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狐の嘘と君の真  作者: 華宵 朔灼 / よぴこ
本編 -中学生-
40/59

28 実験と結果の話

 ああ、水の中に居るんだろうか。

 苦しい。

 苦しい。

 水面はどこだ?

 もがいてももがいても手に触れるのは重たい水ばかり。

 浮かんでいるのか沈んでいるのか、上も下も分からない。


 「“起きろ”」

 「―――っは!」


 冷水がかぶせられて目が覚める。

 むせ返る匂いと、合わない焦点を無理やり合わせれば、物の怪を雑巾絞りにしている時雨の姿が目に入る。


 「どうしたらお前の妖狐は目覚めるんだろうな?」

 「―――っ」


 完全な霊体である妖怪とは違い、一般的に物の怪と言われる類のモノは実体があるモノが多い。

 その物の怪らしきものの血が、上から降り注がれる。


 「げほっ」


 足も腕も拘束され、おそらく背中、床にも妖気を抑える布陣が敷かれているのだろう。

 藍鉄は咳き込むことしかできなかった。

 もがこうとしても、呪符によって抑えられた身体は動かないし、動けば動くほど床の拘束がきつくなる。


 「うーん………妖狐に憑かれた人間は血に反応するって書いてあったんだがなぁ………」


 手元の文献と、足の下で血だらけで咳き込む藍鉄を見比べる。

 時雨はその文献と手に持っていたこと切れた物の怪を放り投げると、次の文献に手を伸ばす。

 文献が血に塗れることなどお構いなしに。


 「次は………心臓か」


 その言葉を聞いて、藍鉄の中に巣食うナニカが暴れだす。


 ―――喰ワセロ


 歯が軋むほど噛みしめ、目をつぶり、その暴れる衝動を懸命に抑え込む藍鉄の姿。


 「なんだ? 怖がってんのか?」


 その姿を見て、時雨はほくそ笑んでいた。


 「見た目通り可愛いところもあったんだな。あ?」


 藍鉄と蘇芳は双子。

 その容姿は様々なところが似通っている。

 二人ならんで、きっと同じ感情を持った状態で並ばれたらその差がほとんどないほどには双子である。

 ただし喋れば一発で分かるだろうが。

 どこか中世的な二人の顔立ちは、きっと父譲りなのだろう。


 「ほら、まだ動いてる心臓だ。食えよ」


 息をしようと開かれた口にまだ血が滴り鈍く動いている心臓を押し当てる。

 藍鉄は酸素を求めてあえぐが、中に入ってくるのは鉄の味。

 咳き込めば咳き込むほどその鉄はの味は口の中に広がり、喉の奥まで入り込み、生理的な咳を誘う。


 「ちっ………」


 時雨はこれも違うかと、また次の文献をあさる。

 妖怪拘束用の呪術は、妖怪の妖力と体力を同時に削る画期的なものだが、それを使われればこうなることはすでに藍鉄も自らの体と蘇芳で実施済みだった。

 だからこそこうやって少しの間耐えることができたが、消す気がない時雨の呪術は体を蝕み続け、そこまでで藍鉄の意識は暗闇へと戻っていった。


 ―――蘇芳、無事かい?


 この世でたった一人の肉親の姿を思い浮かべて、藍鉄の意識は暗がりへと転がり落ちる。

 次にその暗がりから這い上がったのは、暗くジメジメとした独房の中でのことだった。

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