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狐の嘘と君の真  作者: 華宵 朔灼 / よぴこ
本編 -中学生-
52/59

40 助ける方法の話

 藍鉄の姿をした妖狐は、蒼月へ向けて微笑みながら話をする。


 『なんだまだ何か話すのか?』

 「人は殺せない! でも、何か、他に譲歩できることはないのか?」

 『そうよの………我を崇め奉っていた社の結界を解けば、考えてやらぬこともないな』


 にやりと笑ったその妖狐の様子に、蒼月はどうしようもなく唇をかむ。


 「その社って言うのは、どういうとこなんだよっ」


 しかしそれしか方法がない。

 まだ聞いていないことが沢山あるのだから。

 一度蘇芳が桃をねだって、藍鉄がひとっ走り野生の桃をもぎに家を出て行ったことがあった。


 「月さん、てっちゃんとお友達になってくれて、本当にありがとね」

 「どうしたのさ、いきなり」


 その時が、蘇芳と蒼月の初の会話だったが、共通の会話内容があった為、至って普通に話すことができていた。


 「てっちゃんってね、頑張っちゃうの」

 「うん? どゆこと? 頑張るのは普通だろ」


 何かできないなら頑張る。

 夢があるなら努力して当然。

 許せているわけではないけれど、未だに妖狐という存在を倒すために剣の腕を磨いている蒼月は、勉強には精が出ていないが剣には精を出しているつもりだ。


 「あのね、てっちゃんはね、限界を知らないの」

 「限界を知らない?」

 「そう。頑張って頑張って、倒れて初めて頑張ってるってことが分かっちゃう人なの」


 悲しそうにつぶやく声。


 「誰にも何も言わずに、私にだって言わずに、危険の中に突っ込んで行く人なの………あのね。てっちゃん、陰陽庁からよく呼ばれて、怖い任務について帰ってくるの。何度か血まみれで帰ってきたこともあった」


 襖の向こうだから正確な表情は分からないが、きっとその眼は伏せられて、膝では拳が握りしめられているのだろうと容易に想像ができる。


 「血だらけで帰ってきたてっちゃん、なんて言うと思う?」 

 「え? 鉄の言葉? うーん………ただいま、とか」

 「うん。そう」

 「へ?」

 「それだけなの。絶対に弱いところを言わないの。頑張った結果だからって、話さないの」


 大丈夫さ、生きてるんだから。

 何度も言われてそれが当然になるのが怖くて、今話したのだと言われて、蒼月は首を傾げる。

 なぜ自分に言うのかと。


 「だって、てっちゃん楽しそうだもん! 私以外とおしゃべりしたこととか多分あんまりないと思うよー」


 だから、てっちゃんが無理をしてるって思ったら、殴ってでもいいからそれが無理をしてることだって教えてあげて? 私は外に出られないから。

 その時は何も言うことができず、確かな返答ができなかった蒼月。


 ―――君は、僕に騙されていたんだ


 微笑んだ藍鉄の姿が脳裏に浮かぶ。

 頑張って頑張って、何に頑張ってるか分からなくなってるそんな愛すべき友人。

 その友人の頭に、もっと俺を信頼しろと拳を叩き付けるには、この妖狐を引きはがさなきゃいけない。


 『この身体のと同じで、お前の魂もずいぶんと真っ直ぐよの』


 では教えてやろうと言い、妖狐は笑う。

 すっと伸ばした藍鉄の手が蒼月の額に触れた瞬間、蒼月の頭の中に映像が流れ込んでくる。


 「あ………あ………」

 『口で説明するよか簡単で、正しいであろう?』


 魂に刻まれた記憶の転写。

 そんなこと、普通の者では無理だろう。

 しかし曲がりなりにも神だったモノだ。その程度、息をするようにできることの一つでしかない。


 「あ、れ? でも、ここって」

 『ふむ、小童は知っておるのか?』

 「知って、る。知ってるかもしれない! あの山の社!!」


 蒼月の顔は笑みで溢れる。


 「絶対に藍鉄を返してもらうからな!」

 『やれるものならやるとよい。我はこの小娘を運ばねばならぬ故』

 「蘇芳にも手、出すなよ!」

 『分かっておる。そうだな………この身体の家にでも居るかな』


 蒼月はそれを聞いて頷くと、一気に駆けだした。

 妖狐は、その姿が消えるまで見送って、足元で眠る蘇芳を腕に抱く。


 『人とは脆いな』


 誰に言ったわけでもないが、ただ呟かれた独り言をその場に残して妖狐の姿も掻き消えた。


 「確かにね」


 崩壊する家の真上で、紫煙が揺れていた。

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