35 笑い嗤う狐の話
藍鉄の下に居た蘇芳と、藍鉄の周囲に渦巻く風が調度品を壊していく。
壁に駆けられた掛け軸は細切れになり、飾られた調度品は部品に分解されていく。
『ふぅ。つまらん。時代が移ろうと人は変わらぬか………』
いつぞや霊体の状態で封印しようとしたあの心の綺麗な青年は、結局のところ少数派だったということだ。
『さて。この娘はどうしようかの』
無意識とは恐ろしいものだ。
藍鉄は、その意識を無くしても、蘇芳を守った。
その心意気には好感を得ていた妖狐としても、ここで自らの力の被害で蘇芳を殺してしまっては寝覚めが悪い。
「て、鉄っ!」
床で気を失っている蘇芳に手を伸ばしていた妖狐は、入り口で聞こえた幼い声に顔を向ける。
『何用か? 小童』
「っ!」
さっきまで無かった、蘇芳のよりもはっきりした耳と尻尾と、藍鉄の声ではないその声に、蒼月は目を見開く。
『ふむ。お前、見た所、ただの人間だろう? 我の前に姿を現すなんぞ、喰ろうて欲しいのか?』
にやりと微笑む妖狐だが、蒼月の方へと手を伸ばしはしない。
別に妖狐が力を使えば、その力の補給の為に他人の魂の力を必要とするが、時雨が言った通りその燃費はかなり良い。
蒼月に興味を示したわけではない。ただ、暇な時間を弄んでいるという感覚だ。
「お、お前は妖狐………なのか」
『そうな、我は妖狐なり。何用か答えよ、小童』
「そっその、貴方の宿主を、返してくれっ」
後ろには何もない。
しかし、その心は後ろに下がることを許さない。
目の前から寄せられる殺気とも言えるような視線に、縮む心に発破をかける。
『小童はこの身体のと知り合いか?』
「友達だ!」
吠える。
その返答に、一瞬目を見開いた妖狐は、口元に袖を持ち、笑う。
『くっくっく………小童、お前は自らの体のみを寄越せと言われて、素直に差し出せるか?』
「………無理、です」
『そうさ、できまい? それは我も同じ。魂と体を引き離すだけでもどれだけの力が必要となるか………いや、そう言っても小童には理解できまいな』
自ら言った言葉を自ら否定して、首を傾げる。
『おや? なんだ、小童。お前震えているのか。我が怖いのか? ん?』
「っ」
『そうだろう、そうだろう! 我は今すぐお前を殺すことができるような妖怪だものなぁ』
手を広げて見せる藍鉄の姿をした妖狐に、半歩足が下がる。
『アハハッ! 冗談だ。話を聞かないほど我は気が短くないし、そこまで飢えていない。それに、喰らうならまずこの娘の魂を喰らうだろうよ? 霊力が高い方が美味い』
妖狐は蘇芳から立ち上る霊力の匂いを嗅いで目を細め、舌なめずりをする。
『で、だ。この身体、藍鉄と言ったか? 返してほしいならば、代わりの体を差し出せ………それで我が了承するかは、また別だが、な?』
妖狐は思い出す。
もう二度と戻れない自らの居場所を。
それを差し出されなければ、藍鉄から離れる気などさらさらない。
それは、普通の人間には無理なことで、陰陽師にすら難しいこと。
この小童が話す友達とやらも、結局はその程度の者なのだろうと、藍鉄の姿をした妖狐は肩をすくめて嗤う。
次が狐の話になるので、1日空けます。
切りがいいし、PC買いに行くからな!
と、言うわけで、恐らく次の更新は4日0時です。
原作者共々、感想などを画面の前で待ってますw




