29 牢屋と格子の話
藍鉄が目を覚ました独房の周りには、必要以上の札や呪術が何重にもかけられていて、それを視た藍鉄は鼻で笑った。
「………鉄」
まだ気怠い頭を動かすと、初めてできた友達の不安げな表情が藍鉄の目に入った。
「鉄、お前………」
次に来る言葉は予測してある藍鉄は、静かに目をつぶり、周囲の様子を確かめる。
いくら妖怪の力を呪術で封印しても、子供の力を牢屋に閉じ込めて物理的に封印しても、藍鉄がその身に宿す霊力の妨げにはならない。
「お前、本当に………妖狐、なのか?」
聞けば答えが返ってくる。
そんな生ぬるい環境で生きてきたこの友人に交換を覚えていたが、それも切り捨てるべきなのかもしれないと、今までそんな友人をそばに置いてきたことこそが間違いなのではないかと、藍鉄は考え、不安げな蒼月の瞳に焦点を合わせる。
「なんで、俺に黙ってたんだよ………」
「よく考えてくださいよ」
「っ! 時雨もお前も“良く考えろ”って言って、答えを教えてくれないじゃないか!」
蒼月の叫び声は、暗い地下牢に響く。
藍鉄は痛む体を持ち上げ、どこも折れてたりしないか確かめる。
手足は相変わらず紐で縛られているが、能力を制限する札で伽藍締めにされているわけではない。
「分かるでしょう? もし僕が妖狐だと分かっていたら、月さんはきっと僕を殺す………それが分かっているというのに、わざわざ殺される為に月さんに僕が告げると思いますか?」
そのまま身を起こして気持ち姿勢を正して、正面から蒼月を見る藍鉄。
「………」
「どうです? そうは考えませんでした?」
蒼月は何かを言おうとして、口をパクパクと開け閉めするが、結局言葉にはならずに黙り込む。
「………僕は最初からずーっと、貴方に嘘をついてきました。でも、そうですね。これだけは本当です。月さんと友達になれて、嬉しかったです」
告げる言葉が見つからない蒼月を置き去りにして、藍鉄の独り語りは続く。
「月さんと過ごした日々は楽しかったです。僕たち双子に安息を与えてくれた」
「………ろ」
どこか遠くを見つめるような藍鉄の視線の先を見るのが怖くなった蒼月は俯き、下を向いて形にならない言葉を放つ。
「月さんが持ってきてくれた話は、とても楽しかったです」
「………ろ、よっ」
飄々と、何の感情もこもっていない、至って平坦な声色でそう告げる藍鉄に、蒼月は拳を握りしめる。
「蘇芳のことを知っても、月さんは黙っていてくれた。守ってくれた。一度は覚悟しましたけどね………本当に、ありがとうございました」
「やめろよっ!」
「………」
言葉だけのお礼に頭を下げるという動作を付け加えて行った藍鉄に、蒼月は言葉を荒げる。
「何だよっ! その、言うだけ言って、どっか行く気満々ですって、そんな感じの台詞………!」
「………だって、そのつもりですから」
少し驚いたような顔で蒼月を見返す藍鉄の視線。
「そうですね………じゃあ、最期に、月さん」
「………なんだよ」
「………耳を貸してください」
「はぁ?」
藍鉄はにっこりとほほ笑む。




