことしかできなかったね」


 青年は柱に寄りかかると、また煙管をふかす。

 思い出すのはぎりぎり勝利ともいえない結果をたたき出した日の出来事。


 「別に昔話をしに来たわけじゃあない。ただ、少しでも時間稼ぎができればと思ってね」


 時間稼ぎという言葉に首を傾げた妖狐だったが、一瞬、魂に走った懐かいという思いに目を白黒させる。


 「運命なのかも、ね。この地は、貴方が守ってきた、豊穣の土地だよ」


 主が調べたことだから、信用できることさ。

 そう言う青年をその場に残し、妖狐は玄関扉をあけ放った。


 ―――お帰りなさい

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