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狐の嘘と君の真  作者: 華宵 朔灼 / よぴこ
本編 -中学生-
42/59

30 真実と破壊の話

 微笑んだ藍鉄の顔が月に照らされて、まるでもう会えないという言葉が真実のものであるのだと錯覚しそうになる蒼月。


 「最後のお願い、ですから」

 「………そうやって、また俺をっ、騙すのか?」


 唇を噛みしめ、悔しそうに言葉を吐き出す蒼

 せめてもの抵抗だ。


 「………僕は、蘇芳と共にここを出て行きます。もう、月さんに会うこともないでしょう。そう、僕が目の前から消えるその時まで、月さんは僕と言う狐に騙されていた」

 「………」

 「だから、最期のお願いも、騙されてください。耳を貸してくれるだけでいいんですから」


 眉根を寄せた蒼月は、下を向き少し悩んだあと、耳を藍鉄の方へと向ける。

 藍鉄から寄せられる言葉を待って。


 「ちょっと痛いですよ」

 「え? ……ッ!」


 ガリっと音が蒼月の頭に響く。

 耳を貸して。

 その言葉から、言葉を継げたいから耳をこちらに向けてくれ、と理解していた蒼月には、その痛みは足の先まで響いた。


 「………月さんの血は、ちょっと甘いですね」


 痛みと不快な音に目を閉じていた蒼月は、ゆっくりと目を開け、すぐ近くに居るはずの蒼月へと目を向ける。


 「な、なんだよ、それ………」


 そこに跪く藍鉄の顔は、普段のものと少しばかり違っていた。

 獣のように縦に割れた瞳孔。

 普段よりもわずかに尖った耳。

 腰あたりまで伸びた漆黒の髪。

 そして、白い頬に刻まれた、目の下に走るその印。

 しかし、確かに蘇芳とは違うその姿。

 耳も生えていなければ、尻尾も生えていない、ただの人間の姿だ。


 「………これが、僕の本当の姿です。どうです? 本当に狐か何かだと思ってましたか?」


 藍鉄は、蒼月の耳の皮膚を噛み、得た血によって自らを強化する。

 当然身を縛る呪術的に強化されていない紐など、半妖化したその体には拘束力などまるでない。


 「僕は貴方に二つ嘘を吐きました。一つめは、絶対にばれてはいけない、と言うこと。これだけ妖力をダダ漏れにすれば、誰でもバレてしまいますし、ね」


 自嘲気味に笑い、手首と足首についた綱の後をさする。

 さすがに半妖と化した体だとしても、その傷の治りが早くなるわけではない。


 「二つめ、は………」

 「一緒には逃げません」

 「え!?」


 ここから出ていくというのだから、当然連れていてもらえるのだと、そう蒼月は思っていた。

 しかし、蒼月を見る藍鉄の視線は、なんとも静かで、今まで危険の中にあったとは思えない。


 「僕は今から、この部屋の入口を壊します。月さん、あなたはここに居てください」

 「えっ」

 「耳を見れば、僕に噛まれたのだと分かるでしょう。よかったですね、これで貴方は無罪放免だ」


 蒼月が見たことのない。いや、蘇芳でさえ見たことのない笑顔で微笑んだ藍鉄の周りには、凄まじい力の奔流が渦巻く。


 「おい、ちょ、ちょっと待てよ! 俺、俺はっ」

 「君は僕に騙されていたんだ」

 「待てっ、ちがっ俺」


 すっと水平に上がった腕が、牢屋の檻を指差す。


 「“壊れろ”」


 その言霊通り、溢れていた力の奔流が牢屋へと向かい、鉄格子を内側から爆破する。


 「うわぁっ!」

 「ん………本気出すの久々で………派手に壊しすぎましたかね?」


 爆風で転がった蒼月の周囲と、それを起こした張本人である藍鉄の周囲はそのままだが、内側から破壊された鉄格子はどろどろと床や天井へ飛び散り、まるで溶岩のように煮え立っている場所もあれば、氷柱のように尖って垂れ下がるものもある。


 「それでは、さようなら。もう二度と、会うことはないでしょう」

 「待て! 俺はまだ聞きたいことがっ!」


 無残な姿になったその鉄格子の跡を跨いで外へと出ていく藍鉄。

 鈍色に染まったその着物を体を覆う紫色の光と共にはためかせて、真っ直ぐ上階への階段へ進んでいく。


 「鉄―――!」


 手足の拘束を取ろうとしても、うまくいかない。

 置いて行かれた蒼月は、ただ無力に藍鉄のことを呼んでいた。

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