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狐の嘘と君の真  作者: 華宵 朔灼 / よぴこ
本編 -中学生-
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38 人と神と戦の話

 民に届けられる豊穣に変わりはない。

 しかし、その豊穣に目を付けた権力のある人は、その豊穣を得ようと手を伸ばした。

 その豊穣を得ている土地を治める者は、大抵土地神と直接会い見え、心までその神に恐怖を抱いていた。

 しかも人を愛していたから、人が苦しむようなことがあれば、社に民が報告しようものならば、土地神は遠慮なく土地を収める者の夢の中に現れた。


 「なぜだ!」


 だからこそ、この土地はどんな権力にも感化されずにその姿を保っていた。

 どちらの天皇に属するかと話を持ちかけられても、突っぱねていられたのは土地神の力が確かなものであると確信を持てていたからだ。


 「もう、父上の考えは古いんですよ」


 しかし、土地は土地。

 人である限り、その思いを止めることはできない。

 鼻の前に餌を釣らされて、我慢できるようなものはごく僅かであろう。


 「土地神様に逆らおうものなら、我が一族がどうなるかも、お前は想像がつかないのか!?」


 相手は神。

 しかも、超常現象を簡単に起こして見せる神。

 そんな存在を目の前にして、苦言を言われれば、当然神の愛する人が有利な方向へと傾くだろう。


 「父上、神子様がお望みなんですよ? 土地神ではなく、現人神が!」


 天皇は現人神。

 それは、全ての人の共通認識。

 しかし、一度、夢の中でも神と直接対峙したことのあるその男は、自らの息子のこの行動を嘆くしかなかった。

 現人神とはいえ、所詮人間となってしまった神の末裔より、今現在末席とはいえ神として名を連ねている方が怖い。

 土地を治める男とその息子では、認識が大きくずれていた。


 「お前は知らないからそんなことを」

 「大丈夫です。もうこの国は私が治めます。父上の好きにはさせません」


 息子が父親の褥を手に持つ大太刀で切り裂く。

 まだ寝間着のままの父は、その行動に愕然と目を見開く。


 「お前、私を殺すと言うのか! 実の父をッ」

 「そんなことは致しませんよ。父殺しにはなりたくありませんし。父は不治の病にかかり、離宮で養生する、ということを民に告げるだけですから」


 息子は嗤う。

 そして不平不安を持って、自らを支援してくれた者たちを使って父親を離宮へと閉じ込める。

 今まで父親が座っていた上座に自らが座り、その息子はほくそ笑んだ。

 これからの為に何をしようかと、地図を広げ、腹心を呼ぶ。


 「資源は潤沢、どちらに着こうともわが土地に勝利を………そうだな、税を上げて影響力を広げるか」


 腹心と悪い笑みを交わした王に成り代わった息子は、土地神の愛する人間に手をかける。

 それがどんなに愚かなことか、気にせずに。


 「ああ、どうして………天皇様方の諍いで揺らいでしまってはこの土地は………」


 離宮に閉じ込められた前王となった父親は嘆いた。

 離宮を訪れる自らを信用してくれている腹心たちは、同じく土地神の恐ろしさを知る者たち。

 逆に現王である息子の周りに居るのは、土地神の恐ろしさを微塵にも知らない者たち。


 「争えば民は疲弊し、土地神様が現れる………」


 現王はそれからうまくやった。

 しかし、うまくやり過ぎた。

 影響力を持ちすぎてしまったのだ。

 もはや中立として、話を聞き流すことはできない立場まで来てしまった。


 「どうする………」

 「どうする、と申されましても………北か南か、どちらかに着けばよろしいのしょう?」


 選ばせてやるから、こちらに来いよ?

 との脅しが再三届くようになり、どんどん直接的になって行くその書簡に、元王は決めかねていた。


 「大変です!」

 「どうした」

 「西が北に、東が南に付きまして」

 「知っている。それだけか?」

 「いえ、ここに書簡が」

 「何だと!」


 届いた書簡は、戦争を告げるもの。

 どちらにも頷かない国は要らないと、そう天皇がおっしゃられたため、この国の西と東に在る国が戦争を持ちかけてきたのだ。

 その土地寄越せと。


 「戦だ!」


 王は、やり過ぎた。

 情勢はごろごろと坂を転がり落ちていく。

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