42 火事と青火の話
揺れる青い炎の下に燃料があるはずと、祭壇の中を覗き込もうとする蒼月だが、祭壇を覗き込むことはかなわない。
「あの炎を消せば、もしかしたらこの社に鉄たち陰陽師が入れるようになるかもしれないよな」
そう考えて、蒼月は梯子を探すが、祭壇の近くに梯子はない。
結局本尊を歩き周り、倉庫のような場所を見つけて、木でつくられた簡易梯子を引っ張り出し、祭壇の横にくっつける。
その梯子を上って祭壇の中を覗き込み、燃料が何もないのを認めた蒼月は、がっくりと肩を落とす。
「なんで燃えてるんだよ………」
燃える液体だったらその液体を抜いてしまえばよかったし、燃えるものがあったならその物を取ってしまえばよかったし、酸素で燃えてるんだから、その酸素を塞いでしまえばよかった、とそこまで考えて、酸素も何も塞ぐものを何一つ持ってきていないではないかと思い立つ。
「俺、本当に何してんだよ………」
今まで歩き回った部屋の中に真っ白い布が沢山たたまれて置いてあった部屋を思い出した蒼月は、今まで掴んでいた縄を梯子に巻き、先を祭壇の木枠に括り付け、降りる。
「毛布を被せばきっと消えるよな」
飛ばされないようにと、縄に手を滑らせながら布の部屋に向かう蒼月。
その部屋はすぐに見つかった。
なんせ、その部屋だけ衝立があり、着物が敷いてあるのだ。
「さて………縄持ってなくても大丈夫かな?」
ゆっくりと縄を床に置き、手を放してみて特に変化がないことを確認すると、その着物に手を伸ばす。
蒼月は、歴史の勉強で、ずいぶん昔は羽毛布団がなくて、たくさん着込んでいた着物を掛布団にして、畳の上に寝ていたという話を思い出し、今の次代に生まれてよかったと思いながら、その着物を手に取る。
「これで消せるかな?」
その重たい着物を抱えて、蒼月は祭壇のある場所へと歩き出す。
「え!?」
しかし、蒼月を待っていたのは、祭壇の囲いから出てきて周囲を燃やし尽くそうとしている青い炎だった。
「ちょっ、消えろよ!」
バタバタと着物を振り回し炎を消そうとするが、その行為は炎を煽るだけで、炎の大きさはどんどんと大きくなっている。
―――ふふふ
祭壇の炎の中から聞こえてきていたその声は、今では至る所から聞こえてくる。
―――帰れない物は必要ないの!
ただ笑っていた声がそう宣言すると、蒼月の足元にあった縄がボッと燃え尽きる。
「うわっ」
興味があれば分かったかもしれないが、所詮はただの中学生。
持ってきた縄が細く編んだしめ縄で、途中についているピラピラした紙が紙垂だとは考えなかった。
―――お帰りなさい。これでいつでも帰って来れるよね
青い炎に煽られて、強い風が吹き抜けて、蒼月の体が一瞬地面から浮く。
「しまっ」
蒼月は何かを掴もうとしたが、その手は空をきり、飛ばされる。
飛ばされた場所は朱塗りの柱の手前。
「あれ?」
森の、よくわからないところに飛ばされると思った蒼月は、後ろで煌々と燃え続ける社を見て、目の前の朱塗りの門を見て、変だと首を傾げる。
しかも、その朱塗りの柱の奥に見える風景に見覚えがある。
「鉄ん家?」
朱塗りの柱の奥は、どう見ても藍鉄が暮らしている、ふもとの屋敷だったのだ。




