39 恐怖と気概の話
野菜があまり届かなくなった。
もともとあまり食べる必要のなかった少女は、巫女と料理人に食べるように促し、自らは土地神と最近の現状を憂いていた。
「どうになりませんか?」
「そうだね………我から動くことはできない。相談が来たら我を呼びなさい」
少女は待った。
どうにかしてくれと人々が社に泣きついてくるのを。
「土地神様のお力でお救い下され!」
少女は喜んだ。
その声に応えられると。
やっと人々が元気になるように土地神様が行動してくださると、少女はただ喜んだ。
『我が止めよう』
土地神のその言葉に人々は浮かれた。
そして忘れた。
近すぎて考えなかった。
土地神は、その力を持って西と東の国を滅ぼした。
「ありがとうございます、土地神様」
『我の愛する人が無事ならばそれで良い』
最初に土地神に恐怖したのは、戦場に足を運んだ者たちだ。
人に成しえないことを軽々とやってのけたその技を、戦場で見た者たちは自らの家で家族に伝え、その言は広く多くの人に伝わった。
「土地神様は守ってくださった」
人々は喚起したが、それと同時に不安になった。
もしも土地神が自分たちにその怒りを向けるようなことがあれば、簡単に滅ぼされてしまう。
「土地神様への供物を増やすべきではないか?」
土地神への貢物は、完全な供物へとなった。
人々は、ご機嫌取りの為に社へ向かうようになり、最初にあったような純粋な気持ちはなくなってしまった。
「他の土地の者が入れぬように社の周りに結界を張るべきだ」
「そうだそうだ!」
人々は何人かの地元の呪い士に、社の周りに強固な結界を張ってもらった。
土地神はいぶかしんだが、別に社が破壊されたわけでもなく、愛する人々がやることだからと、肩をすくませ見守った。
「今度は別の者を送り込んできました!」
「土地神様!」
人々が自らの力で脅威を追い出そうという気概は消え失せていた。
すべて土地神様に頼れば何とかしてくれる。
そんな思いが、土地中に蔓延していた。
『分かった』
振るわれる強大な力。
振るわれれば振るわれるほど思い出す思い。
もしその力が自らに振るわれたら?
「土地神様、次はこちらを」
「その次は―――」
「その次は―――」
「その次は―――」
「その次は―――」
「その次は―――」
「その次は―――」
「その次は―――」
「その次は―――」
人々は土地神を社に返さなかった。
『そろそろ社に帰らねば力が―――』
「でしたらこの者の魂を土地神様の為に捧げます」
『………分かった』
結界で厳重に封印された社では、少女が一人夢の中で土地神の帰りを待ち続けていた。
巫女や料理人は、誰も訪れなくなって社から消えて行った。
少女は誰も来ない社で、自らを生かしてくれた土地神を待ち続ける。
「今日は帰ってくるかしら、―――様」
魂を食べて、人間の負の感情に感化され、土地神は神から妖怪へと転身する。
社の中でひたすら待ち続けていたその少女がその命を落とした時、土地神は妖狐としてその身を堕とす。




